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ふりそそぐ光のなかでの一覧

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so.ra
【ピンクッション物語】第19話 ねえ 、お母さん お母さんはどうして今の仕事を選んだの? 今日は、珍しく帰りが早かった母と、こたつでみかんを食べながら美幸が聞いた。 美幸の母は老人ホームで働いており、いつも帰りが遅かったが、その日は用事があって半日休をとったので、久しぶりにのんぴりしていた。 どうしたの、急に? それって、学校の宿題のインタビュー? やだぁ、違うよ。 毎日会ってるのに、仕事の話をちゃんと聞いたことがなかったなって。 そうねぇ、ほんとは、人の役に立つためとか格好いいことを言うと、母親として尊敬されるのかも知れないけど。。 笑いなが母は続けた。 たまたま家の近くに求人があったのよ。そこに『ゆったりとお年寄りのお話し相手』なんて書いてあるから、ゆっくり楽しくできそうな仕事で良さそうって思っちゃったのよ。 それに、職場が近いから、お昼を家に食べに帰れるかもなんて思ったのよね。あなたは、小さい頃体が弱くてよく熱を出してたしねぇ。 そうなの? それで、実際は? 募集要項の話しは、最高のエサで、母さんはまんまと食いついちゃったと言うわけ😁でも、入ったら結構激務だったのよ。 ほんと。しんどい、しんどい。 こんなに肉体労働とは思わなかったわ。それに、人間関係もいろいろとあるしね。 そうなんだ。 お母さんよく長い間続けてこれたね。 そりゃあ、やめたいと思ったことは一度や二度じゃないわよ。でも、家の近くで働ける所なんてそうそうないしね。職場の同僚は恵まれたしね。女性が多い職場だからね、人間関係が良くないと噂を聞くホームもあるけど、うちは家族的で恵まれてるかな。それに、入所者さんがくれる笑顔は励みになるしね。 そうかぁ。じゃあ、お母さんはまずまず幸せな職場で働けてるんだね。老人ホームなら、職場が倒産することもないから安心だね。 すると、母がため息をついた。 どうかねぇ。 最近、具合の悪い人が増えてきて、今日は誰かが急変しないかってヒヤヒヤだよ。流行りの病のせいか、注射のせいかわからないけどね。 どこも大変なんだね。 うちの学校の用務員さん、友達のひなちゃんのお爺ちゃんなんだけど。この前、注射のあと入院しちゃって大変だったみたい。それで、ひなちゃんから、注射は受けないでっていろいろ教えてもらったの。 母さんは、もう二回打ったから 注射をしなくても大丈夫なんでしょう? いや、それがね、施設長から3回目も全員受けるように言われてねぇ。3回目は、後遺症も酷いらしいしね。母さんは2回目の時に、熱が出て寝込んじゃったから『今度はやりません』って言ったんだけどね。職員が全員申し込んでいて、『一人やらないでうつったらどうするの?』ってみんなから言われて、受ける羽目になっちゃったよ。 注射は明後日だから、その日はご飯の支度を頼んだよ。 えっ!もうすぐじゃない! ダメだよ。中に入ってる成分が劇薬なんだよ。ちゃんと説明書に書いてあるよ。打ったら自分の免疫も攻撃するから、3回目からは免疫が限界で、激落ちしてエイズみたいになっちゃうらしいよ!ねぇ、キャンセルできるんでしょ、キャンセルしてよ! 美幸は必死に母を説得したが、母は『それは陰謀論よ』ととりあわなかった。 偉いお医者さんも大丈夫って言ってるし、それに、受けなかったらやめなくちゃならなくなるでしょ。そしたら、明日からどうやって食べていくのよ。 このご時世で、次の仕事なんか見つからないわよ。 父さんも同じ考えなのよ。 だったら、打った後1444人も亡くなってるし、重い後遺症で今も苦しんでる人が6349人もいるんだよ。ものすごい数でしょう。ひっきりなしの救急車の音、母さんも聞いてるでしょう? 美幸が必死で説得したが、母は、みんな受けるし、私は丈夫だから。と笑って受け付けなかった。 それどころか、 あっそうそう。 実はね、お父さんもおんなじ日に予約したのよ。父さんの会社も全員打つように勧められたって。2人で行った方が、何かあっても心強いねって一緒に打つことにしたんだよ。 え~っ!ダメだよ! 何かあってからじゃ遅いんだよ。治療薬も、後遺症を戻す方法もないんだよ。死んでも注射のせいだって認められた人は一人もいないんだよ。異物混入の注射液で死んだ人もいるのに、謝罪も中止にもならないんだよ。賞味期限の切れた注射を、賞味期限を伸ばして打ってるんだよ。しかも、ひとつ前のウイルス用に作った注射を打ってるんだよ。おかしいでしょ。だからお願い、キャンセルして! 美幸は必死で説得したが、 母は大丈夫よ、心配しすぎ。 と笑って席をたってしまった。 どうして声が届かないんだろう。どうして、ちゃんと聞いてくれないんだろう。 美幸は、母を説得できなかった事が悲しくて涙が止まらなかった。重い足取りで階段を登り部屋へ入ると、ベットにたおれこんだ。 みんななんで命がけで注射をするの!命より重い仕事なんてあるの!みんなを苦しめて、家族もバラバラにして、こんなの間違ってる!美幸は一晩中泣き続けて、その晩は一睡もできなかった。 (続く) 19話の📍ピンは 「エリカ」の花言葉「孤独」です。 🌱エリカは、別名「ヒース」と呼ばれ、英語で「荒野」という意味を表すそうです。ヨーロッパの広い荒野に自生するエリカ、圧巻の風景なんでしょうね。花言葉「孤独」や「寂しさ」は、たくさんの花を咲かせるエリカの花からは想像がつかない花言葉です。寒風の中、ピンクの透き通るような優しく美しい花を咲かせていたエリカの花に、荒野に咲くエリカの姿を重ねました。白に紅をさしたようなエリカがとても綺麗でした。 🌱
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so.ra
【ピンクッション物語】第18話 卓の父は、3月で会社を退職になった。取引先の相川さんが、良かったらうちで働かないかと誘ってくれたが、その誘いを断って仕事を探し始めた。 しかし、なかなか仕事は見つからなかった。 事務の仕事ぐらいあるだろうと思っていたが、なかなか難しいものだな。 夕食を食べ終わると、父が話し始めた。 今日もハローワークに行ってきたが、私ぐらいの年の男性の仕事は、警備員やマンションの管理人、清掃員がメインなんだそうな。マンションの管理人もいろいろ研修も受けなければなれないし、月給は5-8万なんだ。1ヶ月働いて、家賃の足しにもならないくらいの金額だ。それにわずかな年金を足して、やっとギリギリで生きてるんだ。 改めて世の中の格差と厳しさを知ったよ。 それに、定年が近いことや大企業で働いていた職歴が、かえって使いにくい人と評価されてしまうとは思いもしなかった。履歴を隠すわけにもいかないからなぁ。 私はいろんな現場も経験してきたから、その知識もいかせる職場を探していたんだが、どうやら難しそうなんだ。 それで、今日、知り合いで会計事務所を営んでる知人がいて、良かったら来ないかと声をかけてもらって、まずは見習いで働かせて貰うことにしたよ。 仕事があるのは有難いことだ。 