季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、今回は冬の十五集です。なお猫凡は私の俳号です。
【木守(きまもり、きもり)】
収穫後に(本来は一つだけ)敢えて残しておく実。翌年の豊作祈願とも鳥たちへの配慮とも言われていますが、いずれにしても美しい風習です。
朱鷺守るごとくに島の木守柿 赤塚五行
寒村の心や豊か木守柿 猫凡
【山茶花】
ツバキに非常に近い樹木で、赤や白が代表的花色。花弁が一枚ずつ散る点がツバキとの決定的違いです。
山茶花や暖かすぎる雨の降り 鈴木真砂女
山茶花の緋毛氈鳩歩みをり 猫凡
【鶚(みさご)】
魚食性の鷹で英名はオスプレイ。空中に静止して狙いを定め、一気に突入して水面近くの魚を捕える様は勇壮です。
波こえぬ契ありてやみさごの巣 曽良
白と黒錐揉み鶚海を突き 猫凡
【アロエ咲く】
薬用として盛んに栽培されてきた多肉植物がキダチアロエ。冬に鮮やかな朱色の花を咲かせます。
アロエ咲くジヨン万次郎生れし地 右城暮石
アロエ咲く国境など在るものか 猫凡
【寒雀】
冬の雀。丸く見えるのでふくら雀とも。
寒雀遊べばこゝろ遊びけり 宮部寸七翁
寒雀葛根湯でもあげましょか 猫凡
【冬晴】
冬の晴天。大気は澄み空は青く、全てがくっきりと見えます。
遠富士の大きく近く冬晴るる 志摩角美
モンゴルの空もかくやと冬日和 猫凡
【冬木】
落葉・常緑問わず寒さに耐える冬の木姿。寒木とも。
つなぎやれば馬も冬木のしづけさに 大野林火
児の居らぬ児童公園冬木独り 猫凡
【水鳥】
水に浮かぶ鳥で主に鴨の仲間。浮鳥、水禽とも。
水鳥や別れ話は女より 鈴木真砂女
水鳥や水動けども流されず 猫凡
【鴨】
おそらく縄文時代から食されていた身近な鳥。食料の乏しい冬に飛来するカモの肉は古代人にとって神の恵みと感じられたことでしょう。カミ、カモは同じ語源を持つようです。
毛衣に包みてぬくし鴨の足 芭蕉
鴨一羽我が父母は渡来人 猫凡
【八手の花】
天狗の羽団扇と称される大きな葉を持つ常緑樹。暖地では至る所に自生しており、冬に地味な白花をつけます。
花八ツ手星またたけば少し散り 中嶋秀子
花八手冬が寂しくないように 猫凡
【寒椿】
晩秋から冬に咲く早咲きの椿。花の少ない時期に咲き、潔く落ちる様は印象的です。
冬椿逃げも隠れも出来ぬ齢 鈴木真砂女
暗がりを燃やして昏し寒椿 猫凡
【冬夕焼】
秋のそれと同様たちどころに過ぎ去る冬の夕べ。暮れればしんしんと寒さが寄せてきます。
寒夕焼象舎をたたく象の鼻 大高芭瑠子
冬茜冬赤々と暖かし 猫凡
【冬の暮れ】
冬の夕方、日没と共に急激に冷え、家々の灯りがいっそう慕わしく感じられます。【寒暮】も同義ですが、響きはより硬く冷たい印象を与えます。
蜘蛛の糸の黄金消えし冬の暮 西東三鬼
対岸の灯も生命冬の暮 猫凡
【夜鳴蕎麦】
「そばぁ〜う〜ぃ」と呼ばわりつつ夜の町を売り歩く屋台の蕎麦屋で、失われた江戸の風物。夜鷹蕎麦とも。古典落語「時そば」でお馴染み。
灯のもとに霧のたまるや夜泣蕎麦 太田鴻村
カップ麺これも一種の夜泣蕎麦 猫凡
【枯草】
冬になって枯れた草。ひっくり返して「草枯」と言えば、枯草が一面に広がっている状態。いずれにしても寂しい、侘しい風情です。
枯れの中己れもつとも枯れ果てて 鈴木真砂女
呆然と煉瓦煙突草枯るる 猫凡
【梅早し】
春を待たずにいち早く咲き始めた梅。
梅早し眠りて赤子昼湯浴ぶ 秋元不死男
早梅に一瞥も無し予備校生 猫凡
【寒の内】
小寒から春の節分までのおよそひと月、一番寒さ厳しい期間のこと。寒中、また単に寒とも。
木の洞に散る花びらも寒の内 藺草慶子
見はるかす道に人なし寒の内 猫凡
【水仙】
ヒガンバナの仲間の球根植物。白く透ける花の中心に黄色い副花冠があり、温かい印象を添えるのみならず、爽やかな香りを漂わせます。雪中花という美しい異称あり。三倍体が多く、通常種子は出来ません。
水仙や来る日来る日も海荒れて 鈴木真砂女
はたと風止みて明るし雪中花 猫凡
水仙でさらに。
水仙のリリと真白し身のほとり 橋本多佳子
水仙花不稔なれこそひたぶるに 猫凡
【山眠る】
冬の低山の静まった姿。「冬山惨淡として眠るが如し」(臥遊録)が出展。春は山笑い、夏は山滴り、秋は山粧うのです。
砕石の傷口を抱き山眠る 山内遊糸
山眠れ追われし熊を温めて 猫凡
いかがでしたか?季語シリーズは能う限り続けていく所存です。これからもどうぞお楽しみに。