ヤーマン旅(覚え書き)
コロナも明け、どこへ行こうか、皆さんウキウキしているのではないでしょうか?
孫に会いに行く?それとも、連れ回す?
いやいや、いっそのこと孫のフォアグラ化を目論む?
そんなあなたにヤーマン生涯ベストスリーに入るであろう旅エッセイをお贈りします。
単に、このエッセイもどき気に入ってて読み返したかっただけなんすけどね笑。探すのにめっちゃ苦労した……。
昔読んだ方も、再読カモン!!
僕は今年から『呑み鉄』やりますよ〜
※写真はのと鉄道での初呑み鉄。
それじゃ、皆さん、良い旅を。
『優しい雨』
昔、GWに突然時間ができ、単身旅行をする機会があった。
明日はどこへ行こう?
東なら富士山、西なら京都……
天気予報を見ると、
富士山、晴れ。京都、雨。
ふふふ、これは京都にキマリだな……。
5月の京都。特にGWともなればバカ混みだ。日帰りならまだしも泊まりも考えると、チョイスとしては疑問符が付く。直前すぎるし、しかも雨だ。
しかし、そこは同伴なしのヤーマンスタイル。なんとでもなる。
名古屋から快速を乗り継ぎ2時間半。
その間に安宿をピックアップし、外人御用達のホステルに電話しまくると、今、ダブル部屋がキャンセルになりました!一泊6,000円ですが、いかがされますか?
申し分ない。最高の立地と部屋、価格だ。ツイてる。
実は、京都で特段の目的地なんて無かった。
ただ、雨に映える苔と楓があればそれでいいのだ。
とりあえず、青蓮院門跡に向かう。
京都駅内の喧騒はどこへ行ったのか、
院内は静寂そのものだ。
5月の雨は優しい。雨粒が小さく、せせらぎのよう。もはや静謐な音楽と言えるほど心地よい。
楓も苔達も謳歌するように生き生きとして、美しい青だ。
日本初というおみくじを引くと、もちろん大吉。完全にツイてる笑。満足だ。
門跡の大木を後に、次はどこへと考える。
何しろノープランだ。誰にも邪魔されない。
茶屋でビールと饅頭を頬張りながら、駅で貰ったチラシ『勝林院 夜間拝観とライブ』を見つける。
勝林院はあの歌で有名な大原三千院の横にあるのだが、夕刻6時に来いと書いてある。大原って遠いのかな、どないしょ、よく分からんけど行ってみる?……と軽く考える。
とりあえず、他の寺と缶ビールで時間を潰し、バスに乗る。乗り換えもあるようだ。
大原に向かう路線バスはどんどん市街地を離れ山へ山へ。結構な時間を要し、もはや、完全な田舎で、一体どこへ連れて行かれるんだろうのドナドナ状態。酔も醒めた。しかも、客は僕だけで地元民はそれぞれの停留所で降りていく。
大原に着いた。雨は強くないが、空は暗い。茶屋はあるが、もう閉まっている。
おいおい、GWだぞ?しかもイベントやってんのに、なんじゃこりゃ?
暗がりの参道を登り、三千院の前に着く。閉館。他の寺院も閉まっている。
勝林院はさらにその奥だ。そこでライブがあると書いてあったのだが、やはり閉まっている。
おいおい、ガセか!?
訝っていると、一旦通常開館は終え、再度夜間用に開館するという。
辺りはもう真っ暗だったが、チラホラ人は集まり、霧雨の中待っている。それでも数人だ。
勝林院に入る。
正面に大きな本堂があり、その前には確か特に何もない庭園となっているのだが、その手前に小さな橋がある。
その橋は、この世とあの世の境界で、所謂三途の川を生きながら渡れるもの。つまり、ここからは極楽浄土だ。
本堂には、大きな金色の阿弥陀様が座している。この勝林院は、日本の音楽の発祥の古刹で、(音楽の基礎となる)声明が生まれたところだ。つまりは、それにかこつけて音楽ライブが行われているようなのだ。また、奥には宝泉院という所もあるらしい。
客は10数人。
先ず、住職が経と声明を唱え、その後プロの女性オペラ歌手1人がアカペラで歌う。
さすがに、マイク無しの、あの近距離でのプロの生歌は初めてだったので、その声量と音圧に驚き感動もした。しかし、曲目が『君が代』『アメージンググレイス』『もののけ姫?』だったので、正直よくわからないものではあった……苦笑。
ライブが終わると、客はそそくさと何処かへ行ってしまった。僕は、本堂内をうろちょろ、ライトアップされた御本尊をひとしきり眺めた後、独り皆が動いた方向に進んだ。
どうやら勝林院から宝泉院へ移動したようだった。空気は思いの外冷えており、寒い。
ところで、宝泉院はお寺ではなく、休憩所のような作りであった。歓談なのか説法を聞くのか、そういう部屋が並んでいた。
皆さん、どこかで温かい抹茶でも飲んでいるのかな、と部屋を抜けると、
そこには今まで見たことの無い世界があった。
幽玄……。
当にこれを指すだろう言葉。
僕は、少しの間座ることすら忘れ、立ち尽くしていた。
何畳あるのか、大きな部屋の隅では客達が思い々々に眼前に広がる庭を眺めている。
皆の目的はこれだったのか……。
額縁庭園。
住職が少しばかりの説明をしていた。
中央には巨大な五葉松。
青葉の楓と庭木達。バックには青竹林を借景に従え、遠くから聞こえる蛙の鳴声。
それらが柱間に描かれるように見立てられ、更にライトアップされているのだ。
僕は、座ったまま時間を忘れていた。
