季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、今回は夏の第二十回です。今回は「夏みかん酸つぱしいまさら純潔など」で知られる鈴木しづ子の句を出来るだけ収載しました。なお、猫凡というのは私の俳号です。
【夏の雲】
熱せられた大地から上昇する湿った空気が積乱雲を生みやすいのが夏。青い空にむくむく湧き上がる白い雲が見る間に灰色に変わり夕立を。色も形も動きもダイナミックです。
夏の雲ゆく戦争花嫁といふことば 鈴木しづ子
海上の蒸気機関車夏の雲 猫凡
【睡蓮木】
歳時記未収載。南アフリカ原産のアオイ科ウオトリギ属常緑樹(Grewia occidentalis)で、スイレンとの類縁関係は全くありません。花は睡蓮に似ており、夜は閉じて朝開きます。
猫丸く睡蓮木と夢の中 猫凡
【黄金虫、金亀虫】
丸っこい金属光沢の体でせかせか動き回るコガネムシ。稼ぐことに余念のない、金ピカをじゃらじゃら身につけた小太りの男、みたいな?
取りあへず壁にぶつかり黄金虫 白岩三郎
黄金虫休めば小金貯められず 猫凡
【仙人掌の花】
サボテン科の多肉植物で、多様で奇妙な形態に似合わぬ美花で古くから園芸家を魅了してきました。
サボテンの花の光のある如し 武嶋一雄
南瓜より透明の美花フライレア 猫凡
【蝉】
長い幼虫時代を土中で木の根にしがみついて暮らし、夏に地上に出て羽化、慌ただしく繁殖して消えていく虫。古来もののあはれを感じさせる生き物です。
蝉鳴くなか生煮えの菜に塩をふる 鈴木しづ子
割れ鐘の如き勁さよ蝉しぐれ 猫凡
【百日紅】
『和漢三才図会』に「七月初めより九月に至るまで花あり。ゆゑに百日紅と名づく」とありますが、花色は紅だけでなく、紫や白も。
かの映画T市にきたる百日紅 鈴木しづ子
ポップコーン白さるすべり青い空 猫凡
さるすべりでもう一句。
散りし花吹かれて消えてさるすべり 猫凡
【盛夏】
夏真っ盛り。命燃え盛る季節であればこそ、死の影もまた濃い。
東京と生死をちかふ盛夏かな 鈴木しづ子
堤防に独り黙して真夏なり 猫凡
【ハイビスカス】
アオイ科フヨウ属の常緑低木。ラッパ型の鮮やかな花、光沢のある濃緑の葉。まさしく南国の代名詞的存在です。和名は仏桑花、扶桑花。花の寿命は短く、たいてい一日で萎んでしまいます。
酔へばすぐ踊る島人仏桑花 蓮井いく子
空めがけ咲ひては落つるハイビスカス 猫凡
ハイビスカスでもう一句。
太陽に晒して青しハイビスカス 猫凡
【雨蛙】
水に浸かることを嫌う樹上性のカエル。雨の気配を感じると盛んに鳴いて予報してくれます。カメレオンほど素早くはありませんが周囲に合わせて体色を変えることが出来ます。
集金は残り一軒雨蛙 納谷一光
雨蛙鳴くな我が妻雨嫌い 猫凡
【暑し】
暑いという一言にも様々なニュアンスの違いがあるでしょう。何をもって暑さを伝えるかが詠みどころです。
劇薬の劇と銘うち暑気極む 鈴木しづ子
鉄路錆びカンナ萎れて唯だ暑し 猫凡
【ペチュニア】
南米原産の園芸植物で、夏中アサガオに似た鮮やかな花を咲かせ続けます。和名は衝羽根朝顔。
ペチュニアは雨にからきし駄目な花 高澤良一
行き帰り応援サンキューペチュニアの花 猫凡
【晩夏】
夏を三分割(初夏・仲夏・晩夏)した時の末。夏への惜別、懈怠、秋の予感を含む言葉。
大阪へ五時間でつく晩夏かな 鈴木しづ子
歯神経抉りしのみにもう晩夏 猫凡
※自句自解:突如襲った顎の激痛、只事ではないと診てもらうと軽く「虫歯ですねー」。結局歯髄の神経をガリゴリと抉り取ったのに痛みはなかなか去らず、気付けばもう夏も終わり。何だったのかこの夏は。
【夕立】
夏の一日の暑さを和らげてくれるにわか雨。昨今は少々激しすぎるようで。
濡るるものすべて濡れたり夕立あがる 鈴木しづ子
蝉時雨夕立再び蝉時雨 猫凡
【蛾】
夜行性の蝶。灯火に飛来して「飛んで火に入る夏の虫」となる代表的な昆虫。写真はコスズメ。
火蛾舞へば妻たりしこと悔ゆるや切 鈴木しづ子
雀蛾は神の彫刻断固たり 猫凡
【項顕にす(うなじあらわにす)】
佐藤文香さんが新たな夏の季語として提唱しておられる言葉で、暑い時期に髪を切ったりアップにしたりすること。傍題として「髪結ぶ ポニーテール 髪だいぶ切る ベリーショート」も挙げておられます。
対岸のウクレレ項顕にす 佐藤文香
花火より項についと目を惹かれ 猫凡
【月下美人】
クジャクサボテンの一種で、英名はQueen of the Night(夜の女王)。芳香ある白い大輪を一夜限り開く幻想的な美花。コウモリが花粉を運ぶそうです。
フォーレ聴く月下美人と二人して 大石悦子
月下美人吐息零るゝ如ひらき 猫凡
【祭】
祭りは春秋にもありますが、俳句で単に祭りといえば夏。災厄からの加護を祈る性質のものが多いそうです。
祭笛吹き了りなば情ささげむ 鈴木しづ子
祭済み騒めき去て夏が去る 猫凡
【夕焼】
単に夕焼けといえば夏の季語。なぜなのでしょう。空気中の水蒸気が多い夏は赤が強く出るという説があります。個人的には、日中がとても暑いので、夕暮れ時がいっそう慕わしいという気分的な要素もある気がします。
乳房もつ犬に蹤けられ夕焼け雲 鈴木しづ子
夕焼はけふ墜つ蝉の野辺送 猫凡
いかがでしたか。季語シリーズは能うかぎり続けてゆきます。次回もどうぞお楽しみに。
歯医者さんのくだりは読んでても歯が疼きます😣
歯科治療叫びたいのに叫ばれず😓