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『夕刊配達の道すがら』高知市・男性（80）

高知新聞の夕刊が休刊になって1年が過ぎた。休刊まで夕刊配達に携わった10年余りの間に私が経験した印象深い出来事を披露します。

新聞を郵便受けに入れる際は、乗っているバイクを止める場所や足の置き場、新聞の束に意識が集中する。こんな時、不意に声を掛けられると決まってビックリする。

ある日、新聞を入れようとした瞬間に突然、「ご苦労さん」の声とともに輪になった青いホースが飛んできて仰天した。ベビかと思った。実は家の人が花への水やりを終え、束ねたホースをすぐ脇に掛けた瞬間だった。
　
　　　　ー・中略・ー

リキという名の人懐こい中型犬の話。配達の道中、ほえ掛かる犬を手なずけるために、私はいつも菓子のボーロを携行していたが、いつの間にかリキにも与えるようになっていた。私の姿を見ると体を揺すって跳び上がり、喜びを表した。ボーロを掃除機で吸うようにアッという間に食べた。

その彼が内臓の難しい病気でしばらく動物病院に入院した後、家に帰ってきた。家の人に請われてしばらくぶりに対面したが、すっかり弱って餌を食べず水だけを飲むとのことだった。私が行くとそれでもゆっくり立ち上がり、よろよろと5、6歩近づいて顔を寄せてきた。ボーロを口元に持っていってやったが食べることはなかった。この２日後、リキは旅立った。

配達で通る小学校の塀がブロックから素通しのフェンスに替わった。大阪北部地震の際、学校のブロック塀の倒壊で小学4年の三宅瑠奈さんが亡くなった。この痛ましい事故を教訓に、全国的にフェンスへの取り替え工事が始まったのだ。フェンスに替わると運動場がよく見えた。躍動する子どもたちをみていると、彼女も空から皆を見守っているような気がし、弾けるような歓声を聞いていると、もしかしたら彼女も一緒に声を上げているのではないかと思ったりした。

配達をやめて、日常の生活ルートから外れる区域のあれやこれが時々頭をよぎる。すぐ近くなのに、今はずいぶん遠い所のように思える。

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