そのお伽噺は、おそろしかった
本当におそろしい話なので、ここから先は、どうか自己責任で読んでほしい
右腕のない人魚のお話だ

ある国の王子が、浜辺に打ち上げられて動けない人魚をみつけた
見ると人魚には右腕がなかった
王子は不憫に思い、人魚を連れ帰り、宮殿の大きなプールを人魚の住まいとして与えた

右腕のない人魚は、何をするにも不自由だったので王子は頻繁に手助けをした
食事の時も手紙を書く時も本のページをめくる時も傍らにはいつも王子がいた

人魚は王子が自分の右腕の代わりとなり側にいてくれる事を喜んだ

一年後、王子に縁談がきて東の国から姫が嫁いできた

王子は、もう人魚姫の右腕代わりができなくなった
だから、人魚には身の回りの世話をする侍女がつけられた
侍女は、右腕のない人魚姫を蔑み、皆がいない所で意地悪をした
人魚姫は王子にも会えず、悲しんだ

悲しみの中、人魚姫は、どうしたら以前のように王子が自分の側に戻ってきてくれるのかを考えた

その夜、人魚姫は左手に斧を持ち、王子の寝室にいた
暗闇に悲鳴が響き、宮殿は慌ただしく人が往来し、夜が明けるまで騒然としていた
その頃、人魚姫は浜辺で赤い血を洗い流していた

それから二年がたった
人魚姫は左腕に、王子によく似た可愛らしい赤ん坊を抱いていた
王子は傍で赤ん坊をあやす
王子と人魚姫、ふたりで赤ん坊をたかいたかいする
王子は右腕、人魚姫は左腕で…
今や、ふたりは一体である
お互いの不自由さを二人で補い合い暮らしている

あの東の国の姫は、どうなったのかって?
彼女は左腕のない王子を気味悪がって祖国に帰ってしまった

結果、左腕のない王子と右腕のない人魚姫は死ぬまで幸せに暮らした

さあ、お伽噺はここまで…
おやすみなさい　いい夢を…


②庭のアミガサタケを干したら、半分以下に小さくなったよ