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so.ra
🌸マーガレットの咲く道で🌸 その10 穏やかな陽射しのなかで、花に水をあげるおじいさんに、一人の女性が声をかけた。 『いつも、綺麗な花を見せていただいて、ありがとうございます。この花は、子供の大好きな花でした。いつか、花に傘をささせていただきまして。勝手なことをして、大変失礼しました』 あの、傘の坊やのお母さんでしたか。 おじいさんは、とんでもない。あの日の傘と手紙に、自分まで元気付けられたのだと、お礼をいった。 はじめて会ったのに、とても優しく話を聞いてくれるその女性に、おじいさんには珍しく、娘の事故とマーガレットの花のエピソード、そして、妻との約束など、いろんな話をしたのだった。 黙って聞いていた女性の目から、一滴涙が落ちた。 『あの子は白血病だったんです。症状が落ち着いて、しばらくの間学校に通うことができていたんですが。登校の途中の道にたくさんのお花がある家を見つけたと、とっても嬉しそうに話してくれまして、私もとても嬉しくて。 息子が病院から戻って学校に通えたのは、わずかに3ヶ月でした。また症状が悪くなって病院に戻ってから、あっという間に悪化して亡くなってしまいました。 あの雨の日は、子供の受診の日でした。また、症状が悪くなってしまい辛い治療が始まるのかと私は重い気持ちでした。 雨が降ってましたが、お母さんにも見せたいから、少し回り道だけどお花の道を行こうと息子が言い出して。息子に案内されてお宅の花壇の前を通って行ったんです。優しい子でしたから、息が苦しかったりだるさもあったと思うのに、どこかで私を元気付けたいなと思ったのかもしれません。 たくさんの綺麗な花が咲いていている花壇を見て、私もとっても慰められたんですよ。 そして、子供が言ったんです。僕が生まれ変わったらこの花になりたいな、そしたらきっと見つけてねって。 …私はきっと見つけると、約束したんです。 息子が亡くなってから、マーガレットはみんな子供に思えて、ますます大好きな花になりました。』 女性の言葉を、おじいさんも涙を流しながら聞いていた。 そして、女性にちょっと待ってもらうと、あの日のコウタ君の傘を持ってきた。そして、花壇に咲いているマーガレットの花を切り始めた。 この花を、息子さんにお供えしてください。花は、すぐにまた元気に咲いてきますから。前よりもっと元気に咲いてくれますから、心配はいりません。 腕一杯に抱えきれないほどの花束を受け取って、深々と頭を下げて、また会いに来ますねと挨拶して、女性は立ち去った。 女性は、花束を抱えて駅への道を歩いていたが、立ち止まりしばらく考えて、反対方向の学校へと歩いていった。 幸い、コウタ君が通っていた頃の担任の先生に会うことができた。女性は、今日の出来事を先生に伝え、コウタ君がいた教室に、もらった花の半分を飾ってもらえないかと手渡した。 コウタ君のお母さんから、おじいさんの思いや娘とのエピソードを聞いた先生も、感動しながらお礼を言って花を受け取った。 花を教室に飾ると、先生は今日、お母さんから聞いた話やコウタ君の話を子供たちに伝えた。先生の目からも涙が落ちた。先生の話を神妙に聞いていた子供たちは、そっと顔を見合わせた。 放課後になると、数人の子が下駄箱の前で何やら相談していた。 僕ら、悪いことしちゃったなぁ。 うん、あのおじいさん、優しい人だったんだね。 ねぇ、謝りに行こうか? えー、勇気ないよ。 それなら、本当に花をみんな切っちゃったのか、見に行くだけでも。 そんな相談をして、子供たちはおじいさんの花壇を見に行った。今朝まで咲いていたマーガレットは、みんな葉っぱだけになっていた。 ほんとだね。 花を切っちゃって悲しくなかったかな。大切な花をくれたんだね。花がなくなって大丈夫だったかな。 そんなことを言いながら、今日先生から聞いた話とおじいさんの顔を思い出して、みんなは顔を見合わせた。 次の日から、登校する子供を見送るおじいさんに、子供たちから挨拶をするようになった。 