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【瑠璃の冬の物語】後編

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瑠璃の冬の物は『冬』をテーマに苦しく辛い人生も、あえて書いてみました。眼に見えない力がいつも私たちを見守ってくれている、そして自然はいつも私たちに見えない手を差しのべてくれてるように思います。波乱の人生を歩んできた瑠璃の生きざまが、どこかで読んでくださった皆様のお力になれていたら嬉しいです💖
【瑠璃の冬の物語】その15

頭に梅の落とした岩があたり、掴まっていた枝から手が離れた瑠璃は、激しい流れの中へと落ちていった。

瑠璃のからだが水の中へと落ちていったその瞬間、一匹の金色の龍が現れて、瑠璃を包むように抱くと流れの中に沈んでいった。

いつにも増して水かさが増えた流れは深く激しく、沢を下り、滝になり、深い鍾乳洞のトンネルの中へとゴウゴウと流れ混んでいった。

長い長い時間激流に流されながら、瑠璃は不思議なことに息が苦しいこともなく、まるで暖かな光に抱かれて、春の日溜まりでまどろでいるような不思議な安らぎを感じながら水の中を流されていった。

やがて、龍はまる一日水の中を旅した瑠璃の体を、光の降る浅瀬へそっとおろすと、また水の中へと姿を消した。

そこは、不思議な場所だった。。


🍂続く
【瑠璃の冬の物語】その16

体を撫でる暖かな手は、記憶の彼方の母の姿を思わせた。
ぼんやりした意識のなかで、誰かの呼び掛ける声を聞いたような気がした。

夢の中で、故郷の野山を父様と歩いている幼い自分がいた。
父様の手をしっかりと握って、
それは優しく温かく大きな安心と繋がっている感触だった。
すべては夢だったのだろうか
「父様」
そう、声にした自分の声で、瑠璃は目を覚ました。

「起きたようだね。気分はどうだい」

2人の男女が、瑠璃を見つめていた。髪は銀色で、真っ白な肌、七色の光を放つ不思議な服を着ていた。
「ここは天国?」

あたりの不思議な光景に、瑠璃が訪ねると、女が笑っていった
「いいえ、ここはこの世よ。
あなたは川の流れに運ばれて、ここへきたのよ。」

男性が続けた
「あなたはずいぶん長いこと眠っていたから、もう、目を覚まさないのかも知れないと、心配していたところだったんですよ」
二人は顔を見合わせて微笑んだ。

あたりを不思議そうに見回す瑠璃に、女がいった。
「不思議なところでしょう?私たちも流されて、ここにたどり着いたのよ。あなたは、あの洞窟の向こうから流れてきたのよ」
そこには大きな鍾乳洞のトンネルがあり、この中から流れ出た水が、瑠璃のいる広場のような場所の脇を、勢いよく流れていた。

天井が数ヶ所抜けていて、その広場になったところへ、筋になって光が降り注いでいた。
なんて綺麗な光、そう思って眺める瑠璃に、男が話しかけた。

「綺麗な光でしょう。ここは、あの水の流れが作ったんじゃないかと思うんですが、私たちもあの流れの来る先も、ここから流れていく先も、知らないんですよ。
だけど、天井から降り注ぐあの光のお陰で、地底のここにもわずかに植物が育って、私たちの命を繋いでくれてるんです」

そういわれて、あたりを見回すと、そのあたりだけ緑の草木が繁り、見たことのない花も咲いていた。

「長いこと眠っていたから、おなかがすいたでしょう。これはとても栄養のある木の実なの。良かったら食べてみない」

女がくれたのは、始めてみる木の実だった。


🍂続く
【瑠璃の冬の物語】その17

女のくれた実は、故郷の山で食べたの野イチゴや桑の実のような味がした。 そして、不思議なことに実を食べるほどに、苦しかったことも辛かったことも、みんな体の中から消えていくような軽やかな気持ちになっていった。

幼い日の父の姿、野に咲くタンポポやれんげの花。忘れていた風景が甦り瑠璃は目を閉じた。
胸の奥から懐かしい温かな思いが次々と込み上げて、閉じたまぶたから涙がポロポロとこぼれ落ちた。      

