我輩は苔である。名前はまだない。
　最近女主が種まきや山野草や食虫植物探しに忙しく過ごしており、☔や四月と言うのに、雪や霜たまに霰なるものにも負けずに、上に上にと登りつめておった。
　ここは静かで良い眺めである。そこにジゴクノカマノフタや水仙が下のほうで咲き始め、和んでおった。
　しかしこ奴らが咲き始めると、ワシの住いは、けたたましい女主の声が響き渡るのだった。

『きゃ〜。ねぇ。この便秘の子どもの十人分位の糞はなによ。鹿じゃあないよ。これは〜。もしかして〜。ねぇ。ねぇ。筍探してこんなもの見つけた。これは皆にお知らせせねば〜。こわいよ〜。』
　女主のけたたましさに恐れをなして、背に担いだ筍二つ入った竹籠を見せて、『今日はこの位で帰ろうか？保育園の子どもがしたんじゃないん？』
　誰がこの薄暗い山に入って子どもに💩をこれだけの量させる親がいるのか？言い返したい思いをこらえたかの様に、踵を返した女主。

　ワシは女主の弱点を見たような気がした。