辛夷(コブシ)

モクレン科モクレン属の落葉高木。山地や里山に自生する。街路樹や公園樹、庭木として植えられるものは中国原産の仲間のこともあり、自生のものより花が大きい。白木蓮(ハクモクレン)と同様に、銀色の毛に包まれた冬芽が目立ち、染井吉野(ソメイヨシノ)に先駆けて花が咲く。花期は3～4月。葉を開く前に花をつけるので、満開になると木全体が白く見える。花弁は6枚、萼片は3枚で、1〜2枚の小さな葉を従える。モクレン科の花は中心に多数の雌しべがあり、その外側に多数の雄しべが囲む。花が終わると雌しべの集合が育つが、受粉した雌しべだけが膨らむため、ごつごつとしたいびつな集合果になる。秋に熟すと集合果は裂け、糸状の珠柄の導管で赤い種子をぶら下げる。種子は赤い外層、白い油脂の中層、黒いハート形の内層がある。蕾は日の当たり方で発達が異なり、日の当たる南側がよく発達すると、先が北向きになる。

よく似た田虫葉(タムシバ)は花の下に葉がつかないが、本種は小さな葉が1〜2枚つくので区別できる。

集合果が握りこぶしに似ているとこが名前の由来。蕾の形も握りこぶしに似ているため、そちらが語源という説もある。北国ではこの花を目印に農作業を始めるため、『田打ち桜』『種まき桜』『芋植え花』など農業にまつわる別名を持つ。辛夷と書くが、中国の別の植物の名前を誤用したもの。

出典『葉っぱで見わけ五感で楽しむ樹木図鑑』『草木の種子と果実』『里山の花木 ハンドブック』『樹木の名前』『薬草の呟き』