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ハルジオン,ハルジオン(春紫苑),今日のお花の投稿画像
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kaorin
2025/04/27
『ハルジオン』
🏷️今日のお花
花言葉 「追想の愛」
開花すると上を向くハルジオンですが、つぼみの状態だと下を向いています。
この姿が、『過去の恋愛を思い返している人』のように見えることから、「追想の愛」という花言葉がつけられたといわれています。
1920年頃に日本に観賞用として入ってきましたが、普及はしませんでした。
環境省の要注意外来生物リストには「1965年頃に耕耘機が普及し、1967年から除草剤パラコートの使用が始まった頃から関東地方を中心に爆発的に増加し〜」と載っています。つまり耕運機で根を切断されても農薬を散布されても、それをものともせずに繁殖しているということです。爆発的に増えたのは、ライバルである他の雑草達が除草剤に負けたから!ということだろう。
第1話 ハルジオン
「(前略)」
その日、私は、少し自転車を止めて休んでいた。
「いつも頑張っておられますね」
ふいに声が聞こえたので、私は辺りを見回した。
「 ここです。私は、あなたがたが、ハルジオンとかハルジョオンとか、言っている雑草です。松任谷さんと言いましたか。有名な歌手の方が歌っておられるそうですね」
私は、その素朴な白ともピンクともつかない花を見た。ついに幻聴が聞こえるようになったかと思った。
「幻聴か、などと思っておられるのでしょうか? あなたは、狂ってなどいません。まあ、今、この辺りに人もいませんし、私とお話しても、頭がおかしくなったとは、思われませんよ?」
信じられない。植物が話しかけてくるなんて……
「 毎日、頑張っていらっしゃるなあと、感心しながら、拝見しておりました。あと、私に触れたりされていましたね」
「 いや、あの、変な意味ではなく…… 病気の痛みでどうしようもない苦しさが、葉や茎に触ると、気が紛れて」
ハルジオンがクスクス笑う声が聞こえた。
「ようやく答えてくださった。嬉しいですわ」
また、ハルジオンは笑った。
「セクハラだと訴えたりはしませんよ。人間の手の平の感覚は、脳の幅広い部分に働きかけるそうなので、そういうものがいいのかもしれませんね。医学は、特に神経系は、チョウセンアサガオさんの方が詳しいから、そちらに聞いた方がよいかもしれませんが」
これが、妄想なのかどうか、私は計りかねた。しかし、ハルジオンはとても親切に話しかけてきたので、少し穏やかな気持ちになった。妄想というものは、こんなに穏やかで親切な性質のものもあるのだろうか?
「 お休みの間、退屈がてらに、私の身の上話でも、聞いてくださいませ。私たちはどこにでもあるので、貧乏花などと言われたりもします。しかし、私たちも、これだけ広がるまでには、少しはドラマチックな紆余曲折があったのですよ?」
ハルジオンがドラマチック? その辺の雑草ではないか。何を言っているのだと、私は思った。
「 お疑いのご様子ですね。私は、大正時代に、アメリカから日本へ連れて来られました。観賞用の花として。大昔には、花屋で私たちは売られていたのですよ」
「 ハルジオンが、花屋で売られていた?」
「 ええ、ピンクフリーベインという流通名でした」
「 それが、どうして雑草に?」
「 流行の移り変わりの中で、人々は私たちに飽きてしまったのです。それで、取引きされないようになり、私たちは放置されました。エスケープ植物だなんて言われますが、見捨てられただけ。それでも、私たちは、野原や道端。山林で増えていきました」
「なんと逞しい……」 私は思わず呟いた。
ハルジオンは相変わらず静かな口調で言った。
「 幸運が重なっただけです。ところで、あなたは、ご病気みたいですが、どんな病気なんですか?」
「 死ぬ事は滅多に無い病気なのですが、激しい痛み、感覚過敏や疲労があります。認知能力が下がり、精神的に混乱してきたりもします。寝たきりになってしまう人もいます。いろいろな要因が絡み合った病気で、薬ですっと治るものではないのです。運動療法が一番効果があるということで背水の陣の思いでやっているのです」
「治った方はいらっしゃらないのですか?」
私は何度も何度も心の中で思ってきた事を言った。
「 いろんな研究があるので、一概には言えないのですが、三割とか四割とか。友人は、軽々しく『そこに滑り込めばいいだけじゃないか』と言ったりする。治療法が確立されていない上に、歩けば足の裏が痛く、座ればお尻が体重で痛く、布団で寝ていて体重で体が痛いなんて、経験したことないくせに! これに、一生取りつかれたままなのかと、思うと、耐えられない。外側にあるものなら、距離の取りようがありますが、自分の内側にあるものは、距離の取りようがありません。これから、どうやって生きていけばよいのでしょう?」