後で知ったのだが、
宝泉院は京都でもかなりの庭名所で、過去には『そうだ、京都行こう』のJRCMにもなっている。しかし、大原という遠所のため、観光者は昼間は多いが、夜は隔絶されたような雰囲気となる。
夜間拝観はGW、秋、冬の極短い期間で行われており、僕はその秋にも今度はカミさんを連れて行ったのであった。
雨の宝泉院。
あの幽玄の世界。蛙の鳴声。
未だに忘れられぬ感動。
特別な一日。刹那。
優しい雨と芽吹く青葉は、それを思い出させてくれるのだ。
※2023.4.8追記
写真は秋の宝泉院。HPよりいただきました。
写真は撮っていません。心に焼き付けるのが一人旅の醍醐味ですね。
『幽玄の夜、次の日』
(先週の続き)
宝泉院。時間はまるでその刹那で止まっているような顔をして知らないうちに進んでいるものだ。閉館ギリギリ、最終バスで京都駅まで戻る。
宿は駅前だった。実は観光をするのに京都駅前はあまりオススメはできない。真ん中にありそうで実は端っこだし、川床みたいな京都飯も無い。昔、鶴瓶が犬の珍古みたいな京都タワーがあるだけや、と言っていたのを思い出す。
駅前に第一旭本店があったはずと馳せ参じると、なんと22時を過ぎているのに長蛇の列。真隣にもラーメン屋があるのに、そこも並んでいる。なんとかありついたものの、ビミョウだな、としか覚えていない笑。次の朝6時にもその前を通ったのだが、なんと並んでいるではないか。おーい、ビミョウだぞう、教えてやろうかと思ってヤメといた。なぜって?もう、心は嵐山だったからだ。
嵐山。昔、秋最高潮の時に来たことが忘れられない。そして苔寺(西芳寺)があるのだ。
渡月橋を見上げながら河原を散策。苔寺の開門時間を調べると、よ、予約制……しかも相当前からの。あかんやん、やってもうた……と凹むが直ぐ気を取り直す。なぜって?それが、ノープラン旅だからだ。予定調和ではないことが楽しいのだ。
どないするかな……とりあえず天龍寺や常寂光寺、トロッコでも乗る?……と思ったとき、寂庵があるのを思い出した。本人がいらっしゃるかどうかは別にして、あの気立ての良い美人世話人?と会えるかもしれん、と、地ビール片手にテクテク歩く。
時間は13時位だったと思う。寂庵に向かう途中で、門前を丁寧に掃いている女性がいた。何気なしに近寄ると、どうやらギャラリー?のようだ。
「こんにちは。こちらの建物は弊社の代表が保存のために買い取ったものです。中では甘味やお茶もご用意しております。あのルイ・ヴィトンもみえたことがあるんですよ」
「へぇ、何かのギャラリーなんですか?」
「建物やお庭、調度に至るまで素晴らしいと思います。自画自賛でごめんなさい。うふふ。」
丁度休みたかったので、中に入る。
「ようこそ。邸内ではご自由におくつろぎください」
「楓が綺麗ですね」
「そうですね。今日は素晴らしいお天気ですし、少し葉が小さなイロハモミジの青葉と竹林の紅葉がいいですよね。竹はこの季節、筍のために自ら枯らして紅葉するんですよ」
「ほぅ、そうなんですか。これはイロハモミジって言うんだ」
「品がありますよね。楓も沢山の品種が有りますが、貴族にはこのような小葉が好まれたようです」
知的で柔和な美人さんの落ち着いた語り口に癒やされる。広い邸内は心地よい空気で満たされていた。調度品や椅子もビンテージ感溢れている。庭には、竹の黄葉がクルクルと回りながら落ちてくる。忘れてしまったが、玄関の大瓷に生けてあった荘厳な木花、その名前を聞いた覚えもある。思い返せば、あれが知らない人に花の名を聞いた初めてだったかもしれない。
「お茶は何になさいますか?老舗〇〇屋の丹念に焙煎されたほうじ茶や緑茶、コーヒーもございます、茶請けは粟餅です」
「では、ほうじ茶を」
「はい、かしこまりました。それではご準備致します間に、お代をいただきたいのですが、3,000円になります♡」
「さ、さんぜんえん༼⁰o⁰;༽!?」
可能な限り、ポーカーフェイスで頑張った。いや、青筋立ってたと思うが、現金を渡す。もう、仕方ない。ここまでカッコつけてきて、いらないとは言えない。切り替えろ!老舗のほうじ茶となんだっけ、アワ餅に期待だっ
粟餅、親指姫を1/4にしたくらい。
ほうじ茶、確かに飲んだこと無い風味だったが、渋い。オカワリ不可。チーン。
女子二人連れが客引きに連れられて、柔和な美人が得意の会話を始めた。チーン。女子もわなないている。
もう、ここまで来ると面白い。
価格設定が丁度良い。その後もチーンな光景は何度か繰り返された。
僕は、おーい、気を付けろよ、と一声かけてやろうかと思ってヤメといた。
なぜって?
オモシロイからでしょう(≧∇≦)
帰りしな門を出てから、少し歩くと、
『ボッタクリにご注意ください 京都市』
と看板があった。
イイことがあった次の日はなんとやら……
僕は笑い飛ばして、竹林の小径へ向かった。
オワリ
※2023.4.8追記
写真はネットから借用しましたが、実物です。
まだあるのか否か知りませんが、ご興味ある方は行ってみては?笑。
ボッタクリカフェ?
怖い物見たさで行ってみたい気もする。(笑)