季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、今回は夏の第十七回です。猫凡という俳号で自作の句を入れています。
【蜜柑の花】
緑の葉陰にそっと咲く白い花は香りも良く、「みかんの花咲く丘」は日本の原風景の一つでしょう。
花蜜柑匂ふよ沖の船あかり 武田孝子
蜜柑咲き昭和忽ち蘇り 猫凡
【棕櫚蚊帳吊(しゅろがやつり)】
歳時記に載っているのは蚊帳吊草で、こちらは未収載。マダガスカル原産の帰化植物です。唐傘蚊帳吊とも。
棕櫚蚊帳吊真昼にたまやかぎや哉 猫凡
【椎若葉】
常緑樹のシイの仲間は明るい緑に輝く若葉を茂らせ、古い葉をひっそり落とします。
椎若葉かゝる光りを嘗つて見しや 高橋馬相
憂し者に余りに眩し椎若葉 猫凡
【薔薇】
絢爛豪華な花姿、馥郁たる香り、園芸花卉の女王的存在です。
薔薇の園少女パレット開けずじまひ 津田清子
薔薇咲けど入所者知らず眠りけり 猫凡
【豌豆】
普通にエンドウといえば鮮やかな緑のグリーンピースかサヤエンドウを思い浮かべます。道端や空地で見かけるのはヤハズエンドウ(カラスノエンドウ)で、熟すと真っ黒な鞘となります。
沿道の烏野豌豆から雀 写真・俳句ブログ:犬の散歩道 https://yujyaku.blog.fc2.com/より転載
野鼠の背負って走れば黒革のショルダーバッグか矢筈豌豆 猫凡
【茅花流し(つばなながし)】
一面に咲いたチガヤの原を吹き渡る、雨の気配を含んだ南風。
茅花流し母に雨傘もういらぬ 古賀まり子
人も時も茅花と共に流れけり 猫凡
【ブラシの木】
歳時記未収載。試験管ブラシによく似た、鮮やかな赤い花を付けます。和名を金宝樹というそうです。
蒼天を磨き上げたり金宝樹 おしゃべり日記俳句、より転載。https://blog.goo.ne.jp/fuuten-tora
理科室の騒めきよぎるブラシの木 猫凡
【車前の花】
オオバコ科の多年草で、人や車に踏み付けられても耐えることから車前。種子は利尿・排石作用のある生薬車前子(シャゼンシ)。最近は北アメリカ原産のこのツボミオオバコの方が多く見られるようです。
車前草の花白い犬ついてくる 平井順子
車前草踏まるればこそ花も咲く 猫凡
【アマリリス】
ユリに似た原色の花をドーンと咲かせて存在感抜群。歌でもお馴染みですね。
四方に告ぐここにわれありアマリリス 小沢信男
あまりにも傍若無人アマリリス 猫凡
【蛇】
言わずと知れた爬虫類の代表格。足が無いだけで嫌われている哀れな生き物ですが、生態系の貴重な一員です。写真は友人が下関で遭遇した青大将。
蛇搏ちし棒が昨日も今日もある 北野平八
青大将呼吸忘れてお見送り 猫凡
【仙人掌の花】
サボテンには棘だらけの奇怪な姿に似合わぬ美花を付けるもの多数。
さぼてんにどうだと下る糸瓜哉 一茶
仙人掌は花輪冠て夜踊る 猫凡
※自句自解:サボテンという奴は奇怪で滑稽で、どこか植物ばなれしている気がします。棒状のサボテンがてっぺんに輪状に花を付けた姿など、今にも踊り出しそうではありませんか?
【南風(みなみ、はえ)】
夏の南風。4-8月ごろに吹く湿った温かい風で、強い場合は大南風(おおみなみ)といいます。私の住む彦島では5月下旬ごろの南風の季節にアカメフグの仲間が産卵のため大群で接岸するのが見られます。
大南風黒羊羹を吹きわたる 川崎展宏
南風吹き組んず解れつ河豚寄せり 猫凡
【麦嵐、麦の風】
麦の収穫時期、つまり麦秋に吹き渡る風。爽やかさを込めて好意的に用いられる語のようです。
麦嵐母の足萎えのばしやる 萩原麦草
麦の風我が身黄金に染めて駆け 猫凡
【蛍袋】
キキョウ科の多年草。釣鐘のような花を螢籠の代わりにしたというのが名前の由来だそうです。
聞いてはゐるほたるぶくろをへこませて 飯島晴子
ほたるぶくろ喪ひしもの胸に存る 猫凡
【浜昼顔】
砂浜のヒルガオですが、海辺の道端でもよく見かけます。艶のある葉に透け感のある花が夏によく合います。
這ふものは強し砂丘の浜昼顔 鷹羽狩行
路傍でも浜昼顔が咲けば浜 猫凡
【青鷺】
日本最大級のサギ。水辺で魚を獲っていますが、釣り人からおこぼれを貰おうとするちゃっかり者もいます。けっこう夜でも行動していて、漁港などでギヤァーッ!という奇声にこちらが「ギャッ!」となることも。
青鷺の鋭声に朝の筍汁 細見綾子
振り向けば青鷺とぼけ二歩三歩 猫凡
【金鶏菊】
キク科ハルシャギク属の一年草で北アメリカ原産。写真は大金鶏菊で、繁殖力が非常に強いため環境省の特定外来植物に指定されています。
通学路金鶏菊の花明り うらなり日記俳句、より転載。https://ameblo.jp/uranari-9120/
金鶏菊私は此処で生きていく 猫凡
【蜘蛛】
脚が8本、ボディが前体と後体の2パーツ、触覚がない、糸を作るといった特徴を持つ節足動物。写真は網を張らず、花に飛来する昆虫を捕食するカニグモの仲間(ヤミイロカニグモかな?)。
夕蜘蛛のつつと下り来る迅さ見る 中村汀女
蟹蜘蛛のメエルシュトレエム音もなし 猫凡
※自句自解:「メエルシュトレエムに呑まれて」はエドガー・アラン・ポーの短編。メエルシュトレエムとはノルウェーのロフォーテン諸島周辺海域の極めて強い大渦巻で、それに呑まれながら急死に一生を得た漁師の話です。ユリオプスデージーの花は螺旋構造、つまり渦巻を成しており、その中央で静かに待ち構えるカニグモは死神、というわけです。
【踊子草】
シソ科の多年草。花を笠を被った踊り子たちに見立てています。
踊子草かこみ何やら揉めてゐる 飯島晴子
踊子草後ろの正面だあれ 猫凡
【えごの花】
初夏に清楚な白い花を鈴なりにつけますが、熊蜂などが訪花するとすぐ落ちてしまいます。一面散り敷いた姿も風情ではありますが。
えごの花ながれ溜ればにほひけり 中村草田男
役目終え水面に一つえごの花 猫凡
いかがでしたか。「季語シリーズ」は能う限り続けていこうと思います。次回もどうぞお楽しみに。
おはようございます😊
季節を切り取るかのような俳句の数々…素敵な句ばかりですね🥹💦
特に水滴をたたえた白いホタルブクロの一句が胸に沁みました🥹💦
喪ひしものは亡くなられた方の意味ですか?
水滴は涙💧…?