ハルジオンは、淡々としかし、少し悲し気な調子で言った。
「それは……聞いているだけで、とても、辛い状況ですね。私たちも、少しだけ似た経験があります。随分昔、人々は、私たちが生えている所に薬を撒きました。何年も、何度でも。移動ができない私たちは、その場の水分を吸うしかない。光合成の仕組みを利用して、毒素を作らせ細胞内のタンパク質やDNAを破壊する。苦しい死に方です。よくこんな方法を考え付くものだと感心しました」
「……除草剤ですか」
「 私たちは、異国の地で見捨てられ放りだされた。仕方なく適応して生き残っていただけです。しかし、人々、私たちが増えるのが邪魔だったみたい……」
「 すみません……」
「 いえいえ、関係無いあなたに謝ってもらっても」
ハルジオンは、苦笑の声を上げた。
「ウィルスや細菌、昆虫などは、世代交代のサイクルが速くて、薬剤耐性がつきやすい。それに対して、成長がゆっくりな植物は耐性がつきにくいと言われていました……」
「言われて……いました?」
「そう言われていたのですが、神さまは奇跡を与えてくれました。どれだけの仲間が倒れたかわからない。でも、世代交代の中で変異が起きた。除草剤が平気になったのです」
「……除草剤を克服してしまったのですか?」
「 ええ。これだけ広がって、かつ除草剤も大丈夫なら、私たちに決定打を与える手段は、もうありません。今では私たちは、遥か昔から日本にいるような顔をして、風景に溶け込んでいます……」
またハルジオンはクスクスと笑った。
「人間の病気の事は、わかりかねますし、酷な言い方をするようですが、心臓や脳が動いていても、諦めたら、そこで終わりではないでしょうか。私たちよりも、あなたの方が可能性というものがあるように思えるのです。
私たちが、除草剤に耐性を持ったのは、奇跡的な恵みだと思っています。なかなか人間に、そんな奇跡は起きないかもしれません。
しかし、三割、四割、治る確率があるなら、治る場合があるということ。絶対に治らない、ゼロだと絶望するのは、間違いだと思います。ポジティブに考えるのも、大切だとは思いますが、治らない人もいるのですから、絶対治るというのも、空々しい言い方でしょう。それでも、治る場合があるかもしれない。治らないまでも、症状が軽くなるかもしれない。生活が立て直せるかもしれない。良い方向に行く『かもしれない』と柔らかく思いながらいろいろと可能性を探りつつ生きるのは、ダメでしょうか。
私たちが、薬剤耐性を持つ奇跡よりは、分の良い勝負のような気がします。見た所、あなたは、随分、リハビリというのでしたっけ……を頑張れる人みたいですし。あ、人が来ましたね。あなたも、頭がおかしいと思われたくないでしょうから、おしゃべりは、このくらいにしておきましょうか。文字通り、草葉の陰で、応援してますよ。気が向いたら、ほかの植物にも、話しかけてみてはどうでしょう。みんな、なかなかですよ」
また、クスクスと笑ったあと、ハルジオンは沈黙した。ぼんやりしている私の傍を、通りがかった人が不思議そうに見ながら歩いていった。
ポジティブな考えで、確かに自分に暗示をかけ、心身を変えられる人はいるのかもしれない。でも、私は、どうしてもそんな気持ちになれなかった。「絶対治る」とか「絶対成功する」というのも、言い過ぎかもしれないが、「絶対に治らない」とか「人生が終わりだ」というのも、確かに言い過ぎだ。ハルジオンは膨大な苦痛と犠牲を乗り越え、薬剤耐性を持つようになった。
ハルジオンは情報を集めて、試行錯誤するという事ができようはずもなかった。ひたすらラッキーを信じて酷い毒物に耐えるだけだった。
私の状況の方が、ハルジオンの境遇より、良い方向へ転ぶ可能性は、はるかにあるかもしれない。
どこから立て直したらいいだろう……
ハルジオンのしたたかでたくましい生き様を知って、少し植物について調べてみた。陸上の植物が現れたのが四億五千万年前。人類の祖先が現れたのは二十万年そこそこ。彼らは、生命進化の大先輩なのだと知った。植物に対して尊敬の念が沸いた。
相変わらず、体中が痛いが、久しぶりに原稿を書いてみたくなった。指の細かい動きが、いまいちなのだが、ぎこちない動きで、私は次に書く作品のタイトルを打ち込んだ。
「植物に聞いてみた」
と。
_🖋️
小説、シナリオ、エッセイ作家
ねこつう🐈⬛🐾
東北牧場の野草
農薬や化学肥料を一切使っていない東北牧場に自生する“食べられる野草”を紹介。
《ハルジオン》
ルテインやカロテン、鉄分が豊富で、オメガ3脂肪酸も含まれています。また、ポリフェノールも含まれており、抗菌作用や動脈硬化・高血圧予防の効果が期待されます。
