姫楮(ヒメコウゾ)

クワ科コウゾ属の落葉低木。山地の林縁に生える。枝は細くよく分枝する。葉はクワ科の他種と同じで変異が大きく、不分裂、2裂、3裂、5裂とバリエーション豊か。花期は4～5月。雌雄同株。新しく伸びた枝の先に雌花、根元に雄花がつく。雌花序は赤い雌しべを放射状に広げる。雌花は不稔のものもつく。果実は痩果が集まった集合果。球形で径1～1.5㎝。初夏に橙色に熟し、ねばついて口当たりがよくないが、甘くておいしい。

葉は梶ノ木(カジノキ)や楮(コウゾ)に似るが、カジノキのような剛毛はなく、コウゾよりも葉柄が短い点で識別できる。

かつては樹皮を織物や和紙の原料に利用し、盛んに栽培されたが今はあまり見かけなくなった。現在、和紙の原料となるのは本種とカジノキの交雑種であるコウゾ。コウゾは中国原産で、7世紀はじめに紙とともに日本に入ってきたとされる。コウゾが広まるまでは野生種の本種をコウゾと呼んでいた。コウゾは紙以外にも太布(たふ)、栲(たえ)といった布の材料にもなった。紙と布をつくることから『紙麻(かみお)』と呼ばれたのが転じ、『カミソ』からコウゾの名になった。

出典『身近な樹木図鑑』『葉っぱで見わけ五感で楽しむ樹木図鑑』