季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、今回は秋の十八集です。なお猫凡は私の俳号です。
【紫苑】
背の高い菊で、茎の上部に上品な紫の花を多数つけます。「物忘れせぬ草」とも「憂を忘れる草」とも。
ゆうぐれに摘んで紫苑を栞とす 折笠美秋
紫苑咲くその日はいつも薄曇り 猫凡
【かんな】
中南米原産の多年草。太い茎、バナナに似た大きな葉、原色の花はどちらかというと夏のイメージですが秋の季語。
流人島舌嚙みきってカンナ咲く 田邊香代子
夏の熱アウフヘーベンしてかんな 猫凡
【苦瓜】
独特の苦味がクセになる御存じゴーヤー。茘枝(れいし)、蔓茘枝(まんれいし、つるれいし)とも。熟れるとオレンジ色になり、裂けて真っ赤な内部が見える様もよく詠まれます。
茘枝熟れ魔女のごとくに口開く 池野よしえ
草臥し胃腸茘枝に動き出し 猫凡
【思草】
寄生植物ナンバンギセルの別名。草の陰で俯き気味にひっそり咲く姿からそう呼ばれてきました。
オロシアに政変なんばんぎせる咲く 浜明史
思草忍ぶればこそ色に出で 猫凡
【野葡萄】
野生の葡萄で蔓性落葉樹。食べられますが不味い上に、青や赤紫の実はノブドウミタマバエやブドウトガリバチなどが寄生した虫癭果です。 タンニンが多くなって渋いためか鳥に食べられずに済むようです。正常な実は白ですが滅多に見られません。
野葡萄や少年森に秘密持つ 中村石秋
何色が「本当」なのか野葡萄の実 猫凡
【葡萄】
太古の昔から世界中で栽培されてきた果物。生食は勿論、ワインの原料としても大切にされてきました。
原爆も種無し葡萄も人の智慧 石塚友二
葡萄植ゑき亡父の思ひ霧の中 猫凡
【狸豆】
マメ科の一年草。イネ科のような細長い葉、毛深い実、タヌキの顔に見えなくもない花などユニークなマメ科です。全草にピロリジジンアルカロイドやセネシオニンという有毒成分あり。歳時記未収載。
イネ科です咲いてびっくり狸豆 猫凡
【茗荷の花】
春の若芽は茗荷竹、夏の蕾は茗荷の子でどちらも好んで食されます。茗荷の子を取り損ねると淡い黄色の花が咲きます。一日で萎れてしまう控えめな花。
土の面のしづかになりぬ秋茗荷 中嶋鬼谷
獲ろうかと思えば既に花茗荷 猫凡
【野朝顔】
強健な蔓性多年草で、クズと張り合うように廃屋や藪を覆い尽くす姿が目立ちます。歳時記未収載ですが、アサガオに倣って秋の季語としておきましょう。
廃屋を飾って虚し野朝顔 猫凡
【鱸】
魚類の大家族スズキ科の代表魚にして出世魚。成長につれセイゴ(鮬)、フッコ(福子)、スズキと呼び分けます。釣りの好対象でもあります。
血抜きして鱸の肌の透きとほり 鈴木真砂女
黄昏の月を映して鮬跳ね 猫凡
【藪蘭】
キジカクシ科の多年草。初秋、細長い葉の間から花茎を伸ばし、淡紫色の花をつけます。塊根はジャノヒゲのそれと同じく生薬麦門冬(バクモンドウ)として扱われることがあり、滋陰作用があります。手持ちの角川俳句大歳時記には未収載。
藪蘭は古寺の庭にぞ似合いける 写真・俳句ブログ:犬の散歩道(https://ameblo.jp/yujyaku/)より転載
薮の蘭鉢にて愛でる人や好し 猫凡
【木槿】
アオイ科の落葉樹。韓国の国花で무궁화(ムグンファ、無窮花)と呼ばれます。夏から秋まで次々と花を咲かせることから、不屈の魂の象徴なのです。ただし一つの花は一日で萎んでしまいます(槿花一日の栄)。代表的な花色から底紅とも。
一日を今生として底紅も 後藤比奈夫
無窮花を胸に再び首上ぐ 猫凡
木槿でさらに。
老い易くたそがれ早く白木槿 池尾望念
屍を踏み越えてゆけ白木槿 猫凡
【蟷螂】
カマキリのこと。車が近づいても逃げないことから当郎(当たり屋)の意だそうです。
かまきりのはや枯色を避けがたし 山口誓子
サングラス夜かけ蟷螂別人に 猫凡
【鶏頭】
ニワトリのトサカに似た不思議な花を付ける一年草。韓藍(からあい)とも。
鶏頭の立つ体温のあるやうに 奥坂まや
鶏頭や薄き手背に蛇の脈 猫凡
鶏頭でさらに。
鶏頭が生まれ変はつてフラメンコ 櫂未知子
鶏頭や夜はネオンに早がわり 猫凡
【葛の花】
山上憶良の「萩の花尾花葛花瞿麦の花女郎花また藤袴朝貌の花」以来、秋の七草の一つ。裏の白っぽい葉が詠まれることが多かったのですが、徐々に花も注目されるようになりました。ちなみに「葛」も秋の季語。
葛の葉の吹きしづまりて葛の花 正岡子規
葛の海もぐらたたきか葛の花 猫凡
【彼岸花】
毒を持つことを利用して畑の畔や墓場によく植えられる球根植物。死人花、捨子花、狐花など妖しげな異名多数。曼珠沙華は梵語で天上に咲く花。
野にて裂く封書一片曼珠沙華 鷲谷七菜子
再会はもう叶うまじ彼岸花 猫凡
【秋桜】
メキシコ原産ながら、風に揺れる可憐な風情が日本人好み。和名は大春車菊(大波斯菊、オオハルシャギク)。
コスモスの花の海へと身投げせる 龍野よし絵
秋桜止まり全ての音失せり 猫凡
【栴檀の実】
楝(あふち)の実/金鈴子/苦楝子とも。センダンは落葉樹で、葉がすっかり落ちても梢に残る淡黄色の実がよく目立ちます。
栴檀は実ばかりとなり風の音 坂本宮尾
金鈴子響け淋しき人の胸に 猫凡
いかがでしたか。季語シリーズは能う限り続けてまいります。次回もどうぞお楽しみに。
木槿といえば金大中のお墓のあたりには木槿がたくさん植えられているそうですね🌺