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アガパンサスの咲く庭での一覧
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so.ra
soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その25 最終回 一年後の検査で先生が驚いた声をあげるから、また悪い知らせかと思ってドキドキしてたら、 妊娠してます! これはもう、奇跡です!!って。 そばにいた看護婦さんも、ビックリされて、本当に喜んでくれて、良かったですね!良かったですね!って何度も祝ってくれて。 私抗がん剤の治療や、いろんな治療をした後だから、ちょっと心配だったけど、有貴ちゃんが夢で約束したように私の赤ちゃんになって、もう一度生まれて来てくれたんだって信じて産むことにしたんです。 主人もとっても喜んでくれて。 こんな奇跡があるんだねって。 それで、このところの暑さで、ちょっとつわりがひどくて、少しだけ大事にしましょうかって、入院してたんです。 まぁ、そうだったの。 それは二重におめでとうございましたね。きっと、その有貴さんの生まれ変わりの、可愛いお子さんが産まれるわね。たくさんご苦労なさったから、その分幸せになって下さいね。 老婦人の言葉に頭を下げ、水筒を出して喉を潤していると、遠くから男の子が手を振りながらかけてきた。 お母さ~ん! 目の前に立って息を整えると 握った手を開いて、一枚の四つ葉のクローバーを差し出した。 あ母さん お父さんと行った空き地に たくさんクローバーがあったから、一生懸命探したの。 ほら、すごいでしょ! 四つ葉だよ! お母さんにあげるから! お母さん幸せになるからね。 まぁ有り難う 大切にするわね。 そう言って受けとると、男の子の頭を撫でた。そうして気がついて尋ねた。 あら、カブトムシは? あのね、可愛そうだから近くの木に逃がしてあげたの。きっと、カブトムシもお母さんのところに帰りたいかなって。 そうだったの。 今頃カブトムシも元気になって、きっとお家に帰ってるわね。 男の子の後ろからついてきたお父さんも、ニコニコして老婦人に一礼すると、一恵の荷物を持ち上げ、待たせたね。帰ろうかと声をかけた。 今日初めてお会いしたのに、何だか母がそばにいてくれるような気持ちがして、たくさん話を聞いていただいてしまいました。お陰さまで、とても素敵な時間でした。有り難うございました。 一恵が立ち上がり、そう老婦人に頭を下げると、老婦人の膝に乗っていた猫が膝から飛び降りて、アガパンサスの茂みへと消えていった。 私の方こそ、とても素敵な時間を過ごさせていただいて、有り難うございました。あなたの幸せが本当に嬉しいわ。お体を大切にされてね。元気な赤ちゃんをご出産されますように、祈ってますね。それと、畑仕事も順調にいきますように。 一恵は老婦人と笑いあうと、一礼して歩き出した。 息子を真ん中に、三人が歩く後ろを影法師が並んで楽しそうについていく。 生きるって素敵ね 青空に伸びるアガパンサスの花を見つめながら、老婦人がぽつりと呟いた。 終わり 🌿アガパンサス物語 儚い姿のアガパンサスですが、一年を通して見守るととっても強い花だなと、その姿に心打たれます。大好きなアガパンサスの花に、主人公の姿を重ねて物語を書いてみました。 最後まで読んでいただいて、有り難うございました。
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so.ra
soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その24 ベンチの脇の茂みから 一匹のみけ猫が顔を出すと 老婦人の足元に体を寄せた 老婦人が背中を優しく撫でると 慣れた様子で 老婦人の膝の上に飛び乗り 膝の上で丸くなった まぁ 可愛い猫ちゃん よく慣れてるんですね そうなのよ いつの間にかお友達に してくれたみたい いつも綺麗にしてるから どこかで飼われてるのかも知れないわね 時々顔を見せて 遊びに来てくれるのよ いいですね 私も猫を飼ってみたいなぁ そうね 猫はちょっと気まぐれだけど とっても癒されるわね あなたはその後お病気の方は 回復されたの? ええ 不思議なんですけど。 有貴ちゃんが亡くなって1ヶ月が過ぎた頃、いつもの定期検査のあと、先生の診察があって。癌が小さくなってほとんど見えないくらいですって。