季節の変わり目に数日あるかないかの空気、解りますか?
小学生の頃
夕焼けはいつもあるもんじゃなかよ。
今日みたいな秋から冬に入る頃くらいに爺ちゃんの好きな本当の夕焼けがあるとたい。
手をふれば羽に当たるほど密になったシオカラトンボが舞う田んぼ道で爺ちゃんは呟いた。
確かに僕にも思いあたる節があった。
燃えるようなとか真っ赤なとか表現されやすいけど、ただただ純粋に″綺麗″って言う夕焼けを見た事があった。きっとそれの事だろうと思った。
手持ちぶさたで無造作に猫じゃらしを引き抜いて爺ちゃんは聞いてきた。
しょーたは、将来なんになるとね?
一呼吸、二呼吸、三呼吸、いつの間にか冷たくなった空気を吸い込んで小さく呟く。
解らんけど、ゲーム作る人とかかな?
大金持ちになって爺ちゃんと一緒に住めたらなんでもいーよ。
夕陽に照らされた爺ちゃんの顔は夕陽色でクシャっとなって笑ってた。
蛙はいつまで鳴いてたっけ。
鈴虫はいつから鳴き始めたっけ。
何となくだけで感じている日の短さ。
爺ちゃんは手をかざすとこれが本物の夕焼けと呟いた。垂れた猫じゃらしも山をかざしながら夕陽に染まった。
眩しくて目を背け、後ろを振り向くと影がどこまでも伸びていた。
あれから何回も何回も夕焼けはあったかもしれない。でもあの時ほど綺麗な夕焼けを見ていない。
その時の夕焼けも曖昧な記憶だけど、夕陽に照らされた爺ちゃんのクシャっとした笑顔だけは今でも鮮明に思い出せる。
僕が見た本当の夕焼けは爺ちゃんの笑顔。
急に冷え込んだりすると、なんか寂しくなりますよね!
小さい時繋いだ爺ちゃんの手、めっちゃゴツかったな~とか、爺ちゃんの飼ってたメダカの名前パンダとかキリンとかライオンとかだったな~…いやなんで名前が動物だったんや!とか、いろいろ思い出します!