何があったんだろう? はじめは不思議に思っていたおじいさんも、笑顔で挨拶を返すうちに、子供たちとも仲良くなっていった。子供たちから話を聞いた家の人たちも、おじいさんに挨拶をするようになって、今や朝や夕方のおじいさんの家の前は、たくさんの笑い声に包まれるようになった。 門の入り口には小さな椅子が2つ置かれた。 時々、友達と喧嘩した子供たちが、花を見ながらおじいさんに話をしに来る。今もちょっぴり恥ずかしがりのおじいさんは、黙ってにこにこと話を聞くだけだけど、子供たちはそんなおじいさんが大好きで、おじいさんを 『花じい』 と呼ぶようになった。 マーガレットの咲く道で お客さんがいない日は 小さな蝶が訪れて おじいさんの椅子に座っていく 綺麗だね 可愛いね 蝶の言葉に 白いマーガレットが ピンクに変わるところを あなたはどこかで見たかしら 🌸マーガレットの咲く道で ~END~ 最後まで読んでいただきまして、ありがとうございました❣️
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🌸マーガレットの咲く道で🌸 その9 桜を散らす強い風 細い茎が花を支えて 花びらが風に羽ばたく 飛び立っていくような 桜吹雪の中の紫の蝶の群れ 桜並木の下を、一面に埋め尽くすムラサキハナナ。 妻が亡くなってから、不思議とあちこちの花に目が行くなぁ、そんなことを思いながら歩く道。 『お前、お前はきっと私が歩く道の、あちこちの花になって咲いてるんだね。どの花を見ても、みんなお前に思えるんだよ。どんな手品を使ってるんだい。 あの日、お前とした約束を、ちゃんと守っているよ。 花の世話をすることも ちゃんとご飯を食べて、元気でいることも 登校の子供の見守りは、できたら続けて欲しいと言ってたね。 大丈夫続けているよ。 そして、できるだけ子供たちに笑顔を、ってお前の注文も頑張ってる。たまに一人ぐらいは笑いかけられるようになったよ。 まぁ、だんだんさ』 空を見上げたおじいさんの顔に、風が運んだ花びらがヒラヒラと舞い落ちる。 花があったから、こんなに穏やかな気持ちでいることができたなぁ。そんなことを思いながらまた歩き出す。 微かに漂う花の香り。今年生まれた蝶が、あちこちの花壇をヒラヒラと舞うように飛んでいる。 🌸
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🌸マーガレットの咲く道で🌸 その8 いつも素敵な花を見せていただいて、有り難うございます。雨で、花が折れないようにと息子が心配して、傘をささせていただきました。勝手なことをして申し訳ありません。 (母) ぼく、このはながすごくだいすき! おはなのみちが、すごくすき! いつもありがとう。 また、おはなをさかせてね。 ぼくのかさは、おはなにあげるよ。 あめにぬれないように、おじいさんがさしてもいいよ。じゃあ、げんきでね。(こうた) 傘には『たなかこうた』と名前が書かれていた。そして、添えられていた手紙。 思いがけない花への思いやりと、優しい手紙。その手紙は亡くなった娘からの手紙のようにも思えて、おじいさんの心を沈ませていた思いが涙のなって流れ落ちて、不思議と心が軽くなっていくように思えた。悲しみで塞ぎ混んでいた毎日、しばらく忘れていた暖かい気持ちに触れて、娘の笑顔が心に浮かんで、頑張れ!って言われているような気がしたのだった。 こうたくんか。 大好きってことばがこんなに嬉しい言葉だったとは。花を育てる喜びを、いつのまにか忘れていたよ。すまない。これからは、大切にしていくよ。 おじいさんは、涙をぬぐいながら、手紙を大切に畳むと仏壇にそなえた。 それからしばらくして、入院していたおばあさんが亡くなった。亡くなる数日前に、おじいさんはおばあさんと約束をした。 🌸
