落ち葉の陰から虫がお花を盗み見ていました

この虫は肉食なので植物は食べません
お花を綺麗だなと思って見ていました
できるならお花に生まれたかったと思って見ていました

生まれてこのかた、虫はいろんなものを食べてきました
バッタ、蜂、コガネムシ…
どれを食べている時もお花は隣で静かに咲いていました
虫は、自分のように音を立てて食事をしたり、ワシャワシャと足音をたてないお花のことを、とてもクールだと思っていました

あんなふうに何事にも動じない生き方をしたいと思っていました

虫は、お花がそばにいる時は意識して、なるべく音をたてぬように行動しました
落ち葉の季節は虫にとって一番恥ずかしい時期でした
注意して歩いていても必ずカシャ‥カシャ‥と乾いた枯葉を踏む音がするのです

お花は、虫を嗤うことも嫌がることもなく、だまって綺麗に咲いていました
虫はますますお花が好きになりました

虫は、今度こそ静かに食事をしよう‥と心に誓いました
そして、足音が少なくなるように関節を思いきり伸ばしながら大きな歩幅で帰っていきました

お花はだまって虫を見送りました

虫は、知りませんでした
お花が虫の自由さに憧れていることなど少しも知りませんでした



※虫は写っていません探されませんように…