季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、今回は秋の第十四回です。猫凡という俳号で自作の句を入れています。
【天高し】
「秋高くして塞馬肥ゆ」(杜審言)は本来、北方民族の馬が肥え、侵入の季節が来たことを警戒する言葉でしたが、「天高く馬肥ゆる秋」に転じて、爽やかな良い季節の言葉となりました。
天高し雲行くままに我も行く 高浜虚子
天高く我が身長も一寸伸び 猫凡
【ピラカンサ】
バラ科Pyracantha属の低木で、真紅のトキワサンザシと橙色のタチバナモドキが含まれます。実を秋の季語としている歳時記があります。
こころざしピラカンサスの朝の道 米田規子
紅珊瑚黒き海星やピラカンサ 猫凡
📝自句自解:トキワサンザシの実は熟すと紅珊瑚のような艶やかな紅の先端に黒い星型のものが見られます。ヒトデみたいだなぁ、サンゴにヒトデ、南の海の中みたいで愉快だなぁと思ったわけです。
【稲】
高温多湿を好み、連作に耐える水稲は狭くて梅雨のある日本のためにあるかのような有難い植物です。田植えから収穫後まで、その姿は私たちの魂の根底に刻まれていると言っても過言ではないでしょう。
稲稔る中を各駅停車かな 西上禎子
夕焼けに稲穂輝き心満つ 猫凡
【茱萸の花(ぐみのはな)】
茱萸はグミ科グミ属(Elaeagnus)の植物の総称。茱萸の名は「ぐいみ」を省略したもので、「ぐい」は棘を意味し、木に棘のある実という意味らしいです。単に茱萸と言うと「秋茱萸」のことで秋の季語。花は歳時記未収載。
茱萸の花黒子に徹す白き花 猫凡
📝自句自解:グミといえば甘酸っぱくて、宝石のように煌めく赤い実、誰もがそう思います。花は見向きもされません。事実、歳時記未収載。花あればこそ実もなるのですが。
【秋日和】
いかにも秋という爽やかで穏やかな晴れの日。家や会社にいるのが勿体無く感じます。
麻酔醒むけだるさ窓は秋日和 北村香朗
秋日和独り黙して鏡検す 猫凡
【金柑】
中国原産の柑橘。小型の果実は熟すと金色に光り、果皮が甘く、香りが良いので、生や砂糖煮で賞味されます。砂糖煮はのど痛の民間薬。
一本の塀のきんかん数しらず 阿波野青畝
あまた金柑とる人もなし空洞化 猫凡
【桜紅葉】
他の木に先駆けて散る桜の葉。虫喰いがしばしば見られ、色も複雑で、独特の味があります。
かつ散りて桜紅葉の褪せもせず 鷹羽狩行
愛でられず惜しまれもせず桜紅葉 猫凡
桜紅葉でもう一句。
標識の赤より紅し桜紅葉 猫凡
【秋天】
晴れて澄んだ秋空のこと。
秋天は常のごとあり夫逝くに 桂信子
秋の天見上げもせずに子ら駆けり 猫凡
【柿】
日本の山里の秋を象徴する果樹。人も鳥もこの木の恩恵を大いに受けてきました。
柿熟るる漁村の朝の静もりに 小川濤美子
空青く梢に一つ喰われ柿 猫凡
【鶲(ひたき)】
一般に俳句の世界でヒタキといえば尉鶲(じょうびたき)を指します。秋、シベリア方面からやって来て平野部で冬を越します。名前の由来は澄んだ高音でヒッ、ヒッと鳴くのを火打石に聞きなして。
吹き来たる風に遅れて尉鶲 岩田由美
火焚鳥胸に静かに火を抱けり 猫凡
【藤の実】
晩春、目を楽しませてくれた藤は秋にいかにもマメ科らしい莢果を付けます。ビロードのような手触りのその実は、晩秋には灰緑色となり、やがて冬に弾けて種子を飛散させるのです。
藤の実の愁のごとく垂れにけり 富安風生
藤の実を撫でれば猫の顔浮かぶ 猫凡
【草紅葉】
カエデやモミジに目を奪われがちな秋、下草に目を向ければまた異なる趣が。写真のチガヤなど、寒い朝や夕べの風情は捨て難いものです。
肥後赤牛豊後黒牛草紅葉 瀧春一
夕凪の浜辺の萱の草紅葉我が影溶かしやがて真黒に 猫凡
草紅葉でもう一句。
草もみじ風おと光忘れ得ず 猫凡
【根釣】
根とは海底の岩礁のこと。そこに潜むカサゴやソイを釣るのを根釣りとか穴釣りと称します。
暮るるまで根釣見てゐる背広かな 浅木ノヱ
戸別訪問するかの如く根魚釣り 猫凡
【萩】
秋の七草の筆頭であり、草冠に秋であることからもいかに愛されて来たかが分かります。事実、万葉集の花では萩がトップで141首、梅は118首だそう。これが桜に取って代わられたのは優美で派手なものを好む貴族趣味かもしれません。
萩刈りて萩の失せたるのみならず 皆吉爽雨
さびれたる街の裏道乱れ萩 猫凡
【黄葉】
葉緑素の分解が進んで、カロチノイドの黄色が表に出てくることで木々が黄金色に染まる現象。
自動ドア開きひらりと黄葉入る 小池尹子
黄葉よ照らせ悲嘆にくれる人 猫凡
【黄落】
イチョウ、ケヤキ、ポプラなどの黄葉した葉が落ちること。
黄落のつゞくかぎりの街景色 飯田蛇笏
石段に黄落ぎんなん寄り添へり 猫凡
【秋の波】
夏よりは波の高い日が増える秋。人気のない渚に寄せては返す波も、荒磯に打ち付ける土用波も、味わい深い秋の趣です。
秋の波身を広げては引きにけり 藤木倶子
秋濤やいずれこの身も砂と化し 猫凡
【秋の暮】
秋の夕暮れ、或いは秋の終わり頃。両方のニュアンスを含む言葉かもしれません。
閉ぢしまぶたを落つる涙や秋の暮 杉田久女
戦火未だ止む気配なし秋の暮 猫凡
いかがでしたか?「季語シリーズ」は能う限り続けてまいります。次回もどうぞお楽しみに。
今年最後の句会ですね〜
今回もお世話になります(ஜᴗˬᴗ)♡
好きな句を2つ
夕焼けに稲穂輝き心満つ
標識の赤より紅し桜紅葉🍁