山形の民話《611》
とんとむがし。
仕事もしねで、寝でばっかりの寝太郎っつう息子いだっけど。
おっかは息子ば見るたんび、言ったんだど。
「寝太郎、寝太郎！ちっと働げ💨」
　ある年の正月、寝太郎やっぱりごろごろしったがら、おっかは裏山見上げで言った。
「餅もね、ごっつおもねげんど、いい天気だなぁ。寝太郎のやづ焚きもんでも集めに行げばいいんだげんてどなぁ」
　そしたら、どうした事だが、寝ぼけまなこの寝太郎、のっそり立ち上がったど思ったら、よろよろ裏山さ登ってってしまった。
　おっか、たまげだ。
「ありゃ！寝太郎！崖がら落ぢんなやぁ」
　寝太郎は、山の上だ、おっかの小言もね、その辺の木の根っこさ腰かげでボォっとしてだら、まだ眠たぐなってきた。
　そん時、目の前の穴がらネズミちょろっと出できたんだど。
「ふん、ネズミが」
　見だら、何が加えった。ちっちゃい袋だ。
「んなもん咥えで、どさ行ぐんだべ」
　眠りかげの寝太郎、寝ころがったまま、小袋咥えだネズミば眺めてったったど。
　ネズミは日向の草っ原で袋の口あげた。ポトンと出だなは、なんと小判よ。ネズミは小判ば何枚も運んじゃ日向さ並べで、そのまんま穴さ戻ってしまった。
「なんだ、小判の寒干しが」
　寝太郎はボンヤリ見ったったげんど、大欠伸して寝でしまったんだど。
　風が出できて目覚めだ。小判はみな片付いったがら、寝太郎も家さ戻ったど。
「こら！寝太郎っ‼︎ 山でなにしてだった！焚ぎもんも拾わねで」
　おっか怒ったのなんの。
　そしてその夜。寝太郎の家さ、見だ事もね美しい姉さま訪ねで来たんだど。
「こんばんは。今日の昼間、ここの寝太郎さんに、小判の寒干しの番してもらって、とってもありがとうございました。これは御礼の気持ちです」
　そう言って、おっかさ小判をジャランと渡してから、深くおじきして帰って行ったんだど。
「あれぇ、寝太郎、おめ何したんだぁ」
「おら見ったった。ネズミあげにいっぺぇ小判ば持ってだなんぞ知ゃねがった」
　ネズミがらたっぷり御礼もらって、寝太郎の家は、正月ばやり直しして、それがらは、人もうらやむ福福しい暮らしになったんだど。
　とんぴんと〜。
"山形とんと昔の会 : 江口文四郎編より"