今までの仕事と違って、覚えることも多いだろうし、きついこともあるだろうが、初心に戻って働いて見ようと思う。そのなかで、また自分をいかせる道が見つかるかもしれないからな。 卓は、父の言葉を聞いて胸が熱くなった。 ずっと父の仕事への取り組みを見てきた。どれだけ誇りをもって仕事に情熱を注いできたか。その父が見習いで一から始める決意をしている。 父の言葉を聞いて、自分はこのまま塾に通って、医者をめざしていいのか、卓は改めて自問した。 父さん、僕も、もう一度自分の道を考えて見ようと思う。今まで、いい加減な気持ちだった訳じゃないけど、自分の幸せな生き方をもう一度考えてみようと思う。 そうか、人生で一番残念なことは、やらずに諦めてしまうことだ。失敗して痛い目を見るかもしれんが、一回きりの人生だ。今までのように経済は楽じゃなくなるが、小さくまとまって諦めるな。どんな道をお前が選んでも、お前が本気なら父さんは全力で応援するよ。 そう言うと、父は黙って手帳から一枚の写真を出して見せてくれた。 そこには、赤い花をつけたアロエが写っていた。 アロエの花の花言葉は、生命力なんだそうだ。このアロエは、私が仕事で火傷をしてしまった時に、会社の掃除をしてくれてるおばさんがつけてくれたアロエなんだよ。大切に育てて、誰かが怪我をすると切ってきては手当をしてくれるんだ。何人もの人が、その優しい心づかいに救われたんだ。 お別れの挨拶に行ったときに、このアロエの株分けをしてくれると言われたが、育てるのは無理そうだと辞退したら、この写真をくれたんだよ。 花言葉なんて興味ないかもしれないが、この花の花言葉は『生命力』らしいよ。この花らしいいい言葉だと思わないかね。 私らの年になると、世の中は風当たりが強くなって辛いことも少なくないが、命の力を見くびっちゃだめだよ。 ここに宝があるんさ。 おばさんはそういって胸を叩いた。 冬に花を咲かせるアロエと一緒さ。あんたが私らの事を守ってくれてることを知ってたよ。私らはみんな感謝してる。だから、この写真をお守りがわりに持っていっておくれ。 きっと、もうひと花咲かせるように、私らみんなが応援してるよ。 そういってもらった写真だ。 人は有難いなぁ。 私はこれからの仕事は、世の中への恩返しと考えているんだ。きっと、出会う仕事が導いてくれるだろうって思って、頑張ってみるさ。 父の手の上で、アロエの赤い花が、キラリと光ったようだった。 🌿アロエの花言葉 生命力 日本では「キダチアロエ」が有名ですが、その種類は実に400種類もあるんだそうです。 古代エジプトやギリシャでも薬効が認められ、現代まで火傷や胃腸病など様々な症状への民間療法の代表格として利用されてきたそうです。 開花には諸条件があって、毎年咲くとは限らないけど、ラッキーな年にはキダチアロエなら冬に赤い花、アロエベラなら夏に黄色い花を見ることができるそうです。 18話の📍ピンのテーマは生命力です。 寒風のなかで真っ赤な花をつけたアロエがとっても綺麗でした😊❣️
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【ピンクッション物語】第15話 美幸とひなは長いこと泣き続けると、どちらからともなく顔を見合わせて笑った。 ひどい顔 。。 ほんと、美人が台無し。( *´艸) そして、美幸が口を開いた 有難う。今日ひなさんに会えて良かった。本当に、明日から学校に行けないかなって思うくらい絶望してたから。 用務員さんはきっと今も、すごく戦ってるんだと思う。だから、退院してきた時に、わたしも恥ずかしくないように頑張ろうと思う。 中学生のわたしにだって、交通事故でもないのに毎日すごい救急車が通っていたり、今の世の中おかしなことばかりだってわかるよ。まるで裸の王様の話みたいに、大人たちはみんなわかってても誰かが言い出すまで言えないみたい。 そうね。 ひなが頷いて言った。 この間、2月に美幸さんがわたしと弟に会ったんだったわよね。 実は、弟は耳がほとんど聞こえないの。小さいときにワクチンを打ってその後高い熱が出て、すごい頭痛で壁に頭を打ちつけるぐらい痛がって、あちこちの病院で検査したけど原因がわからないって言われ続けたんだって。ワクチン打ってからって言っても聞いて貰えなかったし、治療法も知らないって言われて。。最後に耳が聞こえなくなっちゃって、母さんはすごく後悔して何日も何日も泣いたんだって。。 涙ぐんで、言葉を詰まらせると、またひなは話し始めた。 少し言葉を覚えてからだったから、片言話せる言葉があったのは救いだったって。。結局、原因不明だって保証もなくて、本当に酷いわよね。それなのに、安全ってその注射を今も続けているわ。 弟は、言葉の教室に通ってるの。それで、わたしが送り迎えして、この間はその帰りなのよ。 弟は、絵本が大好きなのよ。 わたしの膝に乗って、わたしの頬にさわってお話を聞くの。言葉を話す響きで、優しい音とか、怖い音とかわかるみたい。耳が聞こえないけど、他のいろんな感覚でお話を聞いてるの。弟に本を読みながら、わたしは自分の声の響きとか表情をふりかえるようになったのよ。 それに、弟はとっても優しいの。とっても純粋で、絵本を読んであげると、声をたてて笑ったり、涙をポロポロこぼして悲しんだり。まるで柔らかなバラの花びらみたいな心だなぁって思うのよ。 だから、わたしは、いつか読んだ人が幸せになるような絵本を書く仕事がしたいなって思ってるの。そこには、お爺ちゃんの大好きな花もいっぱい書きたいなぁって。 そう、とっても辛くて大変だったのね。 そして、素敵な夢。 わたしもいつか、ひなさんの本を読んでみたいなぁ。 美幸はひなとそんな話をしながら、自分もそんな希望を育てる仕事ができたらなぁと考えるのだった。 💠今日の花 アゲラタム 花言葉は【信頼】【幸せを得る】アゲラタムは花持ちが良くて色褪せしにくいことから、ついた花言葉だそうです。 15話の📍ピンのテーマは『信頼』と『幸せを得る』です。 過去picから🌹 小さなアゲラタムの花の成長を、バラの花たちが優しく包んで見守っているような花壇でした💖 🌱✨🌱
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so.ra
