年1 七夕の夜
一番好きな人と
結婚できなかったあたしは、
窓をあけて
夜空をみあげる事に決めていた

年1 七夕の夜だけ
誰にも内緒で…

大雨でも、台風の日でも、飲み会の途中でも、旅行先でも、子どもがぐずった晩でも、喧嘩の最中でも、入院中でも、

いつの時も、いつの時代も、
忘れたことなどなかった

歳をとって、あたしが逝くときがきた
それは今日かもしれないし、来週かもしれなかった

あたしには、もう
歩く力も窓を開ける力も残っていなかった

七夕の夜だった
夕焼けに窓が赤く照らされたので天気が良いことはわかっていた

長年連れ添った主人は、あたしよりもまだ元気でいてくれて、今夜も病室に付き添ってくれている

あたしは、主人に本当に感謝していた
色々あったけれど、根は優しい人だった

あたしは「もう寝るわね…」と声をかけた
これが最後の言葉になるのかもしれないと目をとじた

もうすぐ眠りに入れるかな…という時に心地よい風があたしの額を通り抜けた

目をあけると主人が窓を開けてカーテンがたなびかないように束ねてくれていた

そして、あたしの視界にビル灯りに照らされた夜空が現れた

主人が七夕の晩だよ、と言う

あたしは静かに夜空を眺めた
涙がでてきたけれど言葉はでてこなかった

あたし本当は一番好きな人と結婚してたのかな


〜ピンウィールタクスパンが咲きました〜