今年もまた、あの哀れな鳴き声が聞こえてきた。
私は、あれは、ハロウィンの魔物に捧げる生け贄の鳴き声に違いないと密かに思っていた。

遠くの森の方から悲鳴のように聞こえてくるそれは、助けを求めるような、悲しみをふりしぼるような、切ない響きだった。
あんなに悲しげな鳴き声を聞いたことはなかった。

町の人々があの鳴き声について話題にもしないのは、触れてはならない禁忌だからなのかもしれないと思った。
あれは犬の鳴き声だ、という家長の言葉さえ、真実を誤魔化しているように感じられた。
私だけが知らないこの町の秘密に違いないと推察した。

性能の低い双眼鏡を持ちだして、二階の窓から森の方角を覗いたりもした。
生け贄を捧げる石の祭壇が見えないだろうか、何かの恐ろしい痕跡はないだろうかと探した。
肉眼で見るよりマシだろうと引っ張りだしてきた双眼鏡は倍率が低いわりにはレンズが暗く、使い物にならなかった。

手がかりもないまま、夜更けに聞く その鳴き声は、私の想像力をますます掻き立て、眠れなくさせた。

ところが、だ。
一昨年のハロウィン月の投稿で、この薄気味悪い鳴き声について語ったところ、“鹿かも”というコメントを頂き、、、
調べたら、鹿だった…。
発情期のオスがメスを呼ぶ鳴き声に相違なかった。

こうして私の年1の楽しみは、あっけなく終わりを告げた。

今年は、その鳴き声がさらに大きく聞こえて、何だか近づいてきているみたいだ。
相変わらず哀しげな鳴き声には違いなかったが、以前のようなドキドキ感はなくなった。
鹿のオスも大変だな…と、つまらない冷めた感情しか湧いてこず、早々に窓を閉めて、鶏を捌きに(嘘)階下に降りていった。


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