山を嘗めてはいけない
秋風
9月11日
例年とは違った暑さだ。
秋の気配が、遠く思える。
汗。
首にかけたフェイスタオルが頼もしい。
タバコに火をつけ、
アサガオに目を向ける。
紫が、目に涼しく感じる。
こぼれ種から、勝手に生えてきたのだ。
ここ数年、種まきなどしていない。
煙が風に流される。
汗が、心地よく思えた。
登山
以前から、登ってみたい山があった。
運動不足の私に登れるのか
いつかはと思っていた。
今日が、その日になる。
拳を握る。
登山道の入り口に立ち
深く息を吸う。
汗を拭う
険しい道のり
歩き始めた。
もう、引き返すことはできない。
戦う。
落石注意の看板。
運に身を任せるしかない。
背中に冷たいものを感じた。
足場が悪い。
登山靴を履いてないことを恨んだ。
山を嘗めていたのか。
1歩1歩、足裏の感覚を確かめながら登る。
踏み外せば、命に関わる。
右、左
神経を研ぎ澄ます。
危険な道だ。
体は悲鳴をあげている。
滑ったら、お終い。
深く息を吸い、手足の末端まで酸素を送る。
右手、
指。
大丈夫だ。
俺は負けない。
遭難注意。
方向感覚を失うのか
喉が乾く。
水は車に置いてきてしまった。
ミス
後悔しても、始まらない。
登り切る。
負けられないのだ。
登りながら、気づいた。
山の岩なのに、角が取れている。
不思議なことだ。
ここも、昔は海だったのか。
太古のロマン。
大量の汗。
照りつける太陽に、恨み言を唱えながら登る。
もう少しだ。
更なる危険
息を呑む。
これだけの山道
当然だろう。熊・・
幸い、今の所、その気配はない。
思いつきで、計画するでもなく、普段着で登り始めてしまった。
嘗めていた。
山を嘗めると、大きなしっぺ返しが来る。
自分の無謀な考えに
後悔の念が芽生える。
足を止め、しばし休む。
山で植物を盗掘することは
自然を愛するものとして
許してはならない。
キレイな、珍しい花も咲くこともあるだろう。
だが、それは
自然の中にあって
初めて美しいと言えるもの。
守っていかなくてはならない。
山頂
見えた。
辛い戦いだった。
膝が震える。
初めてと言ってもいい登山。
やっと、頂上が見えた。
無謀な行いを、責める人もいるだろう。
素直に、過ちを認める。
今しかないと思った。
今を逃せば、次はない。
ごめんよ。
昔、聞いた言葉が蘇る。
「男は牙を無くしちゃなんねぇ!」
山頂からの絶景に
心を震わせる。
暑い。
空気が薄いのか
息が、切れ切れになる。
降り注ぐ太陽。
僅かな風が、汗を冷やしてくれる。
言葉では表せない幸福感。
俺は、やった。
登り切った・・・。
日和山、日本一の山。
素晴らしい山だった。
俺は、この戦いに勝てたのか?
装備も最低
怒られるかもしれない。
負けなかった。
充実感で、心が踊る。
また、来るよ。
美しい山の全景に
言葉を失う。
下山口
登山は、帰るまでが登山だ。
気を抜いてはいけない。
1歩1歩、確実に足を進める。
清々しい風が吹く。
幸せだ。
俺は強くなれたのか。
タバコを吸いたくなったが
山じゃ、ご法度。
おまけにタバコは車の中だ。
諦める。
深く息を吸う。
うまい・・・。
そんな気がした。
ギフト
素晴らしい景色が広がる。
ハママツナの群生。
素晴らしい。
ありがとうという言葉が
口からこぼれる。
う〜ん、マンダム。
お気づきでしょうね。
辛い戦いでした。
標高、3m。
😎🎵
ここには、熊は出ません。
日本一低い山、日和山。
東日本大震災
あの日から12年と6ヶ月
ここには以前、海辺の町がありました。
今は、もうありません。
ここに生きる人は、強いです。