ハルジオン
(Philadelphia fleabane)
柔らかい新芽と新葉だけでなく、茎、つぼみも全て食べられる。春菊のような独特の苦味がある上品な味わいの野草。
新鮮なハルジオンの葉は、サラダや炒め物、天ぷらなどに利用できます
最後はやっぱり食べられる話シ🤫
✢fooco✢
2025/04/27
フィクション ノンフィクション
どっちでもいいや。 考えさせられるにゃ😺✨👍
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1
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かよこ
2025/04/27
こんにちは✳️
考えさせられるお話
いや 小説家でした📕
じっくりと読んでしまった🤔
有難う💝
でも体調気になるな🫢
おぉ! 今日は体調良し👌って無いの⁉️
辛い😤💟💟
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1
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ゆり
2025/04/27
Kaorinさん🌹
こんにちは…
素敵な、哀しい、考えさせられるお話しでした…
風邪ひいてしまったくらいで苦しいのに
貴女はもっと、毎日苦しいのですね…
なのに…
だから…こんなお🌸しが書けるのかな…😢
神様、Kaorinさんに、健康を…🙏
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1
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kaorin
2025/04/27
@✢fooco✢
さま。
何かを口にすると、
顔が熱り
湿疹で赤くなり
微熱でグッタリ😓
ベッドで
鬱ら
うつら
ウツラ
どんなに調べても🩸
原因不明🥲
なんて事でしょう😱
世の中には、原因不明の病気、治らない病気、治せない病気、数えきれないほどあるんです🥲
障害を持った方の介護ボランティアをしてたこと、ありました。
まだ若い命が失ってしまう現場にも😭
ある日突然、そんな奇病に見舞われた作家さんの、エッセイです。
ご心配おかけしてます。
コメント📝ありがとうございました😊
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1
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kaorin
2025/04/27
@かよこ
さん。
😓💦
突発性蕁麻疹😱
気を付けようがありません😭
奇病に悩まされ、
日々、痛みに耐えながら、生活されてる
作家さんのエッセイ🖋️です。
YouTubeから。
いつもご心配、優しいコメント📝
ありがとうございました😊
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1
返信
kaorin
2025/04/27
@ゆり
さん。こんばんわ🤗
病気に苦しみながら
リハビリを兼ね植物に触れたり写真を撮ったり
過ごしてる作家さんのエッセイ🖋️です。
お気に入り登録してるYouTubeから☝️
今日のお花
『ハルジオン』から。
題目が同じだったので、体調悪い👎自分と重ねました😅💦
ご心配、優しいコメント📝
ありがとうございました😊
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1
返信
ゆり
2025/04/27
@kaorin
さん🌹
日頃の、多岐に渡るジャンルの造詣の深さから、文筆もされ、雅号のようにペンネームを
お持ちなのかな、と思いました…😅
YouTubeで見てみます🙂
また、新しい世界の紹介を有り難うございます🙏💕
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1
返信
✢fooco✢
2025/04/27
@kaorin
さん
自律神経失調症かな…
無理しすぎだよ🥲もっと不良にならなきゃ…
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0
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静 【shizuka】
2025/04/27
こんばんは😄GSで、ここまで長文を読んだ事が無い😑🍵w
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kaorin
2025/04/27
@静 【shizuka】
おはよう🥱
