瑠璃の秋の物語
あなたの心にあるふるさとは、どんな風景ですか?これは、山里深く父さまの愛に守られて育った瑠璃の生い立ちの物語です。秋の風景と一緒に、ふるさとに想いを馳せながら楽しんでいただけたら嬉しいです。
【瑠璃の秋の物語】
🍁瑠璃の物語 その1
娘の名前は瑠璃といった
母さまは瑠璃を産んでまもなくに、
なくなってしまい、瑠璃は父さまと二人暮らしだった
父さまはまたぎの仕事と
わずかな田畑を作り
慎ましく暮らしていた
幼い瑠璃を懐に
父さまは山に入り
獲物を捕らえると
時折里に降りて
わずかなお金と日用品にかえ
そうして二人はひっそりと暮らしていた
🍁
🍁【瑠璃の秋の物語】その2
瑠璃と言う名は
山に咲く瑠璃色の花の
好きだった母さまが
つけてくれた名前だった
瑠璃はすくすくと大きくなって
父さまを助けて良く働いた
瑠璃は賢く育ち
動物たちを観察しては
山に生える食べられる
草や木の実を見つけるのが
得意だった
父さま、山鳥の卵を見つけたよ
ほら、こんな美味しそうな実も
見つけたよ
おうおう、瑠璃は賢いのう
大切にもって帰ろうの
父さまに頭を撫でられて
その喜ぶ顔を見るのが
瑠璃の一番の幸せな時間だった
瑠璃は山鳥の卵を見つけけると
山菜や薬草や木の実を持って
里に降り、お金にかえて
父さまと二人の着物や
米や味噌を買うのだった
🍁
🍁【瑠璃の秋の物語】その3
瑠璃は父さまに連れられて
山にいくのが好きだった
湿地を越えると
綺麗な水が流れる沢があり
3日に一度
沢の水を汲むために
瑠璃は山道を往復した
夏でも沢の水は
手が切れるほど冷たくて
沢の岩をどけると
小さな蟹がいて
その夜のごちそうだった
父さまは川で魚を捕まえて
火であぶり、二人の冬の間の
食料の準備をするのだった
瑠璃は、父さまと道々に咲く美しい花を眺め、山に木の実を探す時が、何よりの楽しみだった
🍁
🍁【瑠璃の秋の物語】その4
そんなある日
大雨の翌日に父さまが
猟に出る支度をしていた
父さん、今日は水が出ているから
猟は明日にしてはどうかしら
わしとて心配はあるが
続いた雨で約束を
3日も伸ばしてしまったから
いかねばならんのだよ
心配する瑠璃を置いて
父さまは出掛けていった
山の上では
風がごうごうとなり
降り続いた雨で
山のあちこちから
たくさんの水が
しぶきをあげて
どうどうと流れていた
岩場を伝い
沢を渡っていった父さまは
仕留めた獲物を
担ぎ直そうと
手を離したとたん
足を滑らせて
岩場から谷底へ
滑り落ちてしまった
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🍁【瑠璃の秋の物語】その5
たくさんの村人が父さまを探し
父さまは生きていたが
もう歩くことができなくなった
瑠璃は父さまと二人の生活を
支えるために
昼間は里で働いて
夜は山で木の実や草を集め
朝早くから畑を耕し
早くから遅くまで
それはそれは働いた
山に冬が来る前に
食料を探すため
瑠璃は
里に降りる前に
暗いうちから山を歩いた
夏に花をつけた山百合の根
枝にからむムカゴの実
ドングリの実に
食べられる草の根も
山の恵みを抱えて戻り
冬に備えるのだった
枝の上をムササビが飛んでいく
山の風がゴーゴーなって
秋の山は少しずつ寂しくなっていく
山道を歩いていた瑠璃が
嬉しそうに駆け寄った
あったわ!
父さんが教えてくれたご馳走
それは松の木にできた丸いこぶ
こぶのひび割れに
細い枝をさして
甘い汁をすくう
小さな山の楽しみだった
家に帰ると父さまに
今日の収穫を報告して
粗末たけれど温かい
食事をするのだった
🍁
🍁【瑠璃の秋の物語】その6
瑠璃は美しい娘に育ち
気立ても良かったから
たくさん若者が
嫁に欲しいと言ってきた
瑠璃や
なかなか優しそうなお人じゃ
わしのことはいいから
お前の幸せを掴んでおくれ
それが
父さんと母さんの願いじゃ
いいえ
私はここが好き
父さんと一緒にこの先も
ずっと住んでいたいから
そういって
断り断り続けるうちに
嫁にと欲しがる話もいつしか途絶えた
🍁
🍁【瑠璃の秋の物語】その7
瑠璃は山にいくと口笛で
小鳥を呼び
小鳥のあとを追って
木の実を見つけることも
山の小さな動物たちから
薬草を教わって
里に売りにいくことも
できるようになっていった
そんな
秋のある日のことだった
🍁
🍁【瑠璃の秋の物語】その8
山に木の実を取りに出かけた瑠璃は
大きな木の一面に絡み付く
立派なムカゴの実を見つけた
まぁなんて美味しそう
こんなにあったら当分は
食べるものに困らないわ
山はもうとっぷりくれて
昇ったばかりの月が
空から弱々しく
光を届けるだけだった
瑠璃は明日にしようかとも思ったが
父さまの喜ぶ顔を見たくって
ムカゴの蔓を引いたのだった
🍁
🍁【瑠璃の秋の物語】その9
瑠璃の引いた勢いで
枝がポキリと折れて
ムカゴの蔓ごと
瑠璃は崖から転がった
崖に張り出した
ツツジの枝か
瑠璃の着物にかかり
瑠璃はツツジの枝をつかみ
ぶらんと崖にぶら下がった
もう一生の終わり
瑠璃は涙を流しながら
月の神様に祈ったのだった
ツクヨミさま
どうぞいのちを助けてください
このいのちがあったなら
今まで以上に働いて
父さんを大切にいたします
山も里も大切にいたします
そして最後と観念して
山の鳥たちにお別れの
口笛を吹いたのだった
その夜は満月で
村の若者が一人
月を楽しみに庭に出た
そこへ一羽の真っ白な
フクロウが飛んできて
不思議な声で鳴くものだから
若者は
枝から枝へ飛び移る
フクロウを追いかけて
山へと入っていった
その時
山の中から時ならぬ
ホトトギスの鳴く声が聞こえてきた
こんな季節に不思議なことがあるものだ
若者は行こうか行くまいか
迷いながらも
声をたどって崖にたどり着いた
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🍁【瑠璃の秋の物語】その10
崖から張り出た枝に
ぶら下がって一心に
ホトトギスの鳴き声を奏でる瑠璃に
気づいた若者が瑠璃を見つけ
蔦をおろして瑠璃を助けた
もう大丈夫だよ
怖かったろう
一時は死を覚悟した瑠璃は
さめざめと泣きながら
若者に礼を言ったのだった
月の光に家路につくと
瑠璃を呼び続けて
声をからした父さまが
庭で一心に祈っていた
山から戻った娘を抱いて
おんおんと泣きながら
何度も何度も
若者に礼を言うのだった
若者は
こんな夜に山に出ていたことを
不思議に思い
瑠璃に理由を聞いたのたった
瑠璃の話を聞いて
感心した若者は
瑠璃に自分の畑で働き、
父親も近くに住まえるように
そして、使わなくなっていた
屋敷の隅の小屋も二人のために
手配してくれたのだった
働き者で心優しい瑠璃は
みんなから愛されて
やがて若者の嫁になり
かわいい子にも恵まれて
幸せに暮らしたと
🍁
🍁【瑠璃の秋の物語】
エピローグ
聞こえるだろう
ホトトギス
月夜の晩には実りを備え
ホトトギスの声を真似
月の神様と山鳥に
感謝を祈る瑠璃の声
山の紅葉が色づく頃も
山でホトトギスを聞いたなら
いのちの終わったあとも
瑠璃が奏でる鳥の声
🍁瑠璃の秋の物語
これは、私が始めかいた物語です。
誰にでもある子供時代、自然の中のふれあいは、今も心を暖めてくれますか?
故郷の山々や、私を慈しんで育ててくれたふるさとに想いを馳せて書きました。
山里で育った瑠璃の物語を
秋の野山を想い浮かべながら、
楽しんでいただけたら嬉しいです。
瑠璃の物語、みどりのまとめにされてたんですね!! タイムリーに拝見できて嬉しいです💓物語記憶に残ってました!一気に読めて良いですね!!