季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、秋の二十集です。今回は明治の漂泊俳人、井上井月(せいげつ)の句を多く収録しました。なお猫凡は私の俳号です。
【燕帰る】
夏に子育てした燕が、巣立ち雛と共に南へ向かうこと。日本で繁殖するのですから、「帰る」ではなく「行く」が学問的には正しいと思うのですが。関連季語として、秋燕(あきつばめ・しゅうえん)があります。
子供等も羽づくろひして行く乙鳥 井月
子は知らず親を超えけり秋燕 猫凡
【残暑】
立秋を過ぎてもなお残る暑さで、身体にこたえるものです。意味としては「初秋」と近いのですが、語感は正反対。
行人の笹をかざせし残暑かな 井月
旗も帆も項垂れ萎れ秋暑し 猫凡
残暑でさらに。
ダリの絵のごとき街なり残暑なほ 熊岡俊子
野放図な蔓さえ垂れて秋暑し 猫凡
【秋めく】
秋らしくなる、の意。五感で小さな秋の訪れを捉えた感じ。
秋めくや舌に豆腐のきめこまか 山口速
楓の実の半分茶色秋めきぬ 猫凡
【月】
春の花、秋の月、冬の雪、日本の美の代名詞。
宵の間に露けき月の光りかな 井月
雲海の黒衣に徹し月淡し 猫凡
【後の月】
陰暦九月十三日の夜の月。前月の満月が十五夜ですが、後の月は満月まで二日足りないのがミソ。完璧よりも少し外れたものにこそ情趣があるという日本の美意識(ギャップ萌え?)でしょうね。その年の秋最後の月ということで「名残の月」とも。
いつの間に松を放れて後の月 井月
裳裾引きまた来年と十三夜 猫凡
【天高し】
杜審言曰く「秋高くして塞馬肥ゆ」。本来は北方遊牧系騎馬民族の馬が夏バテから回復し、南へ襲来することへの警句でしたが、今では食欲の回復する爽やかな季節の形容となりました。
天高く戸板が運び去りしもの 津沢マサ子
飛び降りし人のありしや天高し 猫凡
【水澄む】
秋は水の透明度が上がるだけでなく、空気も感性も澄んで来るように思われます。
水澄むや天地にわれひとり立つ 森澄雄
松藻虫やご源五郎水澄めり 猫凡
【露草】
身近な草で、染料になることからつき草、青花、秋中見られるので百夜草など多くの別名を持ちます。つき草に衣ぞ染むる君がためしみ色ごろも摺らむと思ひて(万葉集)。
露草や小鳥葬りし石ひとつ 井口光雄
露草の青の青さや果てしなし 猫凡
【ばった】
ショウリョウバッタ、トノサマバッタなどで代表されるバッタ科の総称。「ばった」という不思議な呼び名は、飛ぶ時や草むらに落ちる時の音に由来すると言われています。写真は庭先でもよく見かけるイボバッタ、卓越したジャンパーです。
きちきちの真正面を見て飛べり 岡崎桂子
跳ぶ前にちゃんと前見ろ疣ばった 猫凡
【葛の花】
万葉集で山上憶良が秋の七草に数えた頃は葉が主役でしたが、徐々に花に着目した作品が増えていきました。実際、しげしげ見れば素敵に美しい花です。
葛の葉の吹きしづまりて葛の花 子規
葛の花赤い蹴出しが風に舞う 猫凡
【稲】
日本人にとって最重要の植物。主に中国の江南地方から北九州辺りに伝わったとされる稲作が、良く言えば和を重んじる、悪く言えば没個性で同質化圧力の強い日本の精神性を形造ったと言っても過言ではないでしょう。
わが旅や稲の穂先の黄ばむ中 鈴木真砂女
稲の秋人に馴染めぬ人独り 猫凡
【稲刈】
昔は村の衆総出で行う一大イベントだった筈で、賑やかなことこの上なかったのではないでしょうか。コンバインなど農業機械の出現や農業人口の減少・高齢化で稲刈り風景も様変わりしたようで。
土手に鎌投げて稲刈り終りけり 菅原典子
稲を刈る今は一人で黙々と 猫凡
【杜鵑草(ほととぎす)】
山地や海岸の崖端を好む多年草。花にある紅紫の斑点を鳥のホトトギスの胸に見立てて命名されたようです。別名油点草。花言葉は「永遠にあなたのもの」「秘めた意志」「永遠の若さ」。
杜鵑草揺らし嵯峨野をわたる風 吉岡桂六
杜鵑草愛でる手背にしみと皺 猫凡
【秋】
野山の色変わり、風身にしむようになり、もの寂しくあはれなる季節。写真はヘクソカズラの実。ヘクソカズラの古名は屎葛(くそかずら)。酷い名前ですが花は可憐で夏の季語。私はこの実が好きで、秋の季語に認定されることを願っています。
塗り下駄に妹が素足や今朝の秋 井月
屎葛秋到ルレバ黄金ナス 猫凡
【秋の風】
秋に吹く風一切合切含みますが、一般に秋らしいのは「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」(藤原敏行)にあるような、湿気の少ない、涼しげで爽やかな風でしょうね。
秋風や身方が原の大根畑 井月
吉見永田の塩田跡にて
塩田の喧騒よぎる秋の風 猫凡
【蟋蟀(こおろぎ)】
秋の鳴く虫で最も身近なもの。成虫のオスだけが鳴きます。シーズン始めは少したどたどしいのがみるみる上達、冬が近づくと寂びた鳴き方になるのも趣があります。ちちろ、とも。飼う時の餌はドッグフードが便利。
踊りの輪くづれちちろの闇となる 蔵巨水
ドッグフード抱えてちちろリリコロリ 猫凡
【晩白柚(ばんぺいゆ)】
ザボンに近い柑橘類で、4kgにも達する巨大な果実で知られています。爽やかな香り、程よい酸味、多過ぎない果汁は独特のもの。余談ですが私は出生時4kgあったらしく、一貫坊主と呼ばれたそうです。後に母は糖尿発病。糖尿病の母親から生まれる子はインスリンの作用で巨大児になりやすいのです。
晩白柚どこに置きても落ち着かず 鈴木恵美子
ばんぺいゆ吾かくのごと生まれしや 猫凡
【秋の雲】
澄んだ青空を流れゆく秋の雲は、美しいだけでなく、旅心を刺激したり、郷愁を誘ったり、ふっと寂しくさせたり。
海女浮けば秋雲すでに流れ去り 鈴木真砂女
ただ生まれただ消えるのか秋の雲 猫凡
【小鳥来る】
秋に渡って来る鳥、秋に平地に降りて来る鳥で、【渡り鳥】とほぼ同義。写真はウグイス。ウグイスは実は年中近くにいるのでこの季語にはそぐわないのですが、珍しくすぐ近くに現れてしばし留まってくれたのでスマホでも撮影できました。
はら/\と木の葉交りや渡り鳥 井月
小鳥来た見た聴いた撮った今日佳き日 猫凡
いかがでしたか。季語シリーズは能う限り続けてまいります。次回もどうぞお楽しみに。
たまーにこんなふうに出てきてくれることありますよね😊
こちらでは夏鳥だけど
南に帰るのは夏鳥の中で1番遅いグループです〜