【ピンクッション物語】第14話 美幸が驚いて顔を上げると、そこにはあの2月の雪の日に見かけた女性が立っていた。 あっ、えっと もしかして、ひな さんですか? えっ、どうしてわたしの名前を? 驚いて、ひなが尋ねた。 あっ、やっぱりそうだったんだ。 はじめまして、わたしは美幸って言います。 美幸は慌てて涙をぬぐうと、2月の出来事、自分と用務員さんの事、そして、今日の出来事を話したのだった。 同い年と知って、いつか会いたいと、ずっと思ってました。 用務員さんは、わたしの本当の家族のように接してくれて、学校を続けられたのも、用務員さんのお陰だって思ってるんです。 それなのに、今日、用務員さんがお病気と知って、もう学校に来れないかもと知って。それに大事な花壇もめちゃくちゃにされて。。 もう、絶望のどん底で動けなくなっちゃって。。それで、ずっと泣いていたんです。 そうなの。 わたしはひな、その用務員さんはわたしの大好きなお爺ちゃん。そんなに、お爺ちゃんの事を思ってくれて有難う。 ひなはそう言うと、美幸の隣に座り、にっこり笑ってテイッシュを差し出した。 良かったら使って。 いつも、弟の世話をするのに、たくさん持ってるから、遠慮しないで。 美幸は、有難うと照れて笑うと、テイッシュを受け取って鼻をかんだ。 2人は顔を会わせて笑った。 それから、真顔になると美幸が尋ねた。 それで、もし良かったら、用務員さんはどんな具合なのか、教えて貰えないですか? おそるおそる美幸が訪ねると、 ひなが頷いて、話し始めた。 お爺ちゃんは、植木職人さんだったけど、前に脳梗塞をしてから足が不自由になっちゃって。お爺ちゃんね、すごい頑張りやさんで雨の日も雪の日もリハビリを頑張って、歩けるようになったんだ。 前の仕事は無理だって、学校の用務員さんになって、学校の花壇に綺麗な花を咲かせるのが生き甲斐だって、それは楽しそうに話してくれてたの。毎日のように、花壇の花の写真を送ってくれるから、わたしもそれがほんとに楽しみで。携帯は花の写真で溢れてるのよ。 そう言って、ひなは携帯の写真を見せてくれた。 そこには、色とりどりの花が溢れるほどに咲いていた。 そして、花壇を手伝って繰れる生徒さんと仲良しになったんだよと、あなたの事も話してくれたの。同い年って聞いて、わたしもあなたにいつか会いたいなぁって、ずっと思っていたの。 2人は写真を見ながら、花の前で嬉しそうにしている用務員さんの顔を思い浮かべて微笑んだ。 それから、ひなは続けた。 お爺ちゃんね、ワクチンを受けてから体が動かなくなって入院してるの。もう一か月も経つけど、今も動けないで寝たきりなの。 ひなは、少しの間うつむいていたが、言葉を続けた。 お爺ちゃんね、脳梗塞のあとずっと治療をしてたんだけど、ワクチンを打たなくちゃいけないって主治医に強く勧められて、最初は『遺伝子治療なんて訳のわからんもんは受けない!』って言ってたんだけど、学校の仕事をするなら、生徒にうつさないように受けなくちゃダメだと周りからも言われてね、それで仕方なく打ったのよ。注射してすぐに具合が悪くなったのに、主治医は注射のせいじゃないって診断書も書いてくれないし、治療法もわからないってちゃんとした治療もないらしいの。主治医に信じてたのにって言ったら、嫌なら他で治療してくれって言われて、仕方なくその病院で今も治療を続けているのよ。 ずっと、元気だったお爺ちゃんなのに、今は寝たきりで話しもできないし、治るかどうかもわからないの。私たちとっても悔しくて悲しくて、この気持ちをどこに向けて言いかわからないわ。 そう言うと、ひなの頬を涙が伝った。 そうだったの。 ほんとに酷いことばかり。。 だけど、だけど。。 用務員さんきっときっと治る。 美幸は自分に言い聞かせるように呟いた。 2人の頬を涙が止めどなく流れた。 土手の前の花壇ではアゲラタムが静に風にゆれていた。 💠今日の花 アゲラタム 花言葉は【信頼】 14話の📍ピンのテーマは『信頼』です。 誰かを何かを信頼する それはとても大切なことですが、時にはその信頼がいのちや人生を左右することもある。 信頼を託す人、託される人、そこに真実の愛の交流があって欲しいと願いを込めて書きました。 「Ageratum(アゲラタム)」は、ギリシア語の「ageratos(不老)」を語源とし、長い花期や鮮やかな花色が長い間保たれることにちなむといわれます。和名の「大霍香薊(オオカッコウアザミ)」英語では「Floss flower」などと呼ばれます
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so.ra
【ピンクッション物語】第13話 春が深まり、花壇にはたくさんの花が咲き乱れていた。 中でも美幸が好きなのは、ピンクがかったうす紫色のチューリップの花壇だった。 この色、大好きだなぁ 赤よりも黄色よりも優しくて、この花の前にいると、小さなことにくよくよしてた気持ちが溶けていくみたい。 そんな話をする美幸を、用務員さんはニコニコ眺めながら言った。 そうか、それは良かった。 このチューリップは、死んだ連れ合いが好きだった花なんだよ。この花を見るたびに、連れ合いがそばで笑ってくれてるように感じてね。 知ってるかね、紫のチューリップの花言葉は不滅の愛だそうな。いや、これはちょっとのろけましたかな。 用務員さんは照れて笑った。 学校生活で疲れたら、ここに来て眺めると良い。いつも私と妻が応援しとるぞ! 本当? それなら一年中チューリップが咲いてると良いな! そんな話をしながら、美幸は穏やかな春の光の中で、小さな幸せをかみしめていた。 ずっとずっと、こんな時間が続くと良いな。 それから、雨が降り続きしばらく外に出られない日が続いた。久しぶりの晴れ間に花壇に来てみると、チューリップの花はすっかり散って、あちこちに大きな草が目だつようになっていた。 雨が続いたからなぁ。 それにしても、こんなに草が伸びてて、これから草取り大変そう。 あれ、そういえば、このところ用務員さんを見かけない。 どうしたのかなぁ。 次の日も、次の日も、用務員さんを見かけないので、美幸は担任に聞いてみた。 あぁ、何だか体調を崩して少しお休みしてるらしいよ。 事もなげに言う担任に、美幸はビックリして、大変な病気かと聞いた。 さぁな、詳しいことは知らないし、個人情報だからな。まぁ、来月から新しい人が来るらしいから、問題ないだろう。 担任は関心なさそうに答えると、職員室へ戻っていった。 えっ、もう戻ってこないってこと?そんなに重い病気なの? 美幸は泣き出しそうなのをやっとこらえていた。頭が真っ白で、午後の授業は何も耳に入ってこなかった。 次の月に来た用務員さんは、花壇の草と一緒にチューリップも引き抜くと、大きな袋に次々と入れていった。 あっ!大切なチューリップが!! 美幸はあわてて花壇に駆け寄ると、思いきって用務員さんに話しかけた。 あのー、手伝いをさせてもらっても良いですか?それから、捨てちゃうならそのチューリップを貰いたいんですが。。 新しい用務員さんは、ちらりと美幸の方へ目線を向けると、美幸の歩くようすを見ていった。 花壇の手入れの手伝いを、足の不自由な生徒さんにさせて、なんだのかんだの言われちゃ面倒だから、手伝いは勘弁してくれ。 それから、このビニールに入ってるのは処分するものだが、それを持ち帰って良いとわしは許可できる立場にないんでね。 すまないが、仕事の邪魔をしないでもらえんか。 新しい用務員さんは、そういうと美幸に背を向けて、また作業の続きに取りかかった。 花壇から草と一緒に、残っていた花もチューリップも、次々と抜かれていった。美幸の目の前で、いつもの懐かしい風景は消えて、たちまち土だけの殺風景な花壇に変わっていった。 口の中から身中の水分が抜けてしまったように、美幸の口はカラカラに乾き、一言も言葉を返すことができずにその場に立ち尽くしていた。 しばらくすると、用務員さんが迷惑そうに視線を向けたのに気づき、美幸はゆっくりと校門へと歩き始めた。 たった一人、人が変わっただけで、風景がガラリと変わってしまう。 いつも親しく話してくれていた用務員さんが守ってくれていたものは、とってもとっても大きなものだったんだ。ほんの一瞬の出来事で美幸は思い知らされた。 ひどい! ひどい! ひどい!! なんなの、なんなのよ!!! 用務員さんが大切にしていたあのチューリップはあっという間になくなった。『いつでも私と妻が応援しとるぞ!』そう言ってくれた大切なチューリップを守れなかった自分にも腹が立った。 バッカヤロー!! 帰り道、人気のない土手の道で、美幸は大きな声で叫んだ。 声に出したとたん、それまで塞き止めていた涙が堰を切ったように溢れて、美幸はその場にしゃがみこんだ。 そうしてどのくらい時間がたったろうか、一人の女性が美幸に声をかけた。 あのー、大丈夫ですか? (続く) 🌺13話の📍ピンのテーマは 紫色のチューリップの花言葉≪不滅の愛≫です。 💜紫色は、高貴な色や魅惑的な色の象徴とされています。 失われることのない真っ直ぐな愛の気持ちと気品を感じる花にちなんだ花言葉とのことです。 🌱
