庭でメロンを食べていた。
親戚の叔母が、おいしそうなウリだこと、というようなことを言って母のいる母屋に入っていった。
私は体育座りの姿勢から、メロンを持ったまま立ちあがり、叔母の背後から、「メロンだよ」と言ったが叔母は聞こえなかった様子で「ミチルさ〜ん」と母の名を呼びながら消えた。

両手の中の三日月のメロンは、食べかけの歯形が悲しそうに
「僕ってメロンだよね？」と問いかけている。
母はメロンと言っていたし、弟もそう思っているし、私も夏のメロンはスイカと同じくらい大好きだ。

だけど叔母は、ウリだと言った。
こんな丸い美味しいウリがあるだろうか。
そもそもウリって、お年寄りが食べているお漬物じゃないの？

なぜ、こうも叔母のひとことが気になるのかというと、叔母って、美味しいものをよく知っていて、デパ地下やお取寄せで買った普段は食べられないようなものを持ってきてくれる貴重な人で、食べ物に関しては一目置かれている存在だったから。

叔母がウリというからには、これはメロンではないのかもしれないと思う。
母も知らないのかもと思う。

そっとしておこう。
母も弟も、これがウリだということは、きっと知らないのだ。
だって、こんなに甘くて冷たくて美味しいのだから…。

私は、そのことを胸にしまい込んだまま大人になった。

今は知っているよ。
いや、大人になる前には、知った。
あれは、ノーネットメロンだった。
叔母が認めるメロンは網目のある高級なネット系のメロンだったのだと理解した。

母は間違ってはいなかったし、弟も喜んで食べていたし、私だけがメロンなのかメロンもどきなのか分からない代物を少し複雑な気分で食べるようになっただけだ。

あの時のメロンに
網目はなくても、君はメロンだよ、と言ってあげればよかったと思う。