季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、今回は冬の十四集です。なお猫凡は私の俳号です。
【柊の花】
鋸歯の強い厚い葉に似合わぬ密やかな白花は、清しい香りでそっとその開花を知らせます。さだまさし「柊の花」はこの花のイメージを余すところなく表現した名曲。
柊の花ほど化粧してみたる 吉村玲子
張り詰めた心解けよ柊の花 猫凡
【冬の鵙】
もずは秋の季語ですが、秋に里に降りてきた鵙は春まで留まるので、冬中見ることができます。寒中いつも独りでいる姿は凛々しさに溢れています。
小さくてその面構冬の鵙 小檜山繁子
死の如く白き眼や寒の鵙 猫凡
【時雨】
冬の初めに短くさぁーっと降る雨。
大鍋に蟹ゆで上る時雨かな 鈴木真砂女
しぐるれば蔓蕎麦黒く艶めけり 猫凡
【紅葉散る】
モミジに限らず、紅葉した葉が散ってゆく様。
紅葉散る池にオフィリア眠れるか 大橋晄
最期まで道全うし紅葉散る 猫凡
【茶の花】
チャノキはツバキ科の常緑樹ですから、花もツバキやサザンカに似ていますが、ずっと小さくて控えめな佇まいです。
茶の花のわづかに黄なる夕べかな 蕪村
茶の咲きて誰知るとなく池に散り 猫凡
【鴨】
オシドリ、カルガモ以外のカモ類はほぼ冬鳥です。冬の得難い御馳走、また寒い夜の共寝というのが昔のイメージだったようです。
一番乗りの鴨の着水鳰が見て 鈴木真砂女
広島城にて
取り取りの人と鴨和し事も無し 猫凡
【紅白歌合戦】
歳時記未収載ですが、大晦日の風物詩としてこれほど知られたものもないでしょう。
初湯中黛ジユンの歌謡曲 京極杞陽
※猫凡註:この句は「初湯」を季語としていますが、おそらくは紅白歌合戦での黛ジュンの歌を鼻歌かなんかでなぞっているのでしょうから、紅白歌合戦の例句とさせて頂きました。
知る歌は紅白レッドデータブック 猫凡
【蝋梅】
初春を告げる代表的な花。冬の寒さ暗さの中、どこか浮き立つような気分をもたらしてくれます。
臘梅のいろの溶けゆく山日和 板谷芳浄
蝋梅や春の気配の漂へり 猫凡
【カピバラ】
佐藤文香さんが提唱する新たな冬の季語。傍題としてカピバラ温泉、カピバラの湯。温まってぼへーとしている姿はまさに冬の風物詩ですね。
カピバラの仔ら温泉に揉み合ひぬ 佐藤文香
カピバラ温泉眺める人もカピバラ化 猫凡
【冬の水】
といっても様々です。清冽な渓流の水もあれば、重く沈んだ沼の水もある。河出書房の新歳時記には「つめたい水だが、ふかぶかとしたかげをもっているようでもある。きびしい美しい硬質の水という印象」とあります。
冬の水一枝の影も欺かず 中村草田男
対光反射一切見られず冬の池 猫凡
【冬の蝶】
成虫越冬している蝶の弱々しい風情。写真は佐賀、東与賀干潟にいたものでウラギンシジミと思われます。
生あるものこの冬蝶に逢ひしのみ 福田蓼汀
石塀に暖を求むや冬の蝶 猫凡
【冬野】
冬枯れた野原ですが、枯野ほど厳しく荒涼とした印象はなく、幾らか救いがあるような気がします。写真は東与賀干潟の七面草群落の枯れ姿。
たそがれの大雲動く冬野かな 中川宗淵
冬の野に一朶の雲を仰ぎ立つ 猫凡
【冬晴】
冬が厳しいほど、穏やかに晴れた日の喜びは大きく、心身とも伸び伸びします。
冬日和鳶より高きもののなし 赤松柳史
東与賀干潟にて
冬晴れに干潟や黒し果てし無し 猫凡
【冬】
「冷ゆ」から転じて冬、寒く寂しく暗い季節ということでしょう。五行では水、色は黒、感情は恐れです。
海光を海にかへして冬の崖 平井照敏
冬干潟彼方に神の光在り 猫凡
【冬鴎】
広義のカモメ の中ではウミネコだけが年中いる鳥、他は冬鳥として日本に渡って来ますから、冬のイメージが強いですね。純白も冬に似合います。
冬鷗黒き帽子の上に鳴く 西東三鬼
還暦や白きに過ぎて冬鴎 猫凡
【八手の花】
大きな葉の割に地味で目立たぬヤツデの花。冬の弱々しいハエ、アブ、ハチが好んでやってきます。
賑やかに咲き出て淋し花八ッ手 村山葵郷
善行は密やかに為せ花八手 猫凡
【悴け猫(かじけねこ)】
寒さを嫌って火のそばで縮こまっている猫。竈猫(かまどねこ)とも。
煌々とせり場を歩くかじけ猫 古舘曹人
近頃は悴け犬よと黒猫凛 猫凡
【山茶花】
椿に似てはいても、どこか身近でさりげない趣のある花。花弁一枚一枚散り敷いた風情も佳し。
山茶花の日和に翳のあるごとく 西島麦南
山茶花よ墓純白に包まほし 猫凡
【笹鳴き】
チャッ、チャッというウグイスの地鳴きのこと。ホーホケキョは繁殖期限定の囀り、冬場は地鳴きで「ああ、ウグイスがいるな」と分かります。
笹鳴に逢ふさびしさも萱の原 加藤楸邨
かくれんぼ笹鳴きゆえに鬼ばかり 猫凡
【アロエの花】
主にアフリカ原産の多肉植物アロエ、冬、肉厚で棘の多い葉からにょっきと茎を伸ばした先に赤橙色の花を房状につけます。温暖な海辺では地植えで群落に至るようで、下関でも吉母港近辺ではそこかしこに見られます。
アロエ咲く島のくらしに富士一つ 行方克己
何処だろうが自分を生きてアロエ咲き 猫凡
如何でしたか。季語シリーズは能う限り続けてまいります。次回もどうぞお楽しみに。
切ない🥲