天台烏薬(テンダイウヤク)

クスノキ科クロモジ属の常緑低木。中国原産。日本へは江戸時代の享保年間、徳川吉宗が海外の薬用植物を積極的に輸入栽培させた時代に輸入され、大和の宇多、山城の八幡で栽培され各地に販売された。現在、静岡、和歌山、三重、宮崎の各県の一部に野生化している。葉は互生し、広楕円形で革質、裏面は灰白色、3葉脈がはっきりしている。花期は3〜4月。雌雄異株。黄緑色の散状花序をつける。果実は液果で黒く熟す。根は蓮根状に連なって太く、苦味と香気があり健胃剤、鎮痙剤などに用いる。

テンダイウヤクの根は乾燥させてから漢方薬として用いられる。その色がカラスのように黒いことから、中国での名前を『烏薬』という。中国浙江省の『天台山』で生産される烏薬が最良品とされることからテンダイがつき、この名前で呼ばれるようになった。和歌山県の熊野地域では、紀元前3世紀、秦の始皇帝の命により不老不死の薬を探す旅に出た徐福という人物が日本に辿り着き、熊野に自生するテンダイウヤクを発見したと言い伝えられる。徐福の伝承地は全国に20ヵ所以上あるが、熊野地域は最有力を自ら任じ、徐福にゆかりのものとしてテンダイウヤクを使った菓子や飲料の開発に力を入れている。しかし、文献からテンダイウヤクの渡来は江戸時代ともいわれ、現在は中国原産とされている。

出典『薬草の呟き』『樹木の名前』