その姿を見て女が、どうしたのかと尋ねた。

「ずっと忘れていた、父様との懐かしい幸せの風景を思い出したんです。忘れてはいけない大切な思い出なのに、歯を食い縛るように生きていて、大切な記憶があったことさえも忘れてました。不思議です。この実を食べたら、体が軽くなって、心の中に幸せな気持ちが次々に浮かんでくるんです。」

そうなのと、女は笑っていった。
「この実は不思議な実なの。体に力をくれるだけじゃなくて、心にも力をくれるから、きっとあなたは懐かしい大切な思い出を思い出せたのね。

生きている時間は不思議なものなの。今、あなたはずっと幼い子供の頃の思い出を昨日のことのように感じているでしょう。
すべては一瞬の中の出来事のようなもの。過去も未来も今も同じようにあるんだって。ここにきて、それをとても強く感じたのよ。

あなたが思うどんなときも、心に呼び出して今起きていることのように感じられるのよ。本当は人は自由な心で、幸せを自分の心の中から呼び出して使えるのに、その事を忘れてしまって、悲しみや苦しみに心を縛られてしまって、それはとても残念なことよね。
あなたが幸せを感じた時間を、楽しんでみたらいいわ。そして、良かったらあなたの話をお聞かせくださいね」
 
少しずつ元気を取り戻して、瑠璃は今までの境遇を、ポツリポツリと話し出した。 

🍂続く
【瑠璃の冬の物語】その18

女は瑠璃の話を聞き終わると、優しい笑顔で尋ねた。

「いろいろ経験したのね。それで、あなたは、その人生が好きかしら?」

思いがけない質問に、しばらく瑠璃は考えた。

辛いことも、苦しいことの多い人生だった。人の心のエゴや裏切りや、底無しの泥沼のような心もたくさん見てきた。
でも、母さまの愛で生まれ、父さまに愛されて育ってきた。野山の美しい自然のなかで生きる素晴らしさも知った。愛する弥彦と出会い、可愛い子供ももうけた。
幸せだけとは言えない人生だけど、なかった方がいい人生だったろうか?

「もっと楽に幸せに生きられたら…とは思います。でも、両親や大切な弥彦さんや子供とのであいが、この人生の中にしかないのなら、私は自分の人生が好きです」

「ここは時間が止まったような不思議なところ。食べるものに不自由することもないし、老いることも病気も心配もなくて、ただ静かに時が流れていく毎日。私たちは、ここでなにかを産み出すことも、新しい経験をすることもない代わりに、穏やかに自分の時間を過ごすことができるわ。あなたがずっとここに留まりたければ、いつまでもいていいのよ。」

女の言葉で、瑠璃は自分がどう生きたいのか考えた。

「もしも、ここに弥彦さんがいたら、一緒にここで暮らしたいと考えるかもしれません。でも、可愛い子が成長をせずずっと赤ん坊のままなのは、きっと辛いと思います。やっぱり、私はもとの世界で、弥彦さんや子供と一緒に生きていきたいと思います」

瑠璃の言葉に、女は頷くと傍らにいる男と一緒に立ち上がって、瑠璃を手招いた。

「あなたは、そう答えるんじゃないかって思っていたわ。あなたに、お見せしたいものがあるのよ。一緒に来てくれるかしら」

瑠璃は二人のあとについて、流れのわきの洞窟の中へと入っていった。


🍂続く
【瑠璃の冬の物語】その19

2人に連れられていった場所は、洞窟の天井から光がさして、その下に生い茂る木々が虹色に輝いている場所だった。
光のさす中央に大きな木が繁り、その枝には見たことのない虹色に輝く実が実っていた。
荘厳な美しさに見とれる瑠璃に、2人は木を囲むように座ると、瑠璃にも座るように促した。

「ここにたどりついたときに、私たちは食べるものもなくて、あちこちを探して洞窟をさ迷ったのよ。その時に、この美しい場所を見つけたの。もしかして、外に通じる道がないかって探したけど、この場所だけ天井が割れて光がさしていたの。でも、あまりにも天井までが高くって外に出るのは無理だって、諦めたの」

そして、男が口を開いた。
「私たちは、もう最後と覚悟を決めて、死ぬならここで死のうと。そして、命の最後に美しい景色を見せてくれたことに感謝して、この木を囲んで感謝の祈りを捧げようと考えたんです。

