『世界でたった一つの ぬいぐるみ』を自分で作る事が出来るという【ベアーズファクトリー】


その斬新たる店のシステムは、まず幾つも用意されているキャラクターの中から好きなものを選ぶところから始まる。その種類は『くま』だけでなく『ライオン』『さる』『馬』など数十種類が用意されている。

自分で選んだキャラクターに まるで生命を吹き込むかのように そこに綿を入れてもらう。もちろん好みにより パンパンにするも良し。あえて少なめにしてグタグタにするも良し。自分で調節し 触り具合を決める事が出来るのだ！

この綿を詰める工程にもう一つ、ハートの形の心臓を入れて背中を縫い合わせる。


ここまでの工程が終わると店内の三分のニの売場スペースを誇る『衣裳コーナー』から自分の好みの服やアクセサリーを選び、最後に簡単なパソコンのような物が並べられているコーナーで名前と住所を自分で登録して『世界でただ一つの縫いぐるみ』が完成するというシステムなのだ！



私の甥っ子が誕生日の為、この縫いぐるみをプレゼントしようと ここ『ベアーズファクトリー』を訪れた・・・・。




が、しかし・・・・・・・、



この夢に溢れるお店こそが！この後！私を恐怖のどん底に陥れることになるとはこの時点で知る由もなかったのだ！！！




仕事帰りに女子高生やら若い主婦と子供達で賑わうこの店に立ち寄った。


さてと、どんな人形にしようか・・・。

ベタで行くならクマだろうが・・・・、


いや、ここはあえてウケを狙い『カメ』の人形を選ぶとしよう。


次に綿を人形入れるブースだ。

私の前には一組の親子が並んでいた。


店員は この親子に微笑みかけ、


『はい。ではこの子に命を吹き込みます。このハートにキスをして身体に埋め込みますよー』

と子供の目線までしゃがみ込んで問いかける。


ほぉ、なるほど・・・。

この何気ない工程をやる事によりこのぬいぐるみに『愛着』と『特別さ』を与えるわけか。

















Σこれ！！！！！私もやるの！！！！！！！


！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！


振り返れば既に私の後ろには数組の客が並んでいた！！！



万事休す！！！！！！！！！！！！！




『御次の方どうぞ』



今すぐ盗んだバイクで走り出したい衝動に駆られながら私は前に進む。


『はい。この子に命を吹き込みます。このハートにキスをして身体に埋め込みます』



オッサンが！！ハートにキスをする！！！



いいだろう！！！

後ろに列ぶ女子高生！！！

その後ろの親子！！！


よーく、見るがいい！！！！


これが！！！


これが！！！大人のキスよ！！！！！
シンジ君！！！


！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！！




耳を赤く染め何とか突破した私は、めいぐるみの服を選ぶ。


あえて『カメ』という特種な縫いぐるみを選んだ事を生かし、素材を重視すべきだ！つまり飾りは必要最低限程度で良いだろう。


私はパンツのみをチョイス。その横には全身タイツで覆う『スパイダーマン』の衣装もあった。


………………………………………………。





Σこれ！素材殺し！！！！！！！！



最後に名前を付けてやる為のパソコンのコーナーに座る。


子供用なので椅子が若干小さい。

どうせ皆『クマ太郎』とか『クマ吉』とか、在り来りな名前を付けるんだろうなと考えながら、

ここは大人の私が捻りを効かせたネーミングを付けるしよう！

私は設置されたキーボードを叩く。


うちの弟なら解ってくれるハズだ。このカメの縫いぐるみが私が尊敬する人物の名であることを………。









『アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ』



誰！ソレ！！！みたいな！！




甥っ子には私から きちんと解りやすく話さなきゃなるまい…。


アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ・・・・。

ブラジル出身の柔術師。それまで打撃中心だったバーリトゥードで、マウントポジションで下になるという不利な状況下にいながら、『華麗なる三角』と言われた下からの三角固め等の決め技で『PRIDE』ヘビー級初代王者として頂点に上り詰める。しかし絶対王朝が続くと思われた矢先、ロシアから最後の皇帝と言われたサンボの使い手、『エメリヤ・エンコ・ヒョードル』に完敗を期す！！それもそのハズ、のちに この最後の皇帝と言われたヒョードルこそ、世界1/600000000と言われる最強の格闘家として伝説となり、未だ負けた事が無い。その後、ミルコ・クロコップや多くのファイターを完璧に叩きのめすヒョードル。しかし、ノゲイラも打倒・ヒョードルを忘れた訳では無かった。厳しい練習の末、ヒョードルが出陣するトーナメントで勝ち上がって行く。目指すは奴が待っている決勝線……。

折れない意志……、人はいつしか彼を『沈まぬ太陽』呼ぶようになる……。






解るのか幼稚園児！！！（←おそらく解らないし、なにより長い！！！）



これだけは引けないと大人のエゴとして、ここに可愛い縫いぐるみ、『アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ』が誕生する！！


パソコンに打ち込み、データを印字したものを縫いぐるみと一緒にレジに渡す。ここで綺麗に箱詰めされ血統証のようなものと一緒に渡されるのだ。


何人かの客が我今かと待っている。


やたらソワソワする子供や、いちゃつくカップル。


その中で私は男一匹スーツ姿で仁王立ちで待つ！！！




『お待たせ致しました。クマ吉君でお待ちのご家族の方』


わーい！と、はしゃぐ子供。



………………………………………………、


………………………………………………、


………………………………………………、




Σ名前を呼んじゃう感じ！！！！！！！








『いぬ いぬ朗さんのご家族の方』



店内から笑いの声！！

『もー、恥ずかしい』と彼氏を叩く高校生。


ネーミングからセンスが皆から問われる裁判員制度！！



恥ずかしがるカップル！！


安心しろ！！若者よ！！！

何も恥ずかしがる事は無い！！！


何故なら………！！！



『お待たせ致しました！アン……、アントニオ……、ホドッ、ホドリゴ……、ノッ、ノゲイラ？


アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラさんの御家族の方』




はい。



一瞬、静まり返る店内に『引く』とは こういう事かと分かり始めたマイレボリューション！



恥ずかしさを隠しながら並み居る客をかき分け、私はスーツ姿で堂々と彼を迎えに行った。



ハッピーバースデー


今日もまた、大人のプライドは守られたのだった！



完