ガクウツギ？
っていうんだって、おばあちゃんが教えてくれた。

おばあちゃんはこの花が大好きで。
なんでそんなに好きなの？って聞いたことがある。

私の記憶にあるくらいの幼い頃だったと思う。

おじいちゃんとおばあちゃんが、まだ若かりし頃。
お花が大好きだったおじいちゃんが、初めて教えてくれた花だったそうだ。

「いや、だから…これはノリウツギだって。」

そう母が呆れたように呟いていたのも印象に残っている。
きっと母も、何度も聞かされてきたのだろう。

母は私に間違った知識を付けさせまいとしたのだろうか。

「これはノリウツギ。ガクウツギはもっと低い木で、葉っぱも細くて長いからな。」

と、しつこく教えてくれた（笑）

でも祖母は、これはガクウツギだと言って譲ることは最後までなかった。

「おじいさんがそう言うたんや。おじいさんが間違えるはずない。あの人は私とちごて、学がある賢い人やから。立派な人やから。」

そう言って譲らないから、母も叔母も、訂正するのをやめたらしい。

「そうやな。お父さんは立派な人やった。あんな賢い人が間違えるはずないな。」

「うん。お父さんは偉い人やったからな。私らが間違えて覚えてたんやろな。」

真っ白な建物の、真っ白な部屋で、窓から入る明るい日差しに照らされて、眩しく見えるお布団に横たわった祖母の前で、2人はそう言って優しく微笑んでいた。



そう。祖母にとっては、これはガクウツギなのだ。

1番大切な人が、にっこりと微笑んでそう教えてくれたから。



それでいいのだ。



そんな思い出にひたる、今日の散歩道だった。