どのくらい時間がたったのかわからなかったが、私たちは死なずにただ時が過ぎて、ある日美しい月の光がさした日に、この木に、虹色の実がなったんです。その実を食べて私たちは、生きてきた。なんのために命を繋ぐか、私たちもわからない。ただ、愛と感謝をこの木に祈ると木が幸せそうに見えてね、ここで瞑想をして、祈りを捧げることを日課にしてるんですよ」

瑠璃も2人と共に静かに座って時を過ごした。

木々の上に見える天井は果てしなく高く、瑠璃にもとても登れないと思えだが、女がこんなことを言った。

「実はあなたが流れ着く前の日に、ここで瞑想をしていると不思議な夢を見たのよ。それは、真っ白な大きな鳥に捕まってこの木から空に登っていく人の姿なの。あなたも同じ風景を見たのよね」

男に同意を求めると男も静かに頷いた。

「この木の葉はとても丈夫なの。私たちはこの葉の繊維で織った服を着ているの。また見たことはないけれど、あの夢に出てきた大きな鳥がもしも、飛んできたらあなたは、その鳥に捕まって、あのわずかな隙間から、もとの世界に帰っていけるんじゃないかしら」

あの木に鳥が、外の世界から飛んでくる。それは奇跡に近いことだろうと瑠璃も思った。だけど、瑠璃はどうしてももう一度愛する家族に会いたいと思った。そして、2人の夢の話を信じて、その時にかけてみようと考えた。

「可能性があるなら、試してみたいと思います。木の葉から繊細を作る方法を教えてください」

女に頼むと、その日から瑠璃は、木の葉を繊維にして縄をない、木に素早く登り、石つぶてを投げてものをとらえる練習を始めた。

どれ程の時が流れたのか、瑠璃の作った綱は長くしなやかに山になり、木には素早く登り、石つぶては小さなものも捕らえることができるようになった。
瑠璃は、故郷の山で真似ていた鳥の鳴き声を真似た口笛を木のふもとで吹きながら、どうぞ迎えにきてくださいと祈るのだった。


🍂続く
【瑠璃の冬の物語】その20

お前の名を呼ぶ

風に

雲に

今日の光に


愛しいお前の

懐かしい声が

胸に溢れて

 溢れて 溢れて

愛しさに溢れた胸から

涙がはらりとこぼれて落ちる


お前がいる世界は

お前に優しいか

お前の見る風景は

幸せな風景か

何よりも

お前は無事か

元気でいるか


生きる日の

命の炎を灯すのは

ただ愛しいお前を

もう一度この胸に抱き締めたいと


私の姿は見えずとも

お前を思う

小さな一輪の花の

かすかな桃色の

明かりのように

この想い

どこかでお前の心に届けよ

お前の心に明かりを灯すように

強く強く生きる希望を持つように



🍂続く
【瑠璃の冬の物語】その21

瑠璃はチャンスを逃さないように、毎日日が昇ると一番大きな木に登っては、鳥がやってこないかと天を仰いで過ごしていた。


そんなある日、瑠璃は夢を見た。一羽の真っ白な鳥に少年が乗って空高くから飛んでくる。その少年が自分に手をふっているのである。


瑠璃は思わず飛び起きた。そして、隣を見ると男と女も起きて、瑠璃に頷くのだった。

「あなたも夢を見たのね。たぶん私たちも同じ夢を見たわ。きっと、時が来たのよ。さぁ、あの木の所に行ってみましょう」

瑠璃は心臓が高鳴った。二人と共に、縄を持ち急いで木に向かっていくと、夢に見た通りに、はるかな光のさす高い天井の向こうから、真っ白な大きな鳥が飛んで降りて来た。そして、何とその背中には、一人の少年が乗っており、自分に手を降っているではないか。

「母さ~ん!僕だよ、太一だよ。迎えに来たよー!」

あぁ、それは生き別れた愛しい我が子、太一の成長した姿だった。太一は器用に白い鳥を操り木の近くまでやって来た。

「ここが精一杯だ。母さん、飛び移れるか?」
太一が叫んだ。

涙が溢れそうになる瑠璃は唇をきつく噛み締めた。
そして、石つぶてをつけた縄を、鳥の足もとをめがけて投げ、縄は見事に命中した。縄の端を自分の腹にくくると、瑠璃は縄を伝って登っていった。その縄の端を太一も引き寄せ、見事に瑠璃が鳥の背中につくや、鳥は光のさす天井へと飛び立った。
鷹よりもはるかに大きなその鳥の起こす風でたくさんの葉が枝から吹雪のように舞い落ちた。

