久し振りに一人暮らしの母に電話をかけた。

「元気？」
何気なく聞いたら思いがけず
「お盆明けに倒れちゃた」
という。

今日は休みを利用して訪ねていった。
「何も持ってこなくていいから！」電話でねんを押され、咲き誇る薔薇も持っていかなかった。

家の前で待っていた母の右足首は歪んでいる。明らかに痛そう。
でも病院には行かないという。

ちょくちょく帰れない距離で、会うたびに老いていくのがわかった。

家に入ると
「美味しいの食べよう🤗」
と…お気に入りのシャトレーゼのケーキを振る舞ってくれる。

お寿司を宅配で頼み、二人で堪能。

以前は手料理を振る舞ってくれたがそれも出来ないのだろう…。

お腹いっぱいなのに…「おにぎりの作り方おしえてあげるね。
食べるよね。」
もういらないよ…と思ったけど、何かを感じて断らなかった。

「直接手では触らないよ」といちから教えてもらい、持ち帰ることにした。

足が不自由な為、生協の宅配を始めたという。資料をファイリングしていて、それも紹介してくれた。
表紙を開くと、介護サービスの広告、そして葬儀会社のチラシ…。

にこやかな表情の奥底には近い将来のこと全部考えているんだろうと察した。

足が痛くても病院にいかないし、一人で生き抜くと言う母には、かける言葉はなく…ただおにぎりの作り方を笑顔で聞いて…美味しかったと言うしか出来ない。それが一番喜んでくれるのだろうと思うのだ。

幼い頃から沢山のわがままを言ってきた。
ひまわりのヘアピンが痛くて、可愛いからとつけてもらっても直ぐに取ってしまったこと。

つなぎの服を着させてもらっても、スカートが良いと泣いたこと。

手作りのお誕生日会が気に入らなくて不貞腐れたこと。

たくさんの　ごめんなさい　が
私のパンドラの箱には入っている。

でも開けるまい。

もう時間がないのだ。

ただ穏やかに笑ってよかったねと言える時を刻もう。

生まれたときからときの砂時計は静かに流れ落ちている。
最後のひと粒までその人らしく生きていこう。

薔薇は「薫乃」です。

お付き合いしてくださってありがとうございます🤗