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さすらいのボタニスト、ヤガメです。こんにちは。
コチョウラン(胡蝶蘭)の苗は、人知れず「海外旅行」をしています。
ご存知でしたか?
コチョウランの苗は海外の工場のようなラボで作られ、生育ステージごとにいくつか別の国を経由して、日本にやって来るのです。
コチョウランを咲かせる方法は、完全にマニュアル化されていて、
まるで工業製品のように、安定して生産することができます。
だからこそ、花屋さんの店先には、一年中コチョウランの鉢が並んでいるというわけです。
コチョウランというランは、すごい植物だとつくづく思います。
彼らの故郷は熱帯アジアの樹の上ですが、そのたぐいまれな美しさから人という生物に見い出され、品種改良されてしまいました。
その結果、どうでしょう。
今日では、ほかの植物が入り込まない場所……歌舞伎役者さんの楽屋、結婚式の花束、果ては棺桶の中まで、その「分布」を広げることとなりました。
ここまでさまざまな場面で使われる花も、そうは多くないと思います。
花屋さんの店先を見ると、一年中コチョウランの高価な鉢植えが置かれています。
彼らには「開花期」というものがないのでしょうか。
考えてみれば不思議なことです。
サクラの花は一年中咲いているでしょうか?
そんなことはありません。
たとえば、ソメイヨシノという品種。
年に一度、春先にしか花を咲かせません。
それなのになぜ、コチョウランは私たちの生活の隅々で花を咲かせているのでしょう?
実は、コチョウランに花芽を付ける方法は完全にマニュアル化されていて、工業製品のように安定して花を咲かせることができるのです。
つまり、コチョウランが花を咲かせる「開花期」は、自然の季節のうつろいに関係なく、人間が操作することができるのです。
花卉(かき)植物として、非常に優れた性質を有しているといえるでしょう。
コチョウランの栽培過程とは、どのようなものなのでしょう。
実は、コチョウランの苗は人知れず「海外旅行」をしています。
花卉(かき)業界では、「リレー生産」と呼ばれている方法です。
簡単に紹介しましょう。
・一株から無限大
コチョウランの小苗は、まず台湾などで生産されます。
コチョウランは、バイオテクノロジーの特殊な技術を使うと、1株から品質のそろった苗を、無限ともいえる量に増殖させることができるのです。
これらの様子は、
など、台湾の生産者のwebサイトでも、見ることができます。
・苗は暖かい地で一括管理
その後、コチョウランの苗は、インドネシアをはじめとする、東南アジアの国々に輸出され、一括管理されます。
その風景はすさまじく、遠い彼方までコチョウランはじめ洋ランたちの苗がビッシリ並んでいる農園も稀ではありません。
コチョウランは低温に弱いので、暖房設備の必要ない熱帯アジアで大きな苗に仕立てられるのです。
人件費が比較的安い国で、暖房経費をかけずに育てられれば、生産コストも安く抑えられるというわけです。
・低温にさらす山上げ
開花株にまで育つと、「山上げ」と呼ばれる処理がなされます。
標高の高い場所に、苗を移動するのです。
コチョウランは、山上げして18度程度の低温にさらされることで、花芽ができます。
・花芽ができて苗の完成
コチョウランの鉢植えが一年中見られるのは、この性質のおかげです。
苗を充実させ、一定の温度帯に置けば、花芽ができるわけです。
なんとも、人にとって都合のよい植物です。
この段階で、苗という「商品」が完成します。
youtubeにも、各国での栽培管理の様子がよくわかる動画が、たくさんアップされています。
たとえば……
これらを見れば、コチョウランが、いかにシステマチックに生産されているかわかると思います。
・日本では贅沢な管理のもと……
その後、日本のコチョウラン生産者が苗を輸入します。
日本では、温度・湿度・照度などが完全制御された温室で育てられます。
商品価値の高い鉢花にするためには、真夏は冷房、冬場は暖房という、実に贅沢な環境下で管理しないとなりません。
・出荷までに多くの手間が
出荷までには、咲いた花が美しく見えるように支柱を立てて花茎を整えたり、美しい鉢に植え替えたりする手間も必要です。
その仕立ての技術は、長年の経験が必要で、職人芸とも言えるでしょう。
コチョウランの鉢花の育成が、生育ステージごとに別の国で行われているという事実は、あまり知られていないと思います。
今度コチョウランを見かけたら、「長旅ご苦労様」とねぎらってやると、喜ぶかもしれません。
フローリスト編集部