瑠璃は太一に抱えられ、眼下に目をやると、二人が大きく手を降って瑠璃を見送ってくれていた。

「有り難うー!」
涙声の瑠璃の声が洞窟にこだました。
やがて、天井の光に吸い込まれるように、白い鳥の姿と共に、瑠璃の姿は二人の視界から消えた。

「幸せにねー!」
後を追うように、女の声が洞窟にこだました。

鳥が飛び立ったあとも、光の乱舞のようにきらめきながら虹色の葉が舞い落ちてくる。それは美しい光景だった。
男と女は長い間瑠璃の去った彼方を祈るように見送っていた。


🍂続く
【瑠璃の冬の物語】その22

二人を乗せた白い鳥は、切り立った崖をバランスを取りながら越えて行く。

瑠璃は逞しい太一の腕に抱かえられて、過ぎていく渓谷を見下ろす。深い深い谷の上をキリキリと吹いていく風に乗って、鳥はぐんぐん高度をあげていく。

あんなに深い谷の、その奥底に自分がいた。その事を不思議な夢を見るように瑠璃は鳥の背から見下ろしながら、思うのだった。

太一は見事に鳥を操って、行く先を知ってるように、飛んでいく。

風になびく太一の髪、幼い日の面影がわずかに残る太一の横顔を見ながら、瑠璃の胸にたくさんの記憶が通りすぎていく。

「あぁ、生きていて良かった」

瑠璃の心に、味わったことのない深い感謝が溢れてくるのだった。

🍂続く
【瑠璃の冬の物語】その23

太一と瑠璃を乗せた鳥は、やがて大地へ降り立った。二人を下ろすと、再び鳥は大空へと飛び去った。

まぶしい太陽の光と思っていたのは、空にかかる月の光。長い間の地下の生活で、瑠璃の目には月の光もまぶし過ぎるほどだった。

「昼間かと思っていたら、夜だったのね。ここはどこなの?」
瑠璃は辺りを見回しながら太一に尋ねた。

「僕たちが住んでいた家の先にある鎮守の森の奥だよ。母さん、もう一度母さんに会えて、本当に良かった。生きていてくれて良かった」
太一が声をつまらせていった。

「今も信じられないわ。これは夢じゃないわよね。あなたがこんなに立派に成長して、私の前に帰ってきた。そしてあんなに大きな鳥を操って助けに来てくれるなんて。」

今にも消えてしまうのではないか、そんな想いを抱きながら、瑠璃は目に一杯に涙を浮かべながら、太一の肩に恐る恐る手を伸ばした。

「もっと早く迎えに来れたら良かったんだけど、どうしても時を待たなくてはならなかったんだ。」
肩においた瑠璃の手に手を重ねて、太一は瑠璃を抱き締めた。「かあさん、痩せたね。とても苦労したんだね」
瑠璃を見つめる太一の目からも涙が止めどなくこぼれた。

「あなたがいなくなってから、毎日毎日、山のなかを探し回ったけど、あなたは煙のように消えてしまった。とても悲しくて辛い気持ちで毎日を過ごしていたのよ。あれから、あなたのことを一日も忘れたことはなかった。
あなたにいったい何があったの。」

とても信じてもらえないかもしれないけど、僕は不思議な体験をしたんだ。
空にかかる満月をあおぎながら、太一が話を始めた。


🍂続く
【瑠璃の冬の物語】その24

太一が思い出すように、遠くを見つめながら話を始めた。

あの日、いつものように、山に遊びにいったんだ。村外れの鎮守の森に行って、小鳥やウサギを追いかけて遊んでいたんだ。そしたら見慣れない男たちが来て、僕を捕まえると縛りあげて連れられていったんだ。

僕が連れられて行ったのは、旅の見せ物の一座で、僕は猛獣使いを仕込まれたんだ。泣いたり嫌だというと、鞭で打たれたりおりに閉じ込められたりしたから、生きるために必死で何でも覚えた。