目が覚めた😅
明日は病院🏥
静は会社ね😆
長文読まない人に読ませさせた🤔
って事よね🤨
最後まで
読んで頂きありがとうございました🥰
飛び石連休は大変よね😓
頑張ってね👍
早めに、おやすみ下さい (❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾💕
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静 【shizuka】
2025/04/27
@kaorin
kaorinのだから、読んださ❤️w
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kaorin
2025/04/27
@ゆり
さん。滅相もございません😅💦
いつも、長文丁寧に読んで下さりありがとうございます😊。
ご心配もおかけして😓
申し訳ないです(⁎ ᎑ˬ᎑)⁾⁾
懲りずに
これからも仲良くして下さいマセ🍀
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1
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kaorin
2025/04/28
@静 【shizuka】
さっさと寝なきゃ🥹☝️
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ゆり
2025/04/28
o((*^▽^*))o💖
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0
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taro
2025/04/28
直木賞候補!!👏👏👏👏👏
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今日のお花
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要注意外来生物
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病気に負けない❤!
人に優しく
つなぐ、つながる
植物
ハルジオン
ハルジオン(春紫苑)
🏷️今日のお花
花言葉 「追想の愛」
開花すると上を向くハルジオンですが、つぼみの状態だと下を向いています。
この姿が、『過去の恋愛を思い返している人』のように見えることから、「追想の愛」という花言葉がつけられたといわれています。
1920年頃に日本に観賞用として入ってきましたが、普及はしませんでした。
環境省の要注意外来生物リストには「1965年頃に耕耘機が普及し、1967年から除草剤パラコートの使用が始まった頃から関東地方を中心に爆発的に増加し〜」と載っています。つまり耕運機で根を切断されても農薬を散布されても、それをものともせずに繁殖しているということです。爆発的に増えたのは、ライバルである他の雑草達が除草剤に負けたから!ということだろう。
第1話 ハルジオン
「(前略)」
その日、私は、少し自転車を止めて休んでいた。
「いつも頑張っておられますね」
ふいに声が聞こえたので、私は辺りを見回した。
「 ここです。私は、あなたがたが、ハルジオンとかハルジョオンとか、言っている雑草です。松任谷さんと言いましたか。有名な歌手の方が歌っておられるそうですね」
私は、その素朴な白ともピンクともつかない花を見た。ついに幻聴が聞こえるようになったかと思った。
「幻聴か、などと思っておられるのでしょうか? あなたは、狂ってなどいません。まあ、今、この辺りに人もいませんし、私とお話しても、頭がおかしくなったとは、思われませんよ?」
信じられない。植物が話しかけてくるなんて……
「 毎日、頑張っていらっしゃるなあと、感心しながら、拝見しておりました。あと、私に触れたりされていましたね」
「 いや、あの、変な意味ではなく…… 病気の痛みでどうしようもない苦しさが、葉や茎に触ると、気が紛れて」
ハルジオンがクスクス笑う声が聞こえた。
「ようやく答えてくださった。嬉しいですわ」
また、ハルジオンは笑った。
「セクハラだと訴えたりはしませんよ。人間の手の平の感覚は、脳の幅広い部分に働きかけるそうなので、そういうものがいいのかもしれませんね。医学は、特に神経系は、チョウセンアサガオさんの方が詳しいから、そちらに聞いた方がよいかもしれませんが」
これが、妄想なのかどうか、私は計りかねた。しかし、ハルジオンはとても親切に話しかけてきたので、少し穏やかな気持ちになった。妄想というものは、こんなに穏やかで親切な性質のものもあるのだろうか?