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🌸マーガレットの咲く道で🌸 その7 病気のお母さんに頼まれて、お父さんがマーガレットの花の世話をするようになった。朝の子供たちの登校も見守るようになった。けれども、お父さんは、日に日に病気が悪くなるお母さんの心配で、心配でたまらなかった。 可愛い娘はもういない。あんなに元気だった妻も、重い病にかかってしまい、もしかしたらひとりぼっちになってしまうかもしれない。そんなことを考えては涙がこぼれそうになる。学校へいく可愛い子供らの姿を見送っていても、亡くなった我が子が思い出されて泣きそうになる。そんな気持ちを隠そうと、咳払いをしてみたり、ふん!と言ってみたり。 お父さんは、以前のように、花に話かけることもなくなり、水をあげていてもどこか上の空だった。 その朝は、激しい雨が降っていた。お父さんは、風邪ぎみで体調も悪く、今日は雨だから水やりは要らないだろうと外に出ることもなかった。 その朝、マーガレットの花壇の前を、男の子がお母さんと通りかかった。 お母さん、可愛いね。 たくさん咲いてて綺麗だね。 何だか嬉しくなってくるね。 雨だけど、みんな咲いてて、笑ってるみたいだ。 僕ね、今度生まれてくるときはこんな花になりたいなぁ。こんな花になったら、お母さん僕を見つけてくれる? もちろんよ。きっと見つけるわ。そういって、お母さんは男の子の手をぎゅっと握った。 そんな話をしながら、ふと見てみると、強い風雨で折れてしまった花が何本かあった。 お母さん、大変だ! こんなに折れちゃってるよ。 もうだめになっちゃう? そうだ!。僕の傘をお花にさしてあげようよ。 ねえ、お母さんいいでしょう? 男の子の申し出に、家の人の許可をもらおうと探したが、人の気配もなく、男の子のビニール傘を、折れた花を守るようにフェンスに結ぶと、小さなメモを添えて二人はその場をあとにした。 翌日、雨がやんで外に出てみるとマーガレットに傘がさしかかられていた。お陰で強い雨風の中も花は元気に咲いていた。 どなたか知らないが、ありがとう。悲しみで心が一杯で、花のことなぞ上の空だった。大事にしていた花なのに。 食卓に飾られた小さなマーガレットの花、そしてかさと一緒に結ばれていた一枚の手紙。 おじいさんは手紙を手にして泣いていた。 🌸
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🌸マーガレットの咲く道で🌸 その6 その日から、お母さんはマーガレットを育て始めた。たくさん本を買って勉強もして、マーガレットは冬を越えてすくすくと育っていった。 お父さんとお母さんは相談して、家の前に花壇を作り、マーガレットを挿し木で増やし、見事な花壇に育った。他にもたくさんの花を植え、花壇はいつもたくさんの花で溢れていた。 道を通る人たちが、花の美しさに目を止めてお母さんに話しかけ、やがて子供たちも挨拶をしてくれるようになり、二人の毎日は少しずつ明るさを取り戻していった。 『ねぇあなた。あの子の残してくれた花のご縁で、たくさんの人が私たちに声をかけてくれるようになって、子供たちともお話ができるようになったわね。有り難いわねぇ。』 本当にその通りだなぁ、お父さんも目を細めて、花壇のマーガレットを愛しそうに眺めるのだった。 登下校の子供たちを見送るようになり、子供たちもいろんな話をしてくれるようになり、いつしかそれが二人の楽しみになっていった。 雨の日も風の日も雪の日も嵐の日も、お母さんは子供たちの見送りをした。 『今日はひどい嵐だ。風邪をひいたら大変だから、休んだらどうだろう』 時々、お父さんが声をかける。 お母さんは『こんな日だからこそ、見送りが大切なのよ』 と笑いながら答える。 毎日そうやって、子供たちを見送って何年も時が過ぎた。 そんなある年、お母さんに重い病気が見つかった。入院したお母さんの代わりに、お父さんが花の世話をしたり、子供たちの見送りをするようになった。 🌸