父さんや母さんのもとに帰りたい、神様助けてって毎日祈っていたけど、助けは来なかった。火のなかをくぐる芸当や剣を操って踊ることも教えられた。僕くらいの子がたくさんいたけど、死んでしまった子もいたよ。僕はひたすら生きて、父さんや母さんの所へ帰ることだけを考えて生きぬいてきたんだよ。

太一の話を聞いて、瑠璃はわなわなと震えた。
「なんてひどいことを」さっきまでの喜びは消えてしまい、怒りが胸にこみ上げた。

大丈夫だよ。
頷くと、太一は続けた。

僕は、辛いときに小鳥の声を真似て口笛を吹いてたんだ。それは、昔母さんから教わったね。そして、僕が小鳥を呼んだりできることに座長が気がついて、僕に鳥を操って芸をさせることをするように命令したんだ。
僕は小さかったけど、翼を広げれば僕の体よりも大きな鷹や鷲に芸をさせたんだ。炎の輪をくぐらせたり、剣を持って踊って綱から飛び降りて鳥の背に乗ったり。やることは死と隣り合わせの芸だったけど、僕は覚えてやり抜いた。
そして、そのうちに、僕の芸は一座の看板になって、たくさんのお客さんが来るようになったんだよ。」


🍂続く
【瑠璃の冬の物語】その25

来る日も来る日も、終わりのない辛い毎日に、いっそ死んでしまいたい、そう思うこともあった。けれど、いつか父さんや母さんの所に戻りたい。そう考えて僕は頑張ったんだよ。

そのうちに、僕は不思議な力が身についたんだ。心で鳥と話ができるようになったんだ。

瑠璃は、もう泣いていなかった。自分の生きた日々よりはるかに苦しい時を乗り越えてきた太一の言葉を、一言も聞き漏らすまいと、体いっぱいに耳をすまして聞いていた。

鳥たちも僕と同じように苦しんでいた。そして、せめて大空を見たいと思っていた。その、悲鳴のような想いを毎日聞いているうちに、僕はいつか鳥たちとここを抜け出そうと考えるようになっていったんだ。

母さん、自由ってなんだろうね。目に見えるものが全てじゃないし、見えないものの方が、とても大切だったりするんだってその時に思ったんだ。

どんなに辛いときも、心を縛られずに自由にいるのはどうしたらいいのか、そんなことを考えもしたんだよ。

そして、人だけが想いを持ってる訳じゃないってことも初めてわかったんだよ。
心で繋がってみて、人も鳥も植物も、みんな自由な意思をもって同じ時を生きてるんだって、わかるようになったんだ。

そして、そんなある日、旅先で神社に立ち寄ったんだ。

🍂続く
【瑠璃の冬の物語】その26

僕たちの見せ物小屋が神社の前の広場だったから、見張られていたけれど、その日神社に参拝することができたんだ。

その日は、とても澄んだ青空で気持ちの良い風が吹いていた。
僕は、どうぞ一日も早く、父さんや母さんのもとに帰れますように、って祈ったんだ。そしたら、その時に不思議なことが起きたんだ。

光に包まれて仙人のような真っ白な長い髭を生やしたおじいさんが急に僕の前に現れてこう言ったんだ。

「私たちはずっとあなたを見守ってきた。良くぞ耐えてやりとげて下さった。苦しみや悲しみからも多くを学び強くなられた。苦しみに溺れてしまうことなくその美しい心を失うことなく前を向いて進んでこられた。今日までのあなたの歩みをたくさんの存在が見守っていたのだよ。そして、愛でそっと支えてもいた。

覚えていないだろうが、これは、この世に生まれる前にあなた自身が選んで設定してきた人生だったのだ。この世界に降り立つあなたを、その厳しい道を行くあなたを、私たちは多くの者たちと送りだしたのだ。試練のときは今日で終わりだよ。

今、あなたには選択のみちがある。ひとつは、このままの人生の先に幸せを築く道。もうひとつは、私たちと共に来て使命のために生きる道だ。それは、生きる全てのものの愛と幸せに尽くす使命なのだが、あなたはどちらの道を生きるかの?」

