カランコエ属、黒鮮月兎耳。

ある時、ウサギに足がトロいことをバカにされたカメは、山のふもとまでかけっこの勝負を挑んだ。かけっこを始めると予想通りウサギはどんどん先へ行き、とうとうカメが見えなくなってしまった。

ゴール間際でふとウサギは思った。これまでの人生、誰かのために何かしたことがあっただろうか。てきとーになんでもそこそこにこなし、今だって弱いカメ相手に優越感にひたろうとしている。いつか、いつか良い奴になってやる、人から敬われるような素晴らしい存在になってやる、いつか、いつか。
こんなことではいつまで経ってもいつかはやってこない。人生は自分で切り開くものだ。今ここで、負ける。負けるのだ。恥だ。周りの誰からもバカにされるだろう。しかし、この圧倒的有利な条件下で負けることは、もはや後世まで教訓として語り継がれるほどの出来事になるのではなかろうか。後ろの方で頑張っているカメさんの努力は決して無駄じゃないんだ。努力はきっと報われる。そんな風に子供たちに思ってもらえればいいじゃないか。そう、僕はピエロだ。

ウサギは寝たフリをし、カメにゴールを譲ったのだった。大喜びするカメを見ながら、素直にカメの勝利を讃えるウサギであった。

最後にカメは言った。
「途中で疲れたからタクシー乗ってきたけど、寝てるとかマジ笑えるんですけど。しょぼ！かー、ぺっ」


ほんとのウサギとカメ　完