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🌸マーガレットの咲く道で🌸 その5 うなずきながら黙って話を聞いていた用務員さんが、やがて口を開いた。 良かったら一緒に来てくれませんか? 歩き出した用務員さんに連れられていったのは、グランド脇の斜面に広がる花畑だった。そこには一面に見事なマーガレットが咲いていた。 綺麗でしょう。お嬢さんと僕で作った夢の花壇なんです。いつか、手伝いに来てくれたお嬢さんの前で、咲き終わったマーガレットを捨てようとしたら、捨てるならちょうだいって言うんです。 どうするのって聞くと、お花畑を作るのって。 お嬢さんは『大人なのに知らないの?花はね終わるときは、また始まるときなのよ』って。 私が、誰かに聞いたの?って尋ねると『ちゃんと、花を見てたらわからでしょう』って、言われちゃいまして、私の方が教えられましたよ。 そして、一面に咲いたハルジオンの秘密の花畑の話をしてくれましてね。そんな花畑を作ろうと、いろいろ校内の場所を探しまして、ここになら誰にも掘り返されずに花畑ができねと、二人で育て始めたんです。 去年、植えた花がこんなに立派になりましてね。お嬢さんは、いつかこの花畑をお母さんに見せるんだと、それは楽しみにされてました。 事故にあう数日前に、もうすぐ誕生日のお母さんにこの花をあげたいなと、それは楽しみに毎日来て世話をされてました。花が満開になったら、お母さんに花束にしてあげてもいい?と聞かれまして、一緒に花束を作る約束もしてたんですが。 あの前日に一輪咲きそうな花を見つけて、『咲くかな、咲くかな?』と私に何度も聞いてこられてました。 あの日、きっと、登校してからこの花畑を見に来たんじゃないかなと思うんです。そして、一輪開いた花を見つけて、嬉しくて大急ぎでお母さんの誕生日のプレゼントしようと家に引き返したんじゃないかなと。 私がこんな風に申し上げたら叱られるかもしれませんが、お嬢さんは、死ぬ前にお母さんの誕生日をお祝いすることも、大切に育てた花をお母さんに渡すこともできて、きっと良かったなぁって思ってるんじゃないかなと。だからもう、それ以上自分を責めないでください。 『あの子がこの花畑を育てて、それで花を摘んで。私は、この花さえ持ち帰らなければ、そんな思いで花さえ見ることもできないでいました。あの子にしかられちゃいますね。今、あの子の顔が花の向こうに見えたような気がしました』 用務員さんも頷いた 『私にも、見えたような気がします。お母さん、どうですか、この花を持ち帰って育ててくれませんか?』 そういって、用務員さんはマーガレットを一株掘り起こすと、鉢に入れてお母さんに渡してくれた。この花を見るたびに、お嬢さんの笑顔を思い出して、元気を出してください。 ずっと泣き通しのお母さんの涙は、今は暖かい涙に変わっていた。 空にはピンクの花を一面に広げた桜が咲いていた。深々とお辞儀をして、花を大切に胸に抱かえてお母さんは家路へ向かった。 🌸 今日のお花 イベリス
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🌸マーガレットの咲く道で🌸 その4 学校は春休み。満開の桜の下を、お母さんは娘の荷物を取りに学校へと出かけていった。残された荷物を渡しながら、先生が一枚の写真をくれた。 泥だらけの手を開いて、花盛りの花壇の前に見知らぬ男性と満面の笑みで写った写真。 用務員さんなんですよ。 みんなに好かれる活発なお子さんでしたが、とても優しくて、よく用務員さんの花壇の手入れを手伝っていて、二人でニコニコととても仲良しでした。これは、理科の記録写真を撮ってるときに見かけて、記念にって撮ったものなんです。良かったら持っていてあげてください。 娘の写真の写真の隣に写っていた人は用務員さんと聞いて、お母さんは用務員さんに、ひとめお会いしてお礼を伝えようと思った。先生に聞いて、裏庭で花の手入れをしている用務員さんを探した。 その日は桜の花が満開の、少し汗ばむ陽気だった。汗をふきながら花壇の世話をしている男性を見つけて、お母さんはためらいながら声をかけた。 娘がお世話になりまして、、。 その男性は娘の名を告げると、被っていた帽子をとって深々と頭を下げた。 『お嬢さんが事故で亡くなったことを知って、私も悔しくて悲しくてなりませんでした。お母さんもさぞかし辛い思いをなさったことでしょう。