その人が、優しく僕に尋ねたんだ。それで、僕はその人に尋ねたんだ。
「あなたは神様ですか?
あなたの言う通りに生きたら、僕はもう一度父さんや母さんに会うことができますか?」

するとその人は頷いてこう言ったんだ。
「約束しよう。使命の道を生きるために私についてくるかね?」

僕が約束しますと誓うと、僕の体が軽くなって、するすると宙に浮いたんだ。そして、下を見下ろすと、みんなの動きが止まっていたんだよ。
不思議な風景だった。

僕は、その神様に鳥たちも自由にしてほしいと頼んだんだ。
神様は頷いて杖をふると、閉じ込められていた鳥たちが、みんな自由になって空に飛び立ったんだ。
そして、僕と仲の良かった真っ白な大鷲が一羽僕と一緒について来てくれたんだ。それが僕と母さんを乗せてくれた、さっきの鳥だよ。

僕は神様に連れられて、神様の国で仕事をすることになったんだ。
信じられないかもしれないけど、僕はそこでずっと、この世界の幸せを作るために働いていたんだよ。


🍂続く
【瑠璃の冬の物語】その27

僕のいた世界から母さんの世界が見えた。母さんがとても辛い想いをしているときに、母さんを助けることができなくて僕は本当に辛かった。

あの崖から母さんが落ちるときに、僕の代わりに龍神が母さんを抱き止めて助けてくれた。
母さんを助けてあの不思議な世界に連れていってくれたのは、龍神なんだよ。

この世界にはたくさんの時空があって、それが交わる瞬間がある。その時母さんのもとに行って助けることができる。僕は、ずっとその時を待っていたんだ。そして、やっと今日、母さんのもとに来ることができたんだ。

ねぇ、母さん。
母さんは、あの穏やかな世界にずっといることもできたんだ。でも、愛する人と生きるために、辛くて苦しいことも多いけど、もう一度この世界で生きることを決めたね。

僕は、神様と出会ったときに、神様の元で使命を果たして、時が来たら母さんや父さんの元に帰ることを願った。そして、今日その時が来た。
神様は、僕にこの世界へ帰ることも、神様の世界に留まることも、選んで良いんだと言ってくれた。そして僕は、母さんが選んだように、この先の道を選んだんだ。

今も母さんや父さんを心から愛している。みんなと一緒に野山をかけて生きていた世界に帰りたいとも思う。でも、今は、それ以上に僕でなくてはできないことをやりとげたい気持ちなんだ。母さん、僕は神さまの世界に戻るよ。

母さん、心から大好きだよ。
そして、父さんに会えないのは、とっても残念だ。でも、もうすぐ時空が交わる時間が過ぎてしまう。僕は、あの鳥に乗って、神さまの世界に帰らなくちゃならない。ほら、鳥が迎えに来てくれたよ。

太一がそう話す空に目を向けると、満月の下を、真っ白な鳥が彼方から飛んで来るのが見えた。

太一はもう一度強く瑠璃を抱き締めると、立ち上がった。
月明かりに照らされるその逞しく立派な姿を見上げて、瑠璃も静かに立ち上がった。

「母さん、僕は母さんのもとに生まれて幸せな人生だった。この世界で過ごした時間も、辛いことも苦しいことも、みんな大切なものだった。ありがとう母さん。僕たちはきっとまた会えるよ。見えないけれど、どこにいても絆はちゃんと繋がってるからね。どうぞ父さんや僕の弟と幸せに生きて下さいね」
 
そういうと、太一は白い鳥の背中にひらりと飛び乗り、
「母さん、元気でねー!」
と大きく手を降りながら空の彼方に去っていった。

太一に助け出されて過ごした時間は、わずかな時間だった。けれど、それは瑠璃にとって時が止まったような永遠とも思える時間だった。
喜びも愛も悲しみも感謝も。。たくさんの言葉にならない想いが胸に溢れて、瑠璃はただその想いを愛おしく太一の言葉をかみしめ涙を流した。

