「ミチコちゃん、エクレアよ」と継母は二階に声をかけた。

気づくとミチコは食卓に座ってエクレアの二個目を食べていた。
継母は、(わたし…近頃、記憶が途切れているのかしら、ミチコちゃんが秒速でここに座ってるわけないものね、きっと疲れてる…)と自分に言い聞かせた。

気づくとミチコは、五個目のエクレアに手をのばしていた。
継母は、(やっぱりわたし、疲れているんだわ…)と思った。

夫のヨシヒコ、つまりミチコの父が他界してから、もう二年になる。
ヨシヒコの忘れ形見のミチコも、もう高校二年生だ。
そろそろ、反抗期かしら…と継母は思っているがミチコは、いまだに学校から真っ直ぐ帰ってくると、継母と一緒におやつを食べる。
たまに、黒井ミサちゃんという友達を連れてくる。
反抗期のはの字も感じさせないミチコに継母は「ミチコちゃん、たまにはリビングのドアをバン!!って閉めてもいいのよ？わたしのこと、気に入らない時は、ばばあ!!って言ってもいいのよ？」と声をかけてみる。
ミチコは、六個目のエクレアを頬張りながら「うん」と返事をした。

継母は、おやつを楽しみにしているミチコのために、毎日、山盛りのおやつをこしらえて待った。
黒井ミサちゃんが来る時は、倍量のおやつを作った。

継母は、ミチコの反抗期を心待ちにしながら、「明日はプリンにしようかしら」と考えていた。

気づくと食卓の上に継母の分の二個のエクレアが残され、ミチコの姿はどこにもなかった。

(あっ…また記憶が途切れてたわ…)
継母は、エクレアを残しておいてくれたミチコを思い(反抗期は、まだまだ先みたいね…)とフッと笑った。

〜ミチコと継母4話〜
十二個のエクレア