お嬢さんはとっても優しいお子さんでした。花壇で草をとってる私のところに来ては、学校であったことをいろいろ話しながら、手伝いをしてくれました。私も自分の孫ように可愛くて、いろんな話を聞く時間が楽しみでした。』 お母さんは、あの朝娘の身に起きたこと、マーガレットを學校から持ち帰ってくれたことを話して、娘に優しく接してくれたお礼を伝えた。 『あの日から、私の時間は止まってしまったみたいです。娘が私に花を持ち帰らなかったら、駆けて帰ってきた娘を学校まで送っていたら、そんな後悔ばかりが心を離れないんです。誰にも見つけてもらえず、苦しんでいた娘を思うと、今でも悲しくて悔しくて。』 涙を浮かべて話すお母さんに、優しく耳を傾ける用務員さん。誰にも言えなかった胸の思いを伝えるうちに、あとからあとから涙が流れてくるのだった。 暖かな春風が通りすぎ、二人がしゃがみこんでいる花壇の上から桜の花びらがヒラヒラと蝶のように舞い落ちて、 まるで空から、心に積もった悲しみを流していくようだった。 🌸
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🌸マーガレットの咲く道で🌸 その3 二人には子供がいた。それは可愛い女の子。 小さな頃は好き嫌いが多くて、なかなか大きくなれなかったが、小学校に上がってからは、仲良しの友達ができて、あちこちと駆け回り、ご飯もおかわりをするようになり、ぐんぐんと大きくなった。 小学校3年の頃には、なかなかのわんぱくで木登りもするし、時々は男の子も泣かしたり。 優しいところもあって、学校帰りには、野の花を摘んで『はい、これ!』って、照れたようにお父さんに渡すのだった。 3人は、休みの日になると、桜並木の続く土手を手を繋いで散歩した。花を飛び回る蝶のように父と母の間を、行ったり来たり散歩する時間が、みんな大好きだった。 それは、桜がもうすぐ満開という3月の終わり、その日は雨が降っていた。学校へ子供を送り出してから、しばらくして息を切らして娘が駆けもどってきた。 『どうしたの?何か忘れ物?』 『あのね、大切なことを忘れたの。 今日はお母さんの誕生日。これ、学校の花壇から持ってきたの。お母さんに、誰よりも一番にお祝いを言いたくて。お誕生日、おめでとう!』 そういって女の子は、ピンクのマーガレットを一輪差し出した。 『まぁ、有り難う。可愛い花ね。でも、学校の花を勝手にとってはダメなのよ』 『大丈夫なの。これはね、用務員のおじさんの草むしりをお手伝いしたときにお礼にって、小さな株を貰ったの。それから、内緒で私用の植え木鉢で育ててたのよ。お母さんのお誕生日をお祝いしようと思って!うふふ、じゃあ、言ってくるね。』 そういうと、傘をさしてまた雨の中へと駆けていった。 ありがとうを言う暇もなく、女の子が角を曲がる姿をみおくると、お母さんはマーガレットを胸に抱き締めて『ありがとう』と呟いた。テーブルの一輪挿しに可愛く揺れるマーガレット。 今日は素敵な誕生日。 今夜は何を作ろうかな、花を眺めながら、お母さんはニコニコと。 それからしばらくして、電話の音が鳴り響いた。 今度は忘れ物何かしら?。 笑いながらお母さんが電話に出ると、電話の向こうからは、緊張した女の人の声が聞こえてきた。 『お母さんですか?落ち着いて聞いてください。娘さんが事故にあいました。すぐに来てください!』 なんてこと!頭がぐるぐるして、心臓の鼓動が聞こえるほど大きく打っている。 『落ち着くのよ!落ち着くのよ!』声に出して自分に言い聞かせながら、お父さんに電話をすると傘をさして家を飛び出した。 その日は強い雨が降っていた。校門の少し手前の道で、女の子は車にはねられた。女の子を引いた車は逃げてしまい、女の子が倒れていたところを、近所の農家の人が見つけたのだった。 『お気の毒に、もう少し発見が早かったら。。雨が降っていたし、堀に落ちてしまったんで、発見が遅れてしまったんです。この子の傘が近くに落ちていて、拾おうとした人が気づいて発見してくれたんです。お子さんはおなくなりになってます。』 