「ありがとう太一。元気でねー!」

瑠璃の声が白い鳥の姿を追いかけて山々にこだまする。
鳥に乗って太一が飛び去った空に、瑠璃はいつまでもいつまでも手を降り続けていた。

やがて月は少しずつ白み、山の稜線から一筋の光がさしてきた。その光を受けて、瑠璃の握った手のひらから、縄が砂のように溶けてさらさらと落ちていった。

瑠璃は深く息を吐き、そして空を見上げて息を吸い込むと、懐かしい我が家をめざして歩き始めた。


🍂続く
【瑠璃の冬の物語】その28

弥彦は、瑠璃が突然いなくなってから、毎朝村外れの鎮守の社に、瑠璃の無事を祈って詣っていた。

その朝も、幼い健をつれて参拝に行こうとすると、向こうから歩いてくる人の姿があった。

裸足だが、女の姿だった。背格好は瑠璃のようにも見える。もしや、幻を見ているのか、そう思って目を凝らすと、なんと!それは、紛れもない愛する瑠璃の姿だった。
弥彦は胸が高鳴った。

瑠璃は、鎮守の森の社の向こうから、手を降ってかけてくる親子連れの姿を見た。小さな子供の手をひいて、自分に手をふっている。
まさか!まさか!
あぁ、一日も忘れたことはない、弥彦の姿、あの幼い子供は健の姿!無事でいた、大きくなって!瑠璃も駆け出した。

昇り始めた朝日さす丘を、弥彦と瑠璃が互いにかけよった。

「どうして、あなたがここに?」

二人の口から、同じ言葉か飛び出した。
同じときに同じ場所で再び巡りあう、そして何よりも生きていた、その奇跡に、再会に、二人は続く言葉もなく、ただ互いを見つめそして抱き締めた。

あとからあとから、とめどなく溢れる涙。互いの名を呼びあいながら、二人は再開を喜びあうのだった。

手を繋いで丘の道を家に帰って行く、瑠璃と弥彦。三人を祝うかのように、丘のわきには花が咲き乱れ、山鳥が朝の歌を賑やかにさえずっている。緑が増した草原を、光を受けてキラキラと光りながら風がわたっていく。

どんなときも幸せを信じて生きるんだぞ、いつか聞いた父さまの声が、ふと風にのって聞こえたように思った。
そして、母さんよかったね!
そんな太一の明るい声も聞こえたような気がした。

「そうね、父さん、太一。
いろんなことがあったけど、全ては私に戻る道だったわ」

瑠璃はそっと呟くと、小さな健の手を握り弥彦と顔を見合わせて、微笑むのだった。



🍂終わり💖

花は、庭に咲いた沈丁花です。とても優しい香りが漂っています。一番に春を知らせて、幸せな気持ちにしてくれる花😊瑠璃を花に例えるなら、きっとこんな物静かだけれど香り高い花なのかなって思い、物語の最後の一枚に選びました。
【瑠璃の冬の物語】
  
~エピローグ~



私は帰る

長い旅路を

散り散りになった

心の欠片を

拾い集めて

懐かしいふるさとへ



空に春を告げる春雷

雨がときを告げて

枯れた大地を起こしていく

長い眠りから解き放たれて

うずくまっていた体を

空へ伸ばす



ほとばしる

いのちの力を込めて

弾けるように芽吹く



全ては自分に帰る旅

さぁ 新しい始まりのとき

生きている喜びに包まれて

歩きだそう



🍂瑠璃の冬の物語はいかがでしたか?
最後まで、読んでいただき、有り難うございました💖
2021/09/14
こんばんは🌙😃❗
凄く頑張った「みどりのまとめ」素晴らしいです‼️素晴らしいなんてことばを使うのが憚られます。
自然の有り難みをもう一度見直したいと思います。・・・
今後ともよろしくお願いいたします。💛🧡❤️
2021/09/15
この物語、以前太一くんの登場以降、読むのが途切れちゃってたので、最後まで読ませてもらって幸いです❣️
物語もどんどん読み進められて感動しましたが、一つ一つのpicがなんて素敵なことでしょう!! 沢山スクショさせていただきました♡♡又、拝見に来ます!!
2021/09/15
@ハッピー さん
こんばんは🤗
(*´σー`)エヘヘ💖すごく頑張りました❣️
何せ、greensnapはパソコンで編集できないから、過去の投稿文を探して、一つ一つコピペして、写真を探してくっつけて💦何時間もかかりました😅
自然と人との絆、私たちには見えないけどとっても暖かくて優しい守りのなかにいるのかなって。そんなことを思うと、生きる勇気もわくなって思ってます。
嬉しいコメントを、有り難うございました😊🌈これからもどうぞよろしくお願いいたします❣️
2021/09/15
@プリエレ さん
こんばんは🤗
物語を読んでくださって、有り難うございました(*^^*)
物語に出てくるpicは、携帯で撮った本物のリアル写真なんですよ。私の超お気に入りの写真です💖物語の場面にあったものをと選んでみました。空から虹色の光がたくさん降り注ぐ川は、西沢渓谷、とっても神秘的で素敵な所でしょう?。写真を誉めていただいて嬉しいです❣️前編のプロローグの清政の井戸の写真は、パワースポットと言われているので、見ていただいた皆さんに幸せが来ると言いなってのせてみました(^_^)v
次の物語も、後少しで終わりです。
是非、また立ち寄っていただけたら嬉しいです❣️
コメントを、有り難うございました🤗🍀
2021/09/15
@so.ra さん

