ミカリンが敷き詰めた植物に小花が咲き乱れる頃、郵便配達人は、ハッとする。
つい、この間まで、配達物を届ける度に踏みつけていた植物だ。

雑草ではなかったのか…。
配達人は、後ろめたい気持ちで小花をまたぐ。

「そこ、踏まないでね」
ミカリンは、そういう事は言わない。
配達人が踏みつけていく度に、小花が咲いたら、どうするかなと、ほくそ笑む。

また、ある日は、目の前で話をしている人のまぶたの上に数本の眉毛(たぶん毛抜きで抜いたばかり)が張りついていたとしても教えない。
張りついた眉毛の数を数えながら、和やかに話し続ける。
そして、次に会った時に、職人手作りの上等な毛抜きをプレゼントする。

庭仕事中に、登下校の子供たちが「ミカンや！」と言いながら通り過ぎても「ユズだよ」とは教えない。
下校時間を狙って、「ご自由にお持ち帰りください」と札をたてたミカンの段ボール箱にユズ玉を入れておく。
超絶すっぱい顔をしている子供たちを想像する。

ミカリンは今朝、にゃこの通り道に、画鋲を仕込もうかと考えていた。
だが、画鋲の存在を忘れた頃、草むしり中にお尻に刺さった画鋲を渋い顔で取っている自分の姿を想像した。
こういうの、漫画の「いじわるばあさん」で読んだ気がするわ…。
ミカリンは、画鋲を仕込むのをやめて、大人しくパンジーの花がら摘みをはじめた。
摘まれた花がらは、庭の片隅に積まれて小さな塔になっていた。

ミカリンがお花のお墓と呼んでいる、その塔は、にゃこの通り道にあるけれど、にゃこは、その塔を一度も崩さずに通り抜けている。

〜庭のプラティア〜