子供の変わり果てた姿を見ても、どこか夢の中にいるような、頭の中の時が止まってしまったような感覚で、お母さんは我が子の顔をのぞきこんだ。 女の子の体は、びしょ濡れで毛布に包まれていた。さっき薔薇色に上気して学校からかけ戻ってきた我が子なのに、今は人形のように真っ白で目を閉じて寝ているようだった。飛ばされて道路脇の堀の中に落ちてから、しばらく意識があったのか、その手に道のわきに咲いていた野の花を握っていた。 『しっかり花を握っているから、手を開いてとろうとしたんですがあまりに固く握っていて開かないので、そのままにしていました』 お母さんは子供の両手を震えながら包むように握った。その時、固く握っていた手が開いて、女の子の手から花が一輪こぼれ落ちた。 『ハルジョン』 この花が好きなのよ。 お母さんにあげるね。 私の秘密の場所にたくさん咲いてるの。真っ白なすっごいお花畑、本当に綺麗なんだよ。 いつか見せてあげるね。 そうだ、この花。 いつか娘が話してくれた。 花畑に私を連れていってあげると。 そう思ったら、一気に現実が押し寄せて、お母さんは我に戻った。そして、子供の名前を叫ぶように呼びながら娘を抱いて泣き崩れた。 車にはねられたことも 誰にも見つけてもらえずに、冷たい堀の中に落ちていたことも 何で今このタイミングなの どうしてこんなことになってしまったの ごめんね 痛かったね 苦しかったね 見つけてあげられなくて ごめんね なのにあなたは 死ぬときまで花を 泣いて泣いて 涙が出なくてなっても まだ泣けてくる 桜の季節に 二人の娘は空へとのぼっていった 心にぽっかり穴のあいたまま 時が過ぎていく 🌸
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🌸マーガレットの咲く道で🌸 その2 なぁお前、 今日は子供たちに、囃し立てられてしまったよ。ふんふんじじいだと、まったくよく言ったもんだ。はははは。 『あなたはほんとに不器用で、恥ずかしがりやのところ、ちっとも変わってないわねぇ。 馬鹿にされたのだから、笑ってる場合ではないでしょうに』 ふん!笑いをこらえるのに精一杯で、怒ってる暇などなかったぞ。知らんふりしてるようで、子供らはわしの口ぐせまで、よく見ておる。 『ほらほら、そうやって、照れ隠しにふん!って言ってしまうから、誤解されるのよ。あなたは、とっても優しいのに。ほんとに私の方が悔しいわ。』 お前がわかってくれればいいさ。 それでいいさ。 お前の代わりに学校にいく子供らを見送るのは、あの日から変わらんさ。 そして、お前との約束通り、毎日花に水をやって 世話しているぞ。ちゃんと冬を越えて、今年も きれいな花が咲きだした。お前が花の世話をする気持ち、この頃やっとわかってきたよ。花の咲くのを見守るのは、嬉しいもんだなぁ。 毎朝、花の世話が終わるとお婆さんの仏壇にご飯を供えて、話をするのがお爺さんの日課でした。 🌸東京 晴れ 6℃
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🌸マーガレットの咲く道で🌸 その1 駅へと続く道の外れに おじいさんの家があった 朝になると用もないのに 玄関の前に出て 腕組みして仁王立ち 通りを過ぎる人を眺めてる そして うっかり誰かと目が合うと ふんっ!ふんっ!と言うものだから みんななるべく目を伏せて おじいさんと目が合わぬよう 足早に通りすぎていく 時々 口の悪い男の子こらが 度胸試しの罰ゲーム 遠くからおじいさんに からかうように囃し立て 大慌てで駆けていく やーい やーい ふんふんじじい くそじじい~! おじいさんは 子供らの方を見て ますます顔を真っ赤にしては ふんっ!ふんっ!と言うばかり 子供らが学校へ 登校するのを見届けると おじいさんは小さなじょうろで ピンクの花に水をやる 庭先で揺れるマーガレット やっぱり 少し照れ臭そうに ふんっ!ふんっ!と言いながら 🌸 ピンクのマーガレットの花言葉「真実の愛」
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