劇的に薬が効いたのか、こんなケースは初めてですって、すごく驚いて喜んでくれて。 一度は絶望的って言われたのに、もう嬉しくて泣いちゃいました。そんなわけでまもなく無事に退院できたんです。 それから、有貴ちゃんが残してくれたノートや本にあった事を参考に、野菜や花の栽培や瞑想や呼吸法やお水を変える事とか、少しずつできることを始めてたんです。やってみると、本当にワクワクして楽しいことばかりでした。 自分の育てた野菜を食卓に出すって、お料理にもこんなに愛情を注ぎたくなるんだなって再認識したり。毎日が今までの何倍も楽しくて有りがたくて。有貴ちゃんに貰ったのは、本当に幸せの種だったんだなあって思いました。 そして、諦めないことや、しっかり自分で調べて意思を持つことや、気持ちを表現する事、少しずつ取り入れていこうって。一度死にかけた命だから、これからは自分を大切にして、楽しく生きていきたいなって思うようになったんです。 それに、自分を大切にできないと、周りの人も大切にできないってことにも、改めて気がついたんです。私が毎日を楽しむようになって、家族が前よりもみんな仲良くなって一緒にいるのが楽しくて、何だか幸せが倍になったみたいで。ほんとに嬉しいことばかりなんです。 あの夏から今日で一年。 今日は一年後の定期検診だったんです。そして、また今日嬉しいプレゼントがありました。 続く
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その23 その夜、一恵はいつか夢で有貴ちゃんと過ごした あの不思議なアガバンサスの草原にいた 一面の碧い花の海に 有貴ちゃんと2人 子供に戻って踊っていた 裸足で花の上に立って 浮かぶように跳ぶように ふわふわと舞っていた それは楽しそうに 笑いながら 戯れていた 遊びつかれて一休み 有貴ちゃんが 一恵の顔を覗き込んで言った 楽しいね 最後に一恵さんと 遊びたかったんだ それから伝言 もう大丈夫! 碧の魔法で はじめの一歩 踏み出せるよ そして きっともうすぐ会える 楽しみにね! 誰に? うふふ それはお楽しみ そう言うと 声と一緒に有貴ちゃんが遠ざかり 碧い光が小さくなって シャボン玉のように 有貴ちゃんを包むと 空へと昇っていった 目を開けると 窓から朝の光が 優しくさしこんでいた いつの間にか朝だわ そうね いつまでも悲しんでたらダメね 有貴ちゃんとの約束 始めなくちゃね 一恵は伸びをすると ベットサイドの本に手を伸ばした 続く
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その22 ノートに書かれた手紙を読み終わると、お父さんは申し訳なさそうに言った。 娘のぶしつけな願いで、あなたの気を悪くしないといいんですが。。 いいえ、とっても嬉しくて私、感動してるんです! 一恵は有貴ちゃんのお父さんに、昨日の不思議な夢のことを話して、手に一輪残ったアガパンサスの花を見せた。 そんな不思議なことが。。 驚いたお父さんの目から涙が溢れた。これは失礼しました、慌てて涙をぬぐうと、お父さんは続けた。 妻を亡くしてあのこと2人生きてきました。いつかあのこの子供を胸に抱くことが私のささやかな夢だったんです。 あのこの分も、あなたはきっとお元気になられるよう、私も祈っております。 ここに入ってるのは、あのこが読んでた本です。良かったら読んではくれませんか? お父さんはそう言うと紙袋を差し出した。そこには、有貴ちゃんが読んでいたたくさんの本が入っていた。 涙で濡れた顔を上げると、一恵はお礼を言って本を受け取った。 そして、もしも奇跡が起きて病気が治り、子供を授かることができたら、きっと連絡をしますからと、お父さんと連絡先を交換した。 そんな素敵な言葉をいただけるとは思いませんでした。今日あなたの幸せが私の希望になりました。有り難うございます。 そう言って有貴ちゃんのお父さんは帰っていった。 お父さんが去った病室で、一恵は、有貴ちゃんから貰ったノートに、手に握っていたアガパンサスの花をそっと挟んだ。 有貴ちゃん きっと病気が治るって 信じさせてくれて有り難う。 未来は私達みんなの共同創造なんだよね。だから、素敵な夢が実現できるように頑張るからね。 有貴ちゃんが最後まで挑戦してた未来、夢に見ていた未来、私引き継いでいくね。そして元気になったら、いつか私の赤ちゃんなってまた会いに来てね。 窓から見下ろす中庭には、夕暮れの淡い光のなかで、あの夢の中のように、アガバンサスが青く光って優しく揺れていた。 続く
