季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、今回は夏の二十八集です。なお猫凡は私の俳号です。
【えごの花】
またの名をやまぢさ(山の幸、の意)。梅雨ごろ下垂する白花を一斉につけ、数日のうちに散ってしまいます。
えごの花散り敷く水に漕ぎ入りぬ 大橋越央子
桜にも何ぞ劣らんえごの花 猫凡
【雨蛙】
樹上性のカエルで枝蛙(えだかわず)とも呼ばれ、多量の水がかかるのを嫌います。大きな声で鳴くのはオスで、メスを呼ぶラブコールです。梅雨蛙とも。
雨蛙泰然として小さきかな 岸本砂郷
いつだって折目正しくあまがえる 猫凡
雨蛙でさらに。
鬱として樗の雨や枝蛙 岡本癖三酔
雨蛙生命の讃歌ひたむきに 猫凡
雨蛙でさらにさらに。
枝蛙喜雨の緑にまぎれけり 西島麦南
あまがへる葉を純化した碧き色 猫凡
【あやめ】
花弁の基部に網目模様があることから「文目」(あやめ)。イメージと異なり、水はけの良いやや乾いた草原に群生。
花あやめ葉さきは雨のおくところ 室生とみ子
亡き父に見せたかりけり花あやめ 猫凡
【初蝉】
夏、初めて聴く蝉。下関ではまずニイニイゼミです。
初蝉をきくや厨の妻を呼び 日野草城
初蝉や梅雨前線アディオス 猫凡
【要の花】
生垣でお馴染みのカナメモチの花。蕎麦の花に似ているのでソバノキとも。綺麗な割にあまり注目されませんが、虫たちには大人気です。
要栄ゆ吾が家新築然として 高澤良一
花かなめ善は密かになすが佳し 猫凡
【蜻蛉生る】
ヤゴが水から上り羽化すること。初蝉とか初蛍があるので初蜻蛉でも良いかもしれません。
水の輪の芯の澄明蜻蛉生る 小澤克己
一点の誤りも無し蜻蛉生る 猫凡
【万年草】
ベンケイソウ科の多肉植物。園芸好きにはセダムの方が通りが良いかもしれません。梅雨時に黄色い星型の小花を密生させます。
路肩より万年草の森となれ 中庸の(草花&虫俳句・フォト日記365)より転載(https://skaida.hatenablog.com/)
裏路地にgalaxyあり万年草 猫凡
【仙人掌(さぼてん)】
最も馴染み深い多肉植物。ウチワサボテンの汁が油汚れを落とすことから石鹸の「シャボン」が転じてサボテンと呼ばれるようになったとか。
覇王樹咲き銅板色の海女等過ぐ 道部臥牛
「Hola!お互い辛いよな、ウチワサボテン」 猫凡
【夏の蝶】
単に蝶といえば春の季語に定められていますが、夏に見かける蝶も多種。写真の石崖蝶(イシガケチョウ)もそうで、温暖化に伴って下関でも毎年初夏に見かけるようになりました。
夏蝶の放ちしごとく高くとぶ 阿部みどり女
石崖蝶舞ふ一時の涼やかさ 猫凡
【夏の夜】
「夏は夜」(清少納言)。昨今の酷暑ではなおさら。
シアターのはねしざわめき夜半の夏 小川濤美子
やや緊張此処Tokyoの夏の夜 猫凡
【百日紅】
サルスベリの漢字表記は猿滑の他に、暑い夏の間ずっと咲き続けるところから百日紅ですが、白や紫もあります。
百日紅園児ねむりの刻来る 飯田龍太
青空と白さるすべり夏完成 猫凡
【炎昼】
灼けつくような暑い昼。山口誓子が自分の句集を「炎昼」と題してから普及したようです。意味は日盛りと同じですが、語感はより激しいですね。
炎昼の芯に本丸ありにけり 石土卯乃
炎昼や露草独り超然と 猫凡
【ハイビスカス】
ハワイの州花。南国イメージそのもの。和名は仏桑花、菩薩花、琉球木槿、扶桑花。沖縄では墓や仏壇に供える習慣があるため「後生花(グソーバナ=あの世の花)」とも。
仏桑花散りしける地へ投地礼 永岡うろお
「鉄の暴風」読了せし日後生花 猫凡
ハイビスカスでさらに。
空いまも無垢の蒼さや仏桑花 橋本榮治
今日もまた不発弾処理仏桑花 猫凡
【蜘蛛】
脚が4対計8本、胴体は頭胸部と腹部の2パートでなる点で昆虫と区別され、クモ綱という一大勢力をなす生き物。糸を自在に操って他の虫を捕食します。写真は家の中を走り回って世の奥様方を跳び回らせるアシダカグモ。
逃げるごと来し身に山の脚高蜘蛛 稲垣きくの
蜘蛛弑し虫の骸や蟻の糧 猫凡
【御辞儀草(おじぎそう)】
触れると葉を閉じることで子供に人気の草。接触傾性運動というそうです。これはバッタに葉を食べられにくくするのに役立っているらしいことが日本の研究で明らかにされました。また夜にはネムノキのように葉を閉じますが、こちらは就眠運動といいます。含羞草、眠草とも。
おじぎ草皆眠らせて男去る 石渡美都子
おじぎそう触れられ過ぎの不眠症 猫凡
【熱帯魚】
南米やアフリカなど熱帯原産の魚ですが、家庭の水槽で飼育され鑑賞されるものを指すのが普通です。一年中いるのですが、やはり涼を感じさせるゆえに夏の季語でしょう。グッピー、ネオンテトラ、エンゼルフィッシュなどが代表種。
天使魚もいさかひすなりさびしくて 水原秋櫻子
眺むればいつしか我も熱帯魚 猫凡
【海水浴】
熱い砂、波の音、スイカ割り、むくむく湧き上がる入道雲、夏といえばやはり海。【潮浴び】とも。
常夏の碧き潮あびわがそだつ 杉田久女
海に行くかと問ふ父に
二つ返事で飛び乗った
軽トラ荷台の幌そっと
挙げて眺めた海の青
変わらず今も青けれど
我は老ひたり父は亡きなり 猫凡
いかがでしたか。季語シリーズは能う限り続けて参ります。次回もお楽しみに。