季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、今回は冬の第十回です。猫凡という俳号で自作の句を入れています。
【蝋梅】
蝋細工のような質感の花は葉に先駆けて開き、辺りに甘く爽やかな香りを漂わせます。
臘梅は挫けぬために匂ふ花 伊予田由美子
風凍る中で蝋梅開きけり 猫凡
【鵟(のすり)】
トビと同じくらいの大きさの鷹の仲間で、本州各地で冬鳥として見られます。トビよりも黒い顔が目に付きます。狩りの際、ホバリングから急降下したり、急降下から低空飛行したりします。野を擦るように地表すれすれを飛行するので野擦です。
雪の野の鵟の止まる古木かな 大島英昭
鵟鵟騒ぐ我等を睥睨す 猫凡
【熊楠忌】
12月29日。1941年のその日、和歌山が生んだ大天才、南方熊楠が74歳の生涯を閉じました。粘菌の研究を中心に、植物学、民俗学、言語学などジャンルを超えて大活躍、「エコロジー」の概念を日本に導入した人でもあります。
熊楠の忌や金色のモジホコリ 関塚也蒼
かもめ舞う空境なし熊楠忌 猫凡
📝自句自解:今風に言えば熊楠は、日本のダ・ビンチとでもいうべきボーダーレスな天才ということになるでしょう。鳥が望みのままどこにでも舞い飛ぶように、学問の境界を軽々と乗り越える。そんなふうでありたいと願いつつ少しも果たせない凡人の憧れです。
【晦日蕎麦(みそかそば)】
年越しそばのこと。
その前に一本つけよ晦日蕎麦 鷹羽狩行
晦日蕎麦妻は年中甲斐甲斐し 猫凡
【枯野】
枯れ果てた冬の野原。日本的美意識の象徴。
枯野原汽車に化けたる狸あり 夏目漱石
📝ねこ註:おそらくこの狸は汽車の「音」を真似たのでしょう。枯野を渡る風の音に汽車の音、しっくり来ます。風流を解する狸?
何故と叫んでみても枯野也 猫凡
【新年】
一年の初め。いつもと同じ一日なのに、いつもとは全く違う心持ち。
犬の鼻大いにひかり年立ちぬ 加藤楸邨
2024年元日、能登半島を大地震襲う
年明くに地轟て光無し 猫凡
【山帰来の実】
日本ではサルトリイバラを山帰来と呼ぶことが多いようです。花は春の季語ですが実は歳時記未収載。
山帰来の実のつやつやと山眠る 近本セツ子
山帰来こんぐらがりて実が残り 猫凡
【雪】
水蒸気が柔らかめの氷の結晶となって降ってくるもの。太陽光のあらゆる波長の成分を満遍なく散乱するため真っ白に見えます。
山鳩よみればまはりに雪がふる 高屋窓秋
東京は雪この街の隅も雪 猫凡
雪でもう一句。
温かく雪こけの芽をくるみけり 猫凡
【鴨】
学術的にはカモ科のうち雁ほど大きくなく、比較的首の短い鳥の仲間ですが、俳句の世界では冬に群れなす丸っこい水鳥、くらいに捉えておきましょう。
わが影の水に沈めば鴨らたつ 臼田亞浪
逆光に群れ飛ぶ鴨よ神は在り 猫凡
鴨でもう一句。
群青の光胸衝く鴨立ちて 猫凡
📝自句自解:カルガモなど一部の鴨の風切羽には青や緑の金属光沢のある部分があります。翼鏡といいます。飛び立った鴨の翼鏡のコバルトブルーの輝きが目を射るようで、言葉もありませんでした。
【真鴨】
日本のカモ類の代表格。日本中で見られ、寒い地方では繁殖も行います。オスの緑の頭がトレードマーク。
陰を出て真鴨の色となりにけり 細野恵久
真鴨一羽被せてみたしパリジェンヌ 猫凡
【冬の海】
一般に荒涼とした厳しい風情を想起させる語ですが、瀬戸内では一年で最も水の澄んだ凪の海を見られる日も少なくありません。
鷺とんで白を彩とす冬の海 山口誓子
冬の小門澄みてひたひたひたひたと 猫凡
📝自句自解:下関本土と彦島の間の川のように狭い海峡を小瀬戸あるいは小門(おど)の瀬戸と言います。ここは源平合戦で逃げ惑った女性たちが身投げをした場所であり、昭和中期までは漁火を焚いた船上で女郎と酔客がひと時を過ごしていた場所でもあります。冬凪の小門は人けもなく、さざなみの音と潮の香りに包まれていると、そんな歴史が嘘のように思えて来るのです。
【枯芒】
幽霊の正体見たり枯れ尾花。すすき自体が侘び寂び、枯淡の味なわけですが、枯芒となれば尚更、寂寥感、荒れ果てた感じです。
川幅を追ひつめてゆく枯芒 鷲谷七菜子
川渉る風乾きけり枯芒 猫凡
【氷柱(つらら)】
水の滴りが凍って、長い円錐状になったもの。垂氷(たるひ)とも。
地上まであと一寸の氷柱かな 荻原都美子
水栓の氷柱好もし水も欲し 猫凡
【冬芽】
樹種により様々な表情を見せる冬芽、葉痕。最近ではこれに魅了される方も少なくないようです。
冬木の芽ことば育ててゐるごとし 片山由美子
冬芽冬芽顔顔顔が其処此処に 猫凡
【冬青空】
太平洋側の乾いて寒い、しかし澄んだ冬の青空。
かぐはしき冬青空といふ奈落 柚木紀子
冬青空見ることもなく妻は逝き 猫凡
【山茶花】
ツバキとの違いは、ひとひらずつ散ること、雄蕊が筒状にならないこと、葉が小ぶりで鋸歯が目立つことです。それと、椿は春の季語です。
山茶花のくれなゐひとに訪はれずに 橋本多佳子
廃校の道に山茶花咲き誇り 猫凡
【鰹鳥】
南の海の沖合で暮らすカツオドリは歳時記未収載。本土では冬に沿岸で稀に見られるのみです。強風をものともせずに滑空し、矢のようにダイブして獲物を捕える姿は躍動感に満ちています。
寒風を操り自在かつをどり 猫凡
【冬の月】
「すさまじきもの、嫗の化粧、師走の月夜」(枕草子)、震えながら見上げる月の凄絶さとは言いますが、それもまたオツなものかも。
食堂の椅子みな逆さ冬の月 伊草節江
ほろ酔ひに厳しき顔の冬の月 猫凡
いかがでしたか?「季語シリーズ」は能う限り続けてまいります。次回もどうぞお楽しみに。
気がついたら( ゚∀ ゚)ハッ!もうひと月たってました( ̄▽ ̄;)
みーしーにとって、一句考える時間は頭と感性を呼び起こす、大切なひと時です
(_ _*))機会を作ってくださっていることにホントに感謝です(*´ω`人)