季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、今回は秋の十九集です。鈴木真砂女の句を多く収載しました。なお猫凡は私の俳号です。
【柿】
日本には奈良時代に中国から渡来したとされるお馴染みの木。実を食べるのはもちろん、柿渋や柿酢を作るなど、生活に密着した大切な植物です。昨今は熊騒動の煽りで切り倒される柿の木数多。
庄内柿捥ぎつくされてよりの景 鈴木真砂女
柿たわわ熊来ぬように断ち切られ 猫凡
【小鳥】
冬が近づくと山から里に下りて来る鳥や北国から渡って来る鳥を見かけるようになります。小さな体で長旅。健気です。写真はシジュウカラ。
洗ひ髪いつしか乾き小鳥来る 鈴木真砂女
蝉絶えし里に気付けば小鳥鳴く 猫凡
【蔦紅葉】
ツタは葡萄の仲間の蔓植物。紅葉は鮮やかで、塀や石垣を彩ります。
館内にマーラー響き蔦紅葉 水田むつみ
蔦もみじ沁み入るやふな紅と黄と 猫凡
【銀杏】
いちょうと読めばイチョウの木、ぎんなんと読めばその実で、悪臭を放ち、下処理が面倒ですが、甚だ美味。写真は広島、縮景園の被曝イチョウ。沢山のぎんなんを付けていました。
ぎんなんのさみどりふたつ消さず酌む 堀葦男
被曝銀杏幹傾いでも実のたわわ 猫凡
【美術展】
芸術の秋ですから、画家の登竜門となるような大きな公募展は秋開催が多いようです。写真は下関市立美術館エントランスのカール・ミレス作『人とペガサス』。
夫と来てはなればなれに美術展 龍神悠紀子
下関市立美術館にて
美術展ペガサスの先鳥が舞ひ 猫凡
【珊瑚樹】
ガマズミの仲間の常緑樹で、材は燃えにくく、防火樹として知られます。秋の赤い実は鮮やかです。
ひとりいる珊瑚樹の蔭うす冥い 高澤晶子
珊瑚樹や真っ赤に燃えて防火林 猫凡
【刈萱(かるかや)】
イネ科の多年草で、メガルカヤ、オガルカヤ、メリケンカルカヤ、フトボメリケンカルカヤなどの総称。あとの二種は外来で、草丈1mほどに成長し、長い白い毛を持った花序をつけ、晩秋には赤褐色になって枯れますが、枯れた状態でも立ち上がったまま残るのが特徴です。
全山の萩やすすきや刈萱や 立松けい
刈萱は枯れ果つるとも堂々と 猫凡
【烏瓜の実】
朱色の卵のような実は晩秋の林縁でよく目立ちます。まだ熟れていない時期は縦縞のある緑色で、こちらも愛らしいものです。カラスウリという名前は、樹上に長く果実が赤く残るのをカラスが残したと見立てたという説、同じウリ科のスズメウリより果実が大きいからという説などがあります。種子が結び文に似ていることから、手紙を意味する玉梓・玉章(たまずさ)という美しい異名あり。
恋死の墓に供へて烏瓜 大木あまり
君生まる日の玄関にからすうり 猫凡
【泡立草】
俳句ではセイタカアワダチソウも含め、広くアキノキリンソウ属と考えて良いと思います。黄色い小花を密生させる姿は秋空に映えます。
泡立草穂すすき雑草合戦図 山田みづえ
泡立草ゴッホの夜のカフェテラス 猫凡
【団栗】
ブナの仲間の堅果。艶のある茶色で、殻斗という帽子を被っています。渋抜きをすれば食べられます。
団栗の寝ん寝んころりころりかな 一茶
団栗や群れるな媚びるな諂うな 猫凡
【狗尾草】
猫じゃらしとして馴染み深いイネ科の一年草。犬の尻尾に似ることから犬子草、犬っころ草、転じてエノコログサとなったようです。
よい秋や犬ころ草もころころと 一茶
めのわらは後生大事に犬子草 猫凡
【芒】
これぞイネ科という姿の秋の七草。昼もよし、夜もよし。
芒野に心の責苦捨てに出づ 鈴木真砂女
花びらも無いが芒ぞ一の花 猫凡
【秋の海】
人が去って寂しくなった浜辺、海が澄んで色濃くなる様、水や砂の冷たさ。
砂嚙んで果つるほかなし秋の波 鈴木真砂女
文人の松ただ独り秋の海 猫凡
秋の海でさらに。
秋の浜人来てわれに言葉かく 鈴木真砂女
秋の波胸の虚ろに寄せ返し 猫凡
【木犀】
キンモクセイ、ギンモクセイを含むモクセイ科の常緑樹。香り高い小花を無数につけてその存在を知らせます。桂(かつら)の花とも。
金木犀零るる風の通り道 渡辺靖子
長府毛利邸にて
白砂に桂の花や薄曇 猫凡
木犀でさらに。
木犀をみごもるまでに深く吸ふ 文挾夫佐恵
コバルトの空に珊瑚や金木犀 猫凡
【櫨紅葉】
ハゼノキの紅葉は深い色合いでとりわけ趣深いものです。
みづうみの国一斉に櫨紅葉 深津健司
櫨紅葉水のほとりに生きてきて 猫凡
【黄葉】
黄色い方のコウヨウは秋の寂しさ冷たさを和らげてくれるようです。そんな葉が落ちること、また地面を黄色に染める様を黄落と言います。
魚河岸やけふ黄落の定休日 鈴木真砂女
パキポディウム郷に従ひ黄葉す 猫凡
【虫すだく】
涼しくなると鳴く虫が増えてきます。そんな虫が沢山集まることを虫集く(むしすだく)、すだった虫が一斉に鳴くのを虫時雨と言います。
父通り過ぎたるこの世虫時雨 小檜山繁子
虫すだく夜の地球は虫の星 猫凡
【秋の雲】
澄んだ青空を流れる、どこか寂しげで郷愁を誘う、それが秋の雲の趣き。
海女浮けば秋雲すでに流れ去り 鈴木真砂女
猫埋めし時動かぬに秋の雲 猫凡
いかがでしたか。季語シリーズは能う限り続けてまいります。次回もどうぞお楽しみに。