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【ピンクッション物語】第12話 3年生になり、受験を意識してか学校での美幸へのいじめはなくなり、穏やかな毎日が過ぎていた。 花壇では色とりどりの花が咲き始め、休み時間に花壇の前で過ごすのが美幸の一番の幸せな時間だった。 いつものように草を抜きながら用務員さんと話をしていたときに、いつかの雪の日の出来事の話になった。 用務員さんが驚いて詳しく尋ねるので、美幸は出会った女性のことや一緒にいた男の子の事なども伝えたのだった。 世の中は狭いもんだ。 用務員さんが苦笑していった。 ポカンとしている美幸に その子らは私の孫たちだよ。 どうもあなたとはご縁があるようだなぁ。  そう言って用務員さんは笑った。 私の孫と同じ年頃なんで、学校の子供さんらは、孫のような気持ちがしておったが。。 あの子らは、本当に優しい私の自慢の孫なんだ。 美幸は、あの時の女性の行動や一緒にいた男の子に感動した話を伝えた。 孫は、隣町の中学に通ってる。あなたと同じ三年生だ。 女の子はひなという名前だが。。 コロナの影響もあって会う機会もないとは思うが、もしどこかで会うことがあったら、声をかけてみてくだされ。 そうかぁ、隣町。 ひなさんはどんな進路に進むんだろう? いつか会えたらいいな。 花壇に咲く色とりどりのアネモネを眺めながら、美幸はあの雪の日のひなの姿を思い出すのだった。 (続く) 🌺アネモネ キンポウゲ科アネモネ属の球根植物で、主に地中海沿岸に生息します。 和名は、「紅花翁草」、「花一華」「牡丹一華」などとも呼ばれ、昭和の初め頃から親しまれているそうです。 実は、花びらに見える部分はがく片とのことですが綺麗ですね💖 アネモネは寒さに当てないとつぼみが出来ない性質があるって調べてて知りました。 こんなに繊細に見える花なのに、寒さすらも糧にするなんて強い花だなって感心しました。 春のはじまりのおだやかな風が吹き始める頃に花を咲かせることから、英語での別名は「Wind flower(風の花)」ともいわれるそうです。風の花、風の時代の今を生きる心意気、そんな想いも重ねました。 ピンク色のアネモの花言葉は「待望(待ち望む)」アネモネの花言葉は「清純無垢」「無邪気」「待望」「期待」「可能性」だそうです 第12話の📍のテーマは、再開を【待ち望む】です💖
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【ピンクッション物語】第11話 それは2月の雪がちらつく冷え込んだ夜だった。塾の帰り、肉まんでも買おうかと美幸はコンビニに立ち寄った。 店員さんに注文しようとすると、 手に大きな荷物を持った、一人の年老いた男性が入ってきた。 あっ、ちょっと待ってください。 店員さんはそういうと、お爺さんの方に向かっていった。 すみません。マスクをつけてもらう決まりになってるんで、着けてもらえますか? あぁ、こりゃすみません。 マスクは紐が切れてしまって、捨ててしまったんです。それに、財布を忘れてしまって買い物ができないんです。 どうも道に迷ってしまって、道を教えてもらおうと立ち寄らせてもらったんですが。。 申し訳なさそうに話すお爺さんに、店員さんは続けた それなら交番で聞いてください。とにかく困りますから、マスクをされないなら、ご利用はできません。 そう言うと、行く手を遮るように男性の前に立ったので、お爺さんは、頭を下げると外に出ていった。 雪が降ってるのに、大丈夫かな? 美幸は急いで肉まんを受けとると、お爺さんの姿を探して外に出た。 道路を挟んで少し進んだ先にバス停があって、形ばかりの小さな屋根のついたベンチにお爺さんがポツンと座っていた。 コンビニの他に商店もなく、普段から人通りの少ない通りだった。雪の降る寒い日だったからなおさら人影もなく、小さな街灯だけがベンチとお爺さんを照らしていた。 傘もないのか。。 自分の持つ傘に目を落とすと、美幸はお爺さんに向かって歩いていった。 すると、バス停の横の道から、小さな男の子を連れた自分と同じくらいの年頃の女性が現れた。 女性は、お爺さんのそばのベンチに座ると話しかけた。 寒いですね。 一番早いバスもあと20分くらいしないと来ないみたいです。 雪の日は遅れるし。。こんな寒いところで大丈夫ですか? この町へ来たのは今日が二度めなもので、すっかり迷ってしまいまして。出先に肝心な財布も忘れてしまったものですから、バスが来たら運転手さんに道を尋ねようと思って待っております。 お爺さんの話を聞いて、それなら今度来るバスに乗って終点の1つ手前の駅で降りれば大丈夫と女性が伝えた。 さっきまで悲しそうな顔をしていたお爺さんは、嬉しそうに顔をほころばせた。 そうですか、それは良かった。 ご親切に有難うございます。 そう言って深々と頭を下げるお爺さんに、女性はバックを探ると何やら取り出した。 これ、コートなんです。 ビニールの安物ですが、今日は雪が降ってるし、風避けになるかもしれないから、良かったら使って貰えませんか? いやいや、そんなご厚意に甘えるわけには。なぁにすぐにバスが来ますから大丈夫ですよ。 そう言ってお爺さんは頭を下げた。 でも、バスを降りた駅からも歩かれるかも。何かあったらこの子と2人で羽織れるように、男物の大きなサイズなんです。本当に安物ですが、使って貰えたら。。 2人のそんなやり取りを隣で聞いていた男の子が、たどたどしい言葉で話し始めた。 おぅーじーちゃん かぜひーちゃうからだめ ちゃーんときくんだよ 真剣にお爺さんを見つめて、一生懸命話す男の子の言葉を聞くと、お爺さんは女性からコートを受け取った。 有難うございます。 見ず知らずの私に。。 ぼうやも有難うね。 ご厚意に甘えて使わせていただきます。そう言うと男性はコートを羽織った。 暖かいですなぁ。 本当に有難うございます。 そう言って男性は少し涙声で続けた。 実は、先日妻が救急車でこの町の病院に運ばれまして、受け入れ先がなくてこんな遠い病院に来ることになったんです。 結局回復せずにあっという間に亡くなってしまって、死に目にも会えませんでした。今日はその帰りなんです。すっかり道に迷ってしまい、店で聞こうと思ってもマスクがないと追い出されましてな、とうとう夜になってしまいました。雪もちらついて人通りもなくて聞くこともできずに困っておりました。 わしらは2人暮らしでしたから、頼れる人もなくて。。 お爺さんはそう言うと、言葉を詰まらせた。 女性は男性の話を聞くと涙ぐんだ。 この先にこの子が通う学校があって、さっき迎えにきた帰りなんです。教室が開いてたら、バスの時間まで待たせて貰えるように頼むんだけど、もう閉まっちゃったから。。 この辺は喫茶店もないし、寒いですがあと少し我慢してくださいね。 そんな2人の話を黙って聞いていた男の子が、女性の頭を引き寄せて何か内緒話をしたようだった。 だって、それお守りでしょう?いいの? こくりと男の子は頷いて、自分の鞄を差し出した。 そこには、小さな袋が下げられていた。女性は袋を外すと男の子に手渡した。中に入っていたのは、小さな黒い種のようなものだった。 あぅーげる おーまーもり そう言って、男の子は、ニコニコしてお爺ちゃんに差し出した。 これは、ぼうやの大切なものでしょう。気持ちだけ貰っておくよ。有難う。 お爺さんから返されると、男の子は泣き出した。 この子が誰かに何かをあげたいって言うのは、初めてなんです。そして、それはフウセンカヅラっていう花の種なんです。この子が通い初めた学校でみんなで育てたフウセンカヅラの種を、去年みんな一粒ずつ貰ったんです。種に♡のマークがあるからお守りだって、大事にしてたものなんです。 この子は、少し耳が不自由で言葉もはっきり話せないんです。だから、苛められる事が多かったけど、そのぶん人の心がわかるような所があって。 きっと、話を聞いていて、お爺さんのお守りになれたらってこの子なりに考えたんだと思います。この子にとって他人に何かをあげようとするのは初めての事で勇気を出したと思うんです。お邪魔かもしれないですが、良かったら気持ちを受け取って貰えませんか? そうでしたか、それはすまないことを。それでは、ありがたく頂戴しますよ。 お爺さんが手を差し出すと、男の子は嬉しそうに種を手渡した。 本当に♡のマークがついてるね。フウセンカヅラか、春になったら育て方を調べて見ようかな。ぼうや、有難うね。 そんなやり取りをしているうちに、バスが到着してお爺さんは、手を振って何度も何度もお辞儀をしながら乗っていった。 2人もお爺さんと同じバスに乗るのかと見ていたら、バスを見送ると女性は男の子の手をひいて反対方向へと歩きだした。 もしかして、お爺さんを心配して見守っていたの? 少し離れたビルの軒先で様子を見ていた美幸も、お爺さんがバスに乗り込むのを見届けると安心して、その場を離れ家へと向かった。 その時は、しばらくしてその女性と偶然再開するとは美幸は思ってもいなかった。 (続く) 🌺マホニアコンフューサ(細葉柊南天) 花言葉は「優しい暖かさ」です。 柔らかな細長い葉の優しい印象と、小さくて黄色い花が冬の寒さの中も、灯りを灯してくれるようです。 第11話の📍のテーマは、優しい暖かさです。
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【ピンクッション物語】第十話 父は言葉を続けた、 今日、会社で今後の経営に関わる大事な話し合いがあったんだ。 こんなご時勢だから、うちの会社も厳しくて、どうやってコストカットをするかという話になった。 そこで、これまでの下請けの取引先を切って、格安でやってくれる外資の業者に乗り換えようと提案したやつがいるんだ。その業者は、手抜き工事をしたり、裏で賄賂を渡すなどよくない噂を聞いていたし、何より長い実績のある信頼できる下請けの業者は、会社と一心同体の宝だと思うから切ってはいけないと反対したんだ。 ところが、10人中8人が外資の業者に賛成で、切り替え案が通りそうになったんだ。もうすでにできてる話、そんな印象だった。 でも、どうしても会社のためにも、今まで誠実に仕事をしてくれた業者のためにも、ここは譲れないと思ったんで、私は納得できないと食い下がったんだ。 そしたら、社長が、「お前は首をかけてもその主張をするのか!」って怒りだしてね。 それでも、父さんは、この身にかえても会社のために考えていただきたいって粘ったんだ。 結局、会議はもめて、最後は従来の業者と外資の業者と、半々に仕事を委託して成果をみようという話に落ち着いたんだ。 多勢に無勢の厳しい戦いだったが、相川さんの会社との取引を続けることができて、父さんはほっとした。 誠実に仕事をすれば、そんな安い金で請け負えるはずがないんだ。きっと、1年後2年後には結果は明かになり、会社を守ることができると父さんは信じてる。 けれど、父さんは社長を怒らせてしまったからね。 それからあることないことミスをでっち上げられて、責任をとる形で辞めざるを得ないように仕向けられたんだ。 後から思うと、裏で計画されていた話に、父さんがまんまとのせられてしまったのかもしれない。 そんなわけで、父さんは3月末で退職させられることになってしまったんだ。 その話を聞いた相川さんが、お礼と感謝を伝えに、わざわざ今日来てくれたんだ。 お前を巻き添えにしてしまって、すまない。今まで、理不尽なことがあっても自分の想いを圧し殺して仕事をしてきたこともあった。だか、今度ばかりは譲れなかった。 父さんは、再就職先を探すつもりだし、退職金や少しの蓄えはある。生活はギリギリになるかもしれないが、奨学金や学費の補助がある高校や大学もあるようだから、お前が同じ気持ちなら、お前の夢を応援したいと思っている。 父さんは一気に話をすると、僕の顔をじっと見つめて返事待った。 卓はゆっくりと話し始めた。 俺、今頭のなかがパニックで、何を話したらいいかわからない。けど、父さんの選択は間違ってないと思う。さすが、俺の父さんだって思う。そして、父さんがよく知恵を使うんだ!って言ってた意味が、何となくわかったよ。 世の中、損得で動くやつばかりだから、正しいこととか、自分はどう考えるかとか、考えない方が楽かもしれないよね。それはつまり、みんなと合わせてるようで、結局は自分さえよければっていうのと、同じことなのかなぁって思ったよ。 でも、 もし、僕だったら。。やっぱり父さんと同じ答えを選ぶと思うよ。それは、中学生だから、世間知らずって、生き方のうまいやつはいうのかもしれないけど。 父さんと俺の生活が厳しくなるかも知れないけど、高校はバイトしながらでも行ける所を探すよ。 俺は苛められて、孤立することがどんなに辛いか早くに知ることができた。そして、そんな時に自分はどう立ち向かうかの覚悟もできた。父さんが俺と一緒に戦ってくれたから、俺の心は強くなったんだ。 結局、選んだ答えは自分の未来に返ってくるんだと思ってる。 父さん、今度は俺が一緒だ! 父さんと一緒に戦うよ。 道は1つじゃない、きっと願いを実現させる道を進むって信じてるから、一緒に頑張ろう! なんだか、うまく言葉にできなくて、何を言ってるかわからないかもしれないけど、 父さんと一緒なら大丈夫! 俺も頑張るから、父さんは体だけは大事にしろよ。 卓はそう言うと、父の顔を見つめた。 大きな存在そう思っていた父親の頭には、いつの間にかたくさんの白髪が増え、目尻のシワも深くなっていた。 (続く) 🌿冬の花壇で、真っ白な花に出会いました。クローリーの花に似てますが、クレマチスのような枝で、腰の高さぐらいの木にたくさん咲いていました。 長いシベ、綿毛のような種もありましたので、クレマチスの仲間かな?➡️クレマチスシルホサと判明しました💕 北風のなかも真っ白の花弁を開いて、凛とした佇まいに力強さを感じました。 この花の名前も花言葉もわかりませんが、寒さにも負けないで、しっかり花を開いていく花に想いを託して、第十話の📍ピンのテーマは信念です。 このご時世で、いろんな選択を迫られてる人も多いと思います。心に決めた想いを貫いて生きることは、辛くて苦しい結果をもたらす事もあるかと思います。。でも、その選んだ選択が、幸せの春に繋がっていきますように♡きっと、幸せを掴めますように♡祈りを込めて💖 春はもうすぐです❣️
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【ピンクッション物語】第九話 卓は中学3年になり、父の薦めで塾に通い始めた。お金がかかるから自力でと考えていたが、高校からめざさなければ医学部は難しいと、父に説得されたのだった。 コロナの影響で半分はオンラインの授業だったが、通ってみると、学校の勉強の一学年も二学年も先を行く授業内容に卓は驚いた。なるほど、塾に来ないと知らないことだらけだ、塾と学校がまるで正反対だ。矛盾を感じながらも、進学をめざして卓は一層頑張った。 卓は学校と塾と道場の忙しい生活が始まり、図書館に行くこともほとんどなくなっていた。 その日は塾の日だったが、講師の先生が急に不調になったと休みになり、卓はまっすぐ家に帰宅した。 ドアを開けると、玄関に見慣れない男性の靴があった。 お客さんか、珍しいな。 卓は廊下からただいまと声だけかけると、2階へ上がっていった。 しばらくして、水を飲もうと一階へ降りた卓は、ちょうど帰ろうとする男性と廊下で鉢合わせした。 こんにちは、と頭を下げる卓に はじめまして。 相川と申します。 そう言って、相川さんは丁寧に頭を下げた。 父が卓の肩に手を置いて紹介した。 息子の卓です。 おぉ、自慢の息子さんだね。 お父さんから、命より大事な息子さんだと、いつも聞かされてますよ。 そう言って笑うと、相川さんは続けた。 お父さんには大変お世話になっております。今日は突然お邪魔してしまいまして、お忙しい時間に申し訳ありませんでした。 いや、いや、いいんですよ。 そう言って相川さんを玄関まで見送ると、何度も何度も頭を下げて相川さんは帰っていった。 今日は早かったんだね。 玄関で相川さんを見送ったあと父が卓に話しかけた。 突然のお客さんでびっくりさせたね。寿司の出前を取ったんだ。夕飯にするか? 父と相川さんは飲んでいたらしく、食卓には徳利が二本並んでいた。 食事中父は何か考えているようだったので、2人は黙って食事を終えた。食器を片付けて2階へ上がろうとする卓を、父が呼び止めた。 ちょっと話できるか? 大丈夫だと伝えて、卓は椅子に座った。 どうしたの、父さん。 何かあった? いずれお前に話さなくてはいけないことだから、聞いてほしい。 父さんは、もしかしたら会社を首になるかもしれない。 それは、予想もしなかった言葉だった。 さっきのお客さんは、相川さんと言って、長い間父さんの会社の仕事を一緒に協力してくれた会社の社長さんだ。 知ってる通り、父さんの会社はマンションの建設をしていて、相川さんはその工事関連の仕事を請け負ってくれている。私と同い年と言うこともあって、何十年も親しく付き合ってきた人なんだ。とても誠実な人で、工事も手抜きをせず責任をもってやってくれるし、何度も窮地を助けて貰った恩人でもあるんだ。 そう言って、父さんはしばらく黙った。そして、卓の顔をじっとみると卓に尋ねた。 お前もお前なりに、世の中を見てきて考えることもあるだろう。今日はお前を一人前の男として、父さんは話をしようと思う。 子供の頃は、正義を選ぶか、それとも友達とか学校とかの体制に巻かれか、自分がどれを選ぶかで帰ってくる結果を受け止めるのは自分だった。 でも、大人になると、たくさんの物を担って、選び方でその背負ってるたくさんの人も巻き添えにしてしまうんだ。 だから、悩む。 それが会社のためにも、社会のためにもならなくて、最終的にたくさんの人を苦しめたり、不幸にしたりすることが見えていても、今背負ってる人達を守る事を選ぶのか? 今日、父さんは、人生からその質問を問われたんだ。 お前なら、どっちを選ぶ? 卓は考えた。 担ってるもの、それが会社の従業員やその家族、あるいは父さんにとっての自分なのかと考えた。理想を取れば、何かが壊れていくかもしれない、明日からたくさんの人が路頭に迷うことになるかもしれない、そんな時自分はどうするだろう? 2人の間に沈黙が流れ、しばらくして父が口火を切った。 正しい答えなんかないし、ましてや誰も教えてくれない。 お前にもきっとそんな選択をしなくてはいけない時が来る。 だから、今からしっかり考えておくんだ。 (続く) 🌺今日の花 ムスカリ やっと探して。。真ん中に小さなムスカリを一輪見つけました💕💦過去picからです😁 ムスカリの花言葉「失望」「失意」「通じあう心」「夢にかける思い」「明るい未来」 春のどんな花とも合う相性の良い存在から「通じ合う心」の花言葉。 また、悲しみ、絶望、失意の先にあるものは明るい未来です。悲しみを超え、失意から立ち直るという意味をこめて、ムスカリには「夢にかける思い」「明るい未来」という花言葉がつけられたと言われています。 第九話の📍ピンのテーマは、「失意」「通じあう心」「夢にかける思い」です。 ムスカリの持つ癒しの力で、悲しみを乗り越えて進んでいけるように、願いを込めて🍀
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【ピンクッション物語】第八話 卓は照れ臭そうに笑って美幸を見た。 俺、こんな話誰にもしたことないのに、何だか君には話しやすくていろいろ話しちゃったな。 この前、体育館のわきの土手んところで、用務員さんと話してたろう、幸せそうな顔してさ。 大人の友達がいるなんて、羨ましいな。 やだ、見られてたの。  美幸は少し恥ずかしそうに続けた。 夏に、校舎のわきがかなり草ぼうぼうになってて、いつも、みんなから離れて避難するお気に入りの場所だったから、何となく草むしりを始めたの。 ブチッっと草をむしるのって、結構ストレス解消になるのよ(笑) 無心で草をとってるうちに、いつの間にか用務員さんも草取りをしてて。ハッとして顔をあげたら、笑いかけてくれて、助かるよって。 それが始まりなの。 小学校の用務員さんは、校庭に除草剤をバンバン撒いて草が一本もないって自慢してたから、 大変なのに除草剤を撒かないんですか?って聞いたの。 そしたら、皆さんが運動なさったり、生活をされる所に毒は撒けないからねって。それから、草が元気に生えるのは、土が元気な証拠だから、有りがたいんだって。土と虫が協力しているから、草も花も元気に育つ。土が清めて、葉っぱが清めて、そんな空気をわしらがいただいてるんだよ。毒を撒けば、いずれ毒を吸い込むことになる、そんな簡単なこともみんな忘れてしまった。当たり前の事が一番ありがたいんだって。 そんなことを話してくれたの。 私、除草剤や殺虫剤を撒いて、合理的にすれば良いのにって思ってたから、用務員さんの言葉は意外だっし、そんな理想を言うだけじゃなくて、実践してるってすごいなって。 用務員さんね、学校に勤める前は、植木屋さんで働いていたそうなの。でも、ある時脳梗塞で倒れて、そのあとリハビリ頑張って歩けるようになったけど、もうあまり無理ができないと、仕事をやめたんですって。仕事で農薬とか殺虫剤とかたくさん使ってたから、病気をしてはじめて肥料とか農薬のこととか調べたんだって。それからは、自然農法が一番なんだって気がついて実践してるんだって。 とってもたくさんの事を知ってるのよ。時々、草取りとか手伝いながらいろんな事を教わってるの。 知ってる?飲み物からサプリ、お菓子まで何にでも入ってる酸化防止剤のアスコルビン酸(ビタミンC)と保存料の「安息香酸Na」が混ざると、猛毒の「ベンゼン」になっちゃうのよ。そのあたり免疫毒性学って言うらしいけど。 安息香酸Na入りの栄養剤とか飲んで、風邪予防にビタミンC取ってたりしそうだよね。知らないって怖いよね。それで、私は栄養士になって、体に良い食べ方とか知らせたいなって思いはじめてるの。仕事内容とか、資格とか、足のハンデがあっても大丈夫かとか、いろいろ調べに図書館に来たの。 へぇ、知らなかった。 用務員さんはすごいね。 僕も一度話を聞いてみたいなぁ。 それに、栄養士の仕事って奥が深そうだね。夢が叶えられる道が開けると良いね。 花壇にさしていた陽射しが弱々しくなり、卓は何かを思い出したらしく、時計を見ると突然立ち上がった。 『まずい!!忘れてた! ちょっと行き先があるんだ。 今日は有り難う!話せて良かったよ。またな!』と言って手をふってかけていった。 花壇に咲くサクラソウの香りに包まれながら、美幸は未来の自分を想像してみるのだった。 (続く) 🌺今日の花 サクラソウ 第八話の📍ピンのテーマは、サクラソウの花言葉「少年時代の希望」です。 サクラソウの間からチューリップの葉も顔を出してます。次はサクラソウとチューリップ🌷の共演が楽しみです🤗❣️
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【ピンクッション物語】第七話 もうすぐ3年生。 同級生は、進学や進路の話題を口にすることが多くなった。 担任や塾の先生の勧めで、とりあえず自分の成績で行ける高校を考える子が多かったが、美幸は卓との話のあと、自分が幸せに生きる仕事ってなんだろうと考える事が多くなっていた。 担任は将来公務員はどうだ?と勧めたが、自分の居場所はそこではない気がして、美幸は図書館に資格の本を探しに来た。 久しぶりの図書館は、人気が少なくひんやりとして、手に息を吹き掛けて温めながら本を探していると、隣に人影を感じた。 ハッとして目を上げると、卓が笑っていた。 やぁ、この前はどうも。 元気だった? あっ、この間は大変お世話になりました。 あはは、そんな堅苦しい話はいいから。靴は見つかったの? ううん、結局出て来なかったの。 でも。。その代わり、見つけたものがあったみたい。 えっ、それは興味深いな。 何なの? 自分の『諦めようとしていた気持ち』かな。どうせ今までも無理、これからも無理。結局、この世の仕組みも人の心も、綺麗事を言ったって何も変わらない、自分の人生こんなものって思ってた気持ち。自分で自分を殻に閉じ込めていた私の気持ち。結局自分次第だって気がついたのは、私には大きかったなぁって。 それで、未来の自分のために、どんな仕事があるかって調べに来たの。 そうか。 俺も今日、進路の本を探しに来たんだ。 卓の手に抱えた本を見ると、医学関係の本だった。 卓くん、お医者さんをめざすの? うん、合格できるかどうかわからないけど、挑戦してみようかなって。 あっ、ここじゃうるさくなっちゃうから、外にでない? 今日は晴れてるから。 美幸と卓は図書館の外に出た。 学校の近くにある図書館は、公園に隣接していて、いつも綺麗な花が咲いていた。 陽のあたるテラスの端っこに腰かけると、卓が口を開いた。 医者になるには、かなりお金が必要らしいから親父に聞いたんだ。そしたら、私立は難しいけど、国立なら何とかできると思うからやりたければやってもいいぞって。 でもさ、医学系の大学に行ける高校って偏差値高いだろ。みんな塾とかに行って対策とかしてるけど、俺んちはそんな金ないから、ギリギリまで自力で頑張ろうかなってさ。 すごいね。 もう、そんな先の事まで考えてるんだ。 2人の前で、白やピンクのサクラソウが気持ちよさげに咲いていた。お母さんに連れられて、噴水の周りでは小さな子供たちが楽しそうに駆け回っていた。 (続く) 🌺今日の花 サクラソウ 第七話の📍ピンのテーマは、サクラソウの花言葉「少年時代の希望」「初恋」です。 💖花名の桜草(サクラソウ)は、花の形や色がサクラに似ていることに由来するといわれます。ピンクや白などのかわいいハート形の花びらが可愛いですね。その5つの花びらは個々に分離した離弁花ではなく、よく見るとそれぞれがつながった合弁花なんですね。 みんな仲良し(*^.^*)😃🍒😃 サクラソウ属の学名はプリムラ(Primula) 学名の「Primula sieboldii(プリムラ・シーボルディ)」は、江戸時代に長崎オランダ商館の医官として滞在したドイツの博物学者シーボルト(Siebold / 1796~1866)の名前にちなむそうです。
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柊物語 その4 一方、華さんの家は、村一番の金持ちと鼻高々だったのに、今では馬鹿にしていた静さんの家が一番の金持ちで、村人らからも、それはそれは大切にされるもんだから、華さんもその姑さんも、面白くないと思っておったんじゃ。 そこで、姑さんが華さんに言ったそうな。 お前さん、あんな貧乏娘に先を超されて悔しいじゃないか。 あの川に、福虹魚がいることは確かなんだから、明日から私らで水汲みにいって、魚をたんと捕まえよう。 そうね、お母さん。 それなら、静さんが川に出かける前に、先を越していかなくちゃ。 そうだね。それに、魚がたくさんいたら、一人じゃもったいないから、わたしも行くよ。 そういって、次の朝からは、静さんを待たずに、日の出と共に、華さんと姑さんは川へ水汲みに出かけるようになったと。 2人が通っても通っても、川には魚一匹現れなんだが、明日こそ、今度こそと、2人は通い続けたと。 そうして、春が過ぎ、夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が来る頃、 早起きは2人の習慣になり、 金持ちを鼻にかけて、ぐうたらしていた2人は、毎日川へと歩くうち、体もどんどんと丈夫になっていったし、気性も優しくなっていったんじゃ。 それにの、重い桶を担いで、道々話もするもんだから、だんだんに仲良くなっていったそうな。 汲んだ水が余ったものを野菜にもやるもんだから、野菜も良く育って、華さんの家も少しずつ金がたまって、幸せになっていったそうじゃ。 静さんとと華さんの幸せな話は、やがて周りの村にも伝わって、 2人の通った川は、福虹川と呼ばれ、そこの水を飲むと幸せになると、今では遠くの町からも水を汲みに来るそうじゃ。 めでたし、めでたし。 🍁新春ですので、福の神様のお話にしてみました😊💖 ヒイラギの葉は年数が経つにつれて、葉のトゲがなくなり丸みを帯びた葉になっていくそうです。 幸せも苦労のなかに丸みを帯びて、生まれてくるのかも知れませんね。 ヒイラギのキンモクセイに似た甘い香り、春にこの芳香が全てを歓迎しているようだとして「歓迎」という花言葉になったそうです。 真っ白な花も、赤い可愛い実も、ヒイラギの花に出会ったら、この話を思い出していただけると嬉しいです😊❣️
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柊物語 その3 娘は川につくと、まずはじっさまの桶から水汲みを始めたそうな。 すると不思議なことに、見たこともない虹色の魚が、やまのように集まってきて、娘の汲む桶に吸い寄せられるように入ってくるんじゃと。 2つ目の桶も、3つ目の桶も、四つ目の桶も。 娘はあまりの不思議に、川の神様に手を合わせて祈ったと。 たくさんの恵みを有り難うございます。じっさまの分も、大切にいただいて帰ります。 娘は、4つの桶を棹で支えて歩いたが、水の重さに加えて魚もたんと入っておったから、ふらふらしながら、やっと思いでじっさまのところまでやって来たんじゃ。 お待たせしちゃって、ごめんなさい。足のお加減はいかがですか? 娘が尋ねると、じっさまは嬉しそうに答えたそうな。 お陰さんで、痛みが軽くなりもうした。これなら家まで歩いて帰れそうじゃ。水汲みをすまんのう。あとは、わしが担いでいきますからの。 いえいえ、無理をしてはいけません。おじいさんの家まで運んで参ります。それに、ほら、魚がこんなに‼️ 娘に事の始終を聞いて、じっさまは笑いだした!いつか、わしも聞いたことがある。あんたはあの川の福の神様に会いなすったんじゃろう。その魚は福虹魚と言って、食べればたちまち病を治す不思議な魚じゃ。 どれ、一匹、いただこうかの。 そういってじっさまが魚を食べると、不思議なことに、足の怪我はみるみる癒えて、じっさまはすっくと立ち上がり、元通りに歩けるようになったんじゃ。 娘さん、あんたの綺麗な心に川の神様がくれた褒美じゃ。 その魚を持って町で売れば、豊かにくらしていけるじゃろう。 わしの分も持ってお行きなされ。 そう言って楽しそうに笑うと、じっさまの姿は突然見えなくなったと。 あんれ、 不思議なこともあるもんだ。 娘が桶を見ると桶は4つ並んだまんま。魚は4つの桶に元気に泳いでおったんじゃ。 周りを見回して、じっさまを探してもおらなんだから、娘は4つの桶を担いで家へと帰っていったんじゃ。 そして、やっとの思いで帰ると、家族に、今日の不思議な話を聞かせたんだと。 お前さんは、良いことをなさったのぉ。 わしも、一度だけ聞いたことがある。おとぎ話と思っておったが、 本当にあるとはのう。 どれ、わしも一匹いただいて見ようかの。 静さんの姑さんは、腰を患って寝たり起きたりしておったが、魚を食べたらすぐにしゃんとして、動けるようになったんじゃ。姑さんは、それはそれは喜んで、娘を誉めたそうな。 これは本物じゃと、娘は村中を回って病を持った人たちに魚を配って歩いたと。魚を食うとたちどころに病が治るもんだから、みんなにそれは感謝されたんじゃと。 静さんと婿さんは、残った魚を町に売りにいったら、それはそれは高い値で売れたもんだから、娘の家は、たちまちに村一番の金持ちになったんじゃ。 🌿続く
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柊物語 その2 2人にはそれぞれ姑様がいて、気性はそれぞれの娘によく似ておったそうな。 物静かな娘は、静さんと呼ばれ 華やかな事が好きな娘は華さんと呼ばれておったんじゃ。 村には井戸がなかったから、娘らは朝早くから、近くの川まで水を汲みに行くのが日課じゃった。 静さんは、朝早くに起きて、水汲み前に家の掃除を済ませ、朝飯の準備をして、姑さまの履き物を整えておくんだと。 一方、華さんは、のんびり起きて、まずは鏡で丹念に支度をするうち時が過ぎ、姑さんに急かされて水汲みに出掛けるんだと。 おはよう 2人は声をかけあい、川に向かって歩く途中に、1人の年老いたじっさまが、苦しそうに草に腰を下ろしてるところに、出会ったんじゃと。 あれまぁ、どうなさったの? 辛そうだけど、どこかお具合でも悪いの?   静さんが声をかけた。 いやいや 水汲みに来たんじゃが、どうも足をくじいてしまったようで、痛くて歩けずにおったんじゃ。 なぁに、しばらく休んでおればなおるじゃろうて、心配してくれてかたじけない。 するとか、華さんが言ったんじゃ そうなの? それじゃぁ、ゆっくり休んでね。私らは、先を急ぐから。 さぁさぁ、いきましょう!  そういって、静さんを急かしたそうな。 静さんが心配して、じっさまの足を見てみるとそれは腫れておったそうな。 華さん、先に行っててね。わたしはすぐに追い付くわ。 華さんは  そう。  それなら、あとからおいで。 そういうと、さっさと歩いていった。 静さんは、被っていた手拭いを裂いて、近くの木の枝を添えて、じっさまの足をまいて、持っていた水筒の水で冷やしたと。 足を折ってるかも知れないから、大事にした方がいいわ。 その入れ物にわたしが水を汲んでくるから、ここで静かにしていてね。 すまんのうというじっさまの水桶を預かると、4つの桶を肩にかついで、川へと向かっていったんだと。 その日は風が強い日じゃたから、娘はあおられて、よろよろしながらも、踏ん張って川へと向かったそうな。 あらぁ、遅かったじゃない。 華さんが水汲みを終えて、こちらへ歩いてきた。 まあ、呆れた。おひとよしね。人の分まで水汲みなんて。 悪いけど、わたしは自分で精一杯よ。じゃあ、先に行くわね。 華さんに別れると、娘は川へと急いでいった。 🌿続く
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so.ra
柊物語~短編~ あるところに2人の娘がいた。 1人は優しく物静かで、争い事はせず、誰かが競おうとすれば、譲って微笑んでいる娘だった。 もう一人は、美しく華やかに自分を飾ることが好きで,なんでも一番でないと気にいらない娘だった。 2人は同じ村にすみ、年も近かったこともあり、姉妹のように仲良く過ごしておった。 大人しい娘は、華やかさが好きな娘に召し使いのように使われていたが、嫌な顔をせず、いつも楽しげににこにこと過ごしておったそうな。 そんな二人が大人になって、それぞれに美しく成長したものだから、村の男達から嫁に来ないかと乞われるようになった。 華やかなことの好きな娘は、村一番の金持ちと、大人しい娘は素朴で貧しいが、娘を大切にして働き者の若者と家庭を持って、それぞれ幸せに暮らし始めたと。 🌿セイヨウヒイラギは春に白い花を咲かせ、初冬に赤い果実を実らせます。 柊(ヒイラギ)は初冬に白い花を咲かせて、初夏に黒紫色の果実を実らせます。 冬に白い花が咲いていたら柊(ヒイラギ) 赤い実が付いていたらセイヨウヒイラギなんですね。 どちらも素敵なヒイラギですね🎵 これは、そんな2つの花にちなんて、2つのヒイラギのような娘の物語です♥️
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