【ピンクッション物語】 第四話
～スプレーマム～


父さんはそう言うと、じっと僕の言葉を待った。


父さん、俺、皆に誘われてやっと友達になれるってすごく嬉しかったんだ。でも、本当は皆の心はそうじゃなかった。
飛ばされて空中に放り出された時間は、スローモーションみたいに長くて、このまま死ぬかもって一瞬思ったんだ。悔しいって言うより、心に一気に大きな穴が空いて割れた風船みたいでさ。

そしたら、空の真ん中で、雲が集まって大きな手になって僕を受け止めたんだ。

『ダメだよ、君には、まだたくさんやることがある！』
って声もした。

嘘みたいだよね。
信じられないかも知れないけど、本当なんだ。
その手が一旦俺を受け止めてくれたから、腕と腰を打っただけですんだみたいなんだ。

それに、父さんだから言うけど、酷い怪我だったのに、痛みは全くなかったんだ。体が動かないだけ。


俺も、治ったらどうしようか、ここで寝ながら考えた。
毎日考えたんだ。
他の学校へ転校すれば、一度リセットされるかもしれないけど、同じことの繰り返しかもしれない。

俺、逃げ出さずに、ここで戦いたい！父さんは、俺よりたくさん生きて、いろんな経験もしてると思う。俺に戦いかたを教えてほしいんだ。

俺、泣きながら父さんに頼んだんだ。そんな話、親とするのも、きっと人生で初めてで後がないかもな。


親父は黙って聞いてて、少し考えると言ったんだ。


卓、時に逃げるのも賢い戦いかただ。命を守る以上に大切なことはない。
だけど、お前の逃げたくないって言う気持ちも痛いほどわかる。
小学生だろうと、人の心はすさんで汚いものもあるから、精神論だけで何とかなるなんて、甘い考えは俺もない。

お前に覚悟があるなら、武道とか格闘技とか習うのも一つだ。
そして、人をよく観察して、人の心を知るんだ。たくさん本も読め。皆より頭を突き抜けるには、人の心を知ることも大切だ。
ずるく生きろと言うことじゃないが賢く生きろ。ただし、誠実に生きることは大切だ。

退院するまで、よく考えてくれ。そして、もう一度、父さんと話し合おう。


そうして、退院する前日、俺は父さんと決めたんだ。

(続く)

🌺今日の花 スプレーマム
花言葉 高潔

第三話のピンのテーマは、高潔
な心です😊❣️