『オシロイバナ』
🏷️今日のお花



ある山あいの小さな集落に、古い屋敷がありました。
その庭には、毎晩のように白粉花が咲き誇っていました。
昼間はただの花畑なのに、夕方になると、どこからともなく甘く重たい香りが漂います。
村人たちは誰も近づこうとはしませんでした。

理由は――「夜になると、白粉花の中に“女が立つ”」という噂があったからです。

ある若者が、噂を笑い飛ばし、
「そんなもん、見てこようじゃないか」と
月のない晩に、その屋敷へ向かいました。
花は風もないのに、ゆらゆらと揺れていました。
白い花弁がぼんやり光り、闇の中に浮かんで見えたといいます。
彼が近づくと、ひときわ大きな花がゆっくり開きました。
すると、その花の奥に……“白粉を塗ったように真っ白な女の顔”が見えたのです。

「……見たわね」

女の口が、花びらのようにゆっくり動きました。
次の瞬間、若者の身体は動かなくなりました。
女は花の根元から這い出すように、彼の足もとへ近づいてきたのです。



朝になり、若者は屋敷の庭で見つかりました。
顔は真っ白、まるでおしろいを塗りたくったように固まっており、
目だけが見開かれたままでした。

そしてその日から、屋敷の白粉花はひとつだけ――
血のように赤い花を混ぜて咲くようになったといいます。



良い一日をお過ごしください🍀