おはようございます😊
そうそう!物語にも合ってて、神秘的な写真✨✨とても携帯で撮ったとは思えないようなお写真✨✨so.raさんの抜群の感性の現れですね✨✨
2021/09/15
@プリエレ さん
おはようございます😊
神秘的な写真は、いつも偶然の産物なんですが。。コメントを励みに、またせっせと携帯picに励みます❣️
2022/01/31
so.raさん
瑠璃の冬物語も最後まで読ませて頂きました。心に残る素晴らしいお話と思いました。
so.raさんが書いて見えると知らずに最初読んでいました。自作と知ってビックリしました。
素晴らしい作品を沢山残して下さいね😃本当にありがとうございました🤩
2022/02/01
@ゼラニウム さん
こんばんは😊
瑠璃の物語を読んでいただいて、有難うございました。運命に翻弄されながらも生きぬく強い意思、その中もけっして心を毒されないない清らかさ。切ない瑠璃の生き方ですが、幸せとは何か、生きるとは何かを、読んでくださったかたに問いかけました。
私の書く物語は、生きることについての問いを投げかけてます。
その問いを、いろんな思いで皆さんの中で見つけていただけたらと🥰
投稿した物語を、まとめにしてないものもあるので、そちらも取り組んでいこうと思ってます。良かったら、また立ち寄ってくださいね😊嬉しいコメントを有難うございました🤗❣️

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サギソウの育て方|増やし方は?球根の植え方や植え替え時期…

サギソウは、日本では低地にある湿地で自生しているラン科の植物ですが、近頃では自生しているものが少なくなり、準絶滅危惧種に指定されてしまっているそうです。 自生しているものは少なくな…
福寿草の育て方|植え替え時期は?掘り上げないと消えるって本当?の画像
2024.12.13

福寿草の育て方|植え替え時期は?掘り上げないと消えるって…

「春植物」とは、春に花を咲かせた後に夏まで葉を付け、あとの季節は地下で過ごす植物のことを総称して言います。そんな儚い魅力を持ち、ニンジンのような可愛らしい葉がポイントの、福寿草の育て方をご紹介し…
オダマキの育て方| 種まき時期や直播きの仕方は?枯れる原因は?の画像
2024.11.15

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オダマキは日本原産もある山野草で様々な色に花が咲く人気の植物です。しかし、オダマキ属は毒草でもあるので注意が必要です。花びらが中心にあり、広がってつくのが萼でよく目立ちます。今回は、そんなオダマ…
リンドウ(竜胆)の育て方|枯れる原因、冬越しの方法は?水やり頻度は?の画像
2022.11.10

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ユーラシア大陸を中心に、世界各地で栽培されているリンドウは、園芸品種も合わせると約500品種以上あるといわれています。日本では、切り花として北海道原産のエゾリンドウ、鉢花としては矮性種のシンキリ…
キンポウゲ(金鳳花)とは|育て方や花言葉、似た花との違いは?の画像
2021.11.22

キンポウゲ(金鳳花)とは|育て方や花言葉、似た花との違い…

黄色く愛らし花を咲かせるキンポウゲは春になるとよく見かけます。よく名前は聞くもののどんな花なのかわからなかったりもしますよね。そこで今回はキンポウゲについて解説しています。 キンポ…

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