夢を語るのが好きだという人がいた

私は当初、【将来実現させたいと思っている事柄】の方の夢かと思っていたが、そうではなかった
眠っている間にみる夢のことだった

その人が語った夢の話をしよう

ある晩、目が覚めると見知らぬ町に立っていたそうだ
川を隔てた遠くに町灯りが見え、そこに行くために暗い川沿いの道を歩いていたら、いつのまにか林に出ていた

立て札があって、上林と書いてある
ここの地名かと思いスマホで検索してみるが、何処の上林だかわからない

林の中の坂を登りきると辺りは明るくなっていて今度は、下川と書いてある立て札が現れた

漠然と(この下り坂を降りると川があるのだな)と思ったという

その頃には、もう(これは夢なのだ)と気づいて、覚めるまで楽しんでやろうという気になっていたそうだ

坂を下りきると、案の定、川がある
先程の川とは違う川だろうか‥
用水路のような狭い川だ

やはり、ここにも草の陰に隠れて薄汚れた立て札があった
「花ノ木」と読めた

茂みの奥に目を凝らすとぼんやりと赤っぽい花のようなものが見えてきた
なんの花だろう‥
目を細めて確かめようとしたところ、夢から覚めてしまった

なぜか自分の家の庭にパジャマ姿のまま立っており、目の前に薄白い木槿が一輪咲いていたのだという

不思議だろ？と彼は言い、不可解な顔をしている私の返事も待たず言葉を続けた

たぶんね　この夢はこの土地の過去視だったんじゃないかと思うんだよね
僕の家は山の斜面を切り拓いた新興住宅地で、昔は林ばかりだったらしいんだ
この土地の残留思念が僕に、こんな夢を見せた
夢から覚めて僕が立っていた場所は、薄ピンクの木槿の花の前だったけど、昔 そこには赤い花が咲く木があったはずなんだ

意気揚々と夢の話を分析する彼を胡散臭い奴だと思いながらも、また面白い夢をみたら話を聞かせてほしいとお願いしといた

しかし　夢の話も然りだが、夜中に外を彷徨く夢遊病者、しかも眠りから覚める夢で始まる夢をみて混乱しない彼の方が私には不思議に思えてならなかった

私たちが話している今も、もしかして夢なんじゃないですか‥？と問いたかった


〜木槿のある場所〜

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