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その21 大好きな一恵さんへ ノートを読んでくれて有り難う これを読んでくれてると言うことは、私は旅だったのね。 痛みが辛くて痛み止の量が増えてきて、頭がだんだんぼんやりしてくるの。手にも力が入らなくなってきてるの。 だから、意識があるうちに、私が知ったたくさんのことを、一恵さんに役立てて欲しくて、このノートを書いたの。少しずつでもいいから、読んでもらえたら嬉しい。 本には 食事のこと、食品添加物のこと、医療のこと、環境のこと、農業や植物のことなどが、可愛いイラスト入りで詳しく書かれていた。 一恵さん、 本当のことは自分で探すのよ。 なぜなんだろう?本当のことがどうして隠されてる?って調べる程、疑問が湧いてきたのよ。 自分で調べて自分を守らなきゃいけないのよ。良く調べて自分で考えて選ばなくちゃダメなのよ。私達の体はじぶんで治す力を持っていて、植物たちは力を貸してくれているの。それを忘れてしまったのは人間なの。100%収穫がないといけないなんてことはない。7割でちょうど調和してうまく回るのよ。緑と生きること、とっても大切なことを忘れないでね。 一恵さん、奇跡って信じてる? 私、もう一度生まれ変わりたい。神様にもう一度生まれ変われますようにってお祈りしたの。それから、奇跡を起こして、一恵さんの病気も治してって祈ったの。 そしたら、夢の中で一恵さんの赤ちゃんになって、一恵さんの抱かれてる夢を見たの。素敵な夢だった。あなたの赤ちゃんになって生まれてこれたら素敵だなぁ。 私が夢に見た未来。 花や緑と一緒に生きる未来。 一恵さんが叶えてくれたら嬉しいな。一恵さんから始まる幸せが、世界中に広がっていくの。素敵だと思わない? もし、小さな奇跡が起きたら、そしたら、生きる希望をもって病気を越えられる? 一恵さん、私応援してるね。 奇跡を信じてね。 きっときっと幸せになってね! 一恵さん、有り難う。 生まれ変わって会える日を夢見て -有貴より- 続く
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その20 ドアを開けたのは看護婦さんだった。 体調はどう?有貴ちゃんのお父さんが会いたいそうなんだけど、いいかしら? どうぞ、と招き入れると、有貴ちゃんに面影が似ている小柄な男性が入ってきた。 はじめまして。 有貴の父親です。 娘が世話になってたと、娘からいつも聞いておりました。あなたのおかけで、娘もどれほど勇気づけられたか。大変遅れましたが、今日は一言お礼を言いたくてうかがいました。 はじめまして。 お目にかかれて嬉しいです。 私のほうこそ、有貴ちゃんにとってもお世話になったんです。私のほうこそ、千倍もお礼をしなくちゃいけないほどなんです。 一恵は有貴ちゃんと知り合ったエピソードを話して、お父さんにお礼をいった。 そうだったんですか。 あなたもとっても辛い思いをなさって来られたんですね。そして、ご無事で生きてこられて本当に良かった。 実は、昨夜、娘が、有貴が亡くなったんです。最後はにっこりと微笑んで穏やかな顔でした。声になりませんでしたが、父さん有り難うと言ってくれまして。あのこは、最後まで見事に生きてくれました。 そして、少しの間固く口を結び顔を伏せていたが、言葉を続けた。 闘病中のあなたに、娘の死を知らせるべきか悩みましたが。。娘の荷物を整理していて、あなたに宛てたノートを見つけまして、できたら受け取っていただきたいと。 有貴ちゃんのお父さんは声を震わせながらそう話すと、大切そうに手にしていた紙袋を開いて、一恵にノートを差し出した。 これは? あのこがあなた宛てに書いたノートです。良かったら読んでやってください。 今、読んでも良いですか? お父さんがコクリと頷き、一恵はノートを開いた。 続く
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その19 あのね 一恵さん 私好きな人はいたけど 本当の恋をしたことがないの それが、この世界でやり残したこと とっても残念で。 唯一無二の愛する人と出会って 2人で理想の世界を築けたら 素敵なのにって いつも夢に描いてたから。 なのに 病院に入ってしまって、友達までいなくなっちゃったの。神様はみんな私から取り上げちゃうって、真っ暗闇に一人でポツンと取り残されたみたいで。 病気も辛かったけど、ほんとは孤独がとっても辛かったの。 夜になるとこっそり泣いてたのよ。 でも、一恵さんと出会えた。 泣いたり笑ったり。 私、人生でこんなに自分の気持ちを素直に話せた人いなかったし、心から安心してつき合える友達もいなかった事に気づいたの。病気のご利益ね。 神様は何にもくれないって怒ってたけど、最後の最後にとっても素敵な贈り物を貰ってたんだって気づいたの。神様に謝らなくちゃね。 一恵さんにとっては、同じように病気で苦しんで、いのちの瀬戸際で戦ってた知り合いくらいかも知れないけど。 私、一恵さんの存在に たくさん支えられて、頑張って生きてこれた。 孤独に潰されないで乗り越えてこれた。 だから、どうしてもお礼が言いたくて。 有り難う 本当に有り難う そう言って有貴ちゃんは ポロポロと涙を落とした ほほを伝って落ちる涙は 丸いつゆの雫のように キラキラと光っていた。 有り難う有貴ちゃん。 それを言うのは私のほうだわ。 有貴ちゃんがいなかったら、あの時ダイブしていっかんの終わりだったと思うし。 入院してるのに、脱走したり、お菓子を食べたり、大人になってからこんなに冒険したこともなかったわよ。 病気の辛さを忘れさせて貰った。本当に楽しかったね。 死ぬかもしれないって深刻にならないで、こうして乗り越えてこれたのも、有貴ちゃんのおかげよ。 私は有貴ちゃんよりもっと人生を生きたけど、こんなに心の深いところまで話してつき合えた友達ははじめてだったの。 有貴ちゃんが良かったら、ずっと友達でいられたらって思ってるの。私のほうこそ有り難うね。 有貴ちゃんは涙をぬぐうと、照れ臭そうに笑った。 何だかプロポーズの気持ちって、こんなかなって。 ほんとだぁ、そうかも。 2人はいつものように笑いあった。 しばらく笑った後、有貴ちゃんは、一輪の花を差し出した。 これはお礼の気持ち そして私の祈り 受け取って そして 元気になって 私の分も生きてね うわぁ綺麗ね 有り難う 差し出されたプルーのアガパンサスを受け取ると、有貴ちゃんが嬉しそうにコクリと頷いた。 有貴ちゃんの姿がかすんでいくと、手の中で花がぽおっと青白く輝きだした。 これで大丈夫 きっとまたすぐに会えるわ ありがとう 有貴ちゃんの声がこだまのように遠退くと、アガパンサスから舞い上がった青い光が一恵を包んだ。暖かくて柔らかな渦のような光のなかを通って、目を開くと、そこはいつもの病室のベットの上だった。 不思議な夢。 気がつくと一恵の手に 一輪の花びらが残っていた。 あの花だわ 夢じゃなかったのかも その時、一恵の病室のドアを ノックする音がした 続く 🌿 光の粒の中に、一粒一粒観音様が座っているようで、私の大好きな写真です🍀
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その18 その夜一恵は不思議な夢を見た。 そこには一面の アガパンサスが咲いていた 碧い空のように輝いて 碧い海のように優しくさざめいて 銀色の月の光に照らされて それは幻想的で不思議な光景だった。 まるで天国みたい その美しさに見とれていると 花の海の向こうから こちらにかけてくる人がいる 蝶の羽のように 真っ白なドレスが風に舞い上がる 長い髪が虹色の光にたなびいて なんて神々しいんだろう そう思って見とれていると 一恵さ~ん 女性が手を振りながら叫んだ えっ有貴ちゃん? そう それは見たことがないほど 晴れやかで透き通った笑顔の有貴ちゃんだった。 良かったぁ 来てくれたのね 最後にどうしても会いたくて 続く
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その16 有貴ちゃんは振り向くと、両手を広げて一恵をハグして迎え入れた。 来てくれて有り難う!どうしても会いたくて、看護婦さんに無理を言って伝言を頼んだの。 そういうと、有貴ちゃんはナースコールを持ち上げて,クスクス笑った。 やだ、私を呼ぶためにナースコールで看護婦さんを呼んだの。 そうよ、今日は一恵さんに会いたい緊急事態だったから。 有貴ちゃんは楽しそうに笑うと、一恵さんにプレゼントしたいものがあってと、本を取り出すと一恵に渡した。 まぁ、素敵 アナスタシア物語~響きわたるシベリア杉~ なんだかワクワクするわ。 絵本なの? ううん、とっても信じられないファンタジーのような話なんだけど、現実にあった話らしいの。 いつか父さんの病気を治したくて食べ物とか勉強してるって言ったわね。いろいろ調べていくうちに、食品にも飲み水にもお菓子にも、そして野菜までたくさんの身体に毒になるものが入っていて、それはもう信じられないくらいだったの。本当によく生きてるなって思うほどよ。