「 お休みの間、退屈がてらに、私の身の上話でも、聞いてくださいませ。私たちはどこにでもあるので、貧乏花などと言われたりもします。しかし、私たちも、これだけ広がるまでには、少しはドラマチックな紆余曲折があったのですよ?」
ハルジオンがドラマチック? その辺の雑草ではないか。何を言っているのだと、私は思った。
「 お疑いのご様子ですね。私は、大正時代に、アメリカから日本へ連れて来られました。観賞用の花として。大昔には、花屋で私たちは売られていたのですよ」
「 ハルジオンが、花屋で売られていた?」
「 ええ、ピンクフリーベインという流通名でした」
「 それが、どうして雑草に?」
「 流行の移り変わりの中で、人々は私たちに飽きてしまったのです。それで、取引きされないようになり、私たちは放置されました。エスケープ植物だなんて言われますが、見捨てられただけ。それでも、私たちは、野原や道端。山林で増えていきました」
「なんと逞しい……」 私は思わず呟いた。
ハルジオンは相変わらず静かな口調で言った。
「 幸運が重なっただけです。ところで、あなたは、ご病気みたいですが、どんな病気なんですか?」
「 死ぬ事は滅多に無い病気なのですが、激しい痛み、感覚過敏や疲労があります。認知能力が下がり、精神的に混乱してきたりもします。寝たきりになってしまう人もいます。いろいろな要因が絡み合った病気で、薬ですっと治るものではないのです。運動療法が一番効果があるということで背水の陣の思いでやっているのです」
「治った方はいらっしゃらないのですか?」
私は何度も何度も心の中で思ってきた事を言った。
「 いろんな研究があるので、一概には言えないのですが、三割とか四割とか。友人は、軽々しく『そこに滑り込めばいいだけじゃないか』と言ったりする。治療法が確立されていない上に、歩けば足の裏が痛く、座ればお尻が体重で痛く、布団で寝ていて体重で体が痛いなんて、経験したことないくせに! これに、一生取りつかれたままなのかと、思うと、耐えられない。外側にあるものなら、距離の取りようがありますが、自分の内側にあるものは、距離の取りようがありません。これから、どうやって生きていけばよいのでしょう?」
ハルジオンは、淡々としかし、少し悲し気な調子で言った。
「それは……聞いているだけで、とても、辛い状況ですね。私たちも、少しだけ似た経験があります。随分昔、人々は、私たちが生えている所に薬を撒きました。何年も、何度でも。移動ができない私たちは、その場の水分を吸うしかない。光合成の仕組みを利用して、毒素を作らせ細胞内のタンパク質やDNAを破壊する。苦しい死に方です。よくこんな方法を考え付くものだと感心しました」
「……除草剤ですか」
「 私たちは、異国の地で見捨てられ放りだされた。仕方なく適応して生き残っていただけです。しかし、人々、私たちが増えるのが邪魔だったみたい……」
「 すみません……」
「 いえいえ、関係無いあなたに謝ってもらっても」
ハルジオンは、苦笑の声を上げた。
「ウィルスや細菌、昆虫などは、世代交代のサイクルが速くて、薬剤耐性がつきやすい。それに対して、成長がゆっくりな植物は耐性がつきにくいと言われていました……」
「言われて……いました?」
「そう言われていたのですが、神さまは奇跡を与えてくれました。どれだけの仲間が倒れたかわからない。でも、世代交代の中で変異が起きた。除草剤が平気になったのです」
「……除草剤を克服してしまったのですか?」
「 ええ。これだけ広がって、かつ除草剤も大丈夫なら、私たちに決定打を与える手段は、もうありません。今では私たちは、遥か昔から日本にいるような顔をして、風景に溶け込んでいます……」
またハルジオンはクスクスと笑った。
「人間の病気の事は、わかりかねますし、酷な言い方をするようですが、心臓や脳が動いていても、諦めたら、そこで終わりではないでしょうか。私たちよりも、あなたの方が可能性というものがあるように思えるのです。
私たちが、除草剤に耐性を持ったのは、奇跡的な恵みだと思っています。なかなか人間に、そんな奇跡は起きないかもしれません。
しかし、三割、四割、治る確率があるなら、治る場合があるということ。絶対に治らない、ゼロだと絶望するのは、間違いだと思います。ポジティブに考えるのも、大切だとは思いますが、治らない人もいるのですから、絶対治るというのも、空々しい言い方でしょう。それでも、治る場合があるかもしれない。治らないまでも、症状が軽くなるかもしれない。生活が立て直せるかもしれない。良い方向に行く『かもしれない』と柔らかく思いながらいろいろと可能性を探りつつ生きるのは、ダメでしょうか。
私たちが、薬剤耐性を持つ奇跡よりは、分の良い勝負のような気がします。見た所、あなたは、随分、リハビリというのでしたっけ……を頑張れる人みたいですし。あ、人が来ましたね。あなたも、頭がおかしいと思われたくないでしょうから、おしゃべりは、このくらいにしておきましょうか。文字通り、草葉の陰で、応援してますよ。気が向いたら、ほかの植物にも、話しかけてみてはどうでしょう。みんな、なかなかですよ」
また、クスクスと笑ったあと、ハルジオンは沈黙した。ぼんやりしている私の傍を、通りがかった人が不思議そうに見ながら歩いていった。
ポジティブな考えで、確かに自分に暗示をかけ、心身を変えられる人はいるのかもしれない。でも、私は、どうしてもそんな気持ちになれなかった。「絶対治る」とか「絶対成功する」というのも、言い過ぎかもしれないが、「絶対に治らない」とか「人生が終わりだ」というのも、確かに言い過ぎだ。ハルジオンは膨大な苦痛と犠牲を乗り越え、薬剤耐性を持つようになった。
ハルジオンは情報を集めて、試行錯誤するという事ができようはずもなかった。ひたすらラッキーを信じて酷い毒物に耐えるだけだった。
私の状況の方が、ハルジオンの境遇より、良い方向へ転ぶ可能性は、はるかにあるかもしれない。
どこから立て直したらいいだろう……
ハルジオンのしたたかでたくましい生き様を知って、少し植物について調べてみた。陸上の植物が現れたのが四億五千万年前。人類の祖先が現れたのは二十万年そこそこ。彼らは、生命進化の大先輩なのだと知った。植物に対して尊敬の念が沸いた。
相変わらず、体中が痛いが、久しぶりに原稿を書いてみたくなった。指の細かい動きが、いまいちなのだが、ぎこちない動きで、私は次に書く作品のタイトルを打ち込んだ。
「植物に聞いてみた」
と。
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小説、シナリオ、エッセイ作家
ねこつう🐈⬛🐾
東北牧場の野草
農薬や化学肥料を一切使っていない東北牧場に自生する“食べられる野草”を紹介。
《ハルジオン》
ルテインやカロテン、鉄分が豊富で、オメガ3脂肪酸も含まれています。また、ポリフェノールも含まれており、抗菌作用や動脈硬化・高血圧予防の効果が期待されます。
ハルジオン
(Philadelphia fleabane)
柔らかい新芽と新葉だけでなく、茎、つぼみも全て食べられる。春菊のような独特の苦味がある上品な味わいの野草。
新鮮なハルジオンの葉は、サラダや炒め物、天ぷらなどに利用できます
最後はやっぱり食べられる話シ🤫