定家葛(テイカカズラ)

キョウチクトウ科テイカカズラ属の常緑つる性木本。低地の林内に生え、植栽もされる。太いつるは径10㎝を超す。つるははじめ地を這い小さな葉をつけるが、茎から多数の付着根を出して木や岩によじ登り高みに育つと、葉は大型化して花が咲く。初夏に咲く花は５裂してプロペラ状にねじれ、ジャスミンに似た強い芳香で蛾を誘う。はじめは白く、後に淡黄色になる。１個の花から長さ約20㎝の袋果(たいか💬袋状になった果実)が一対実る。袋果はささげのように細長く垂れ、冬に裂けると白く輝く種髪とよばれる長い絹糸のような毛をつけた種子がふわふわと風に舞い遠くまで飛ばされる。小さめの葉をつけ、新葉にピンクと白の斑が入る園芸品種『ハツユキカズラ』もある。

藤原定家(鎌倉時代前期の歌人・公卿)が恋の執念から葛となり、恋人の式子内親王の墓にからみついたという伝説からついた名前。能『定家』では、僧が時雨に遭い、しばらく休んでいると女が現れて墓場へと導く。行くと蔦葛で覆い隠された墓場があった。「これは式子内親王の墓にて候、またこの葛は定家葛と申し候」と教える。この女こそ式子内親王その人の霊で、生前契りを交わした定家が彼女に執心のあまり葛となって墓にまとわりつき離れないので、妄執が晴れるよう弔ってほしいと頼む。僧の心のこもった読経の甲斐あって、ようやく墓から葛が解け内親王の霊は消えるが、その後葛は元通りに墓を覆うという不思議な結末になっている。これが定家葛の名の由来。

出典『都会の木の花図鑑』『樹木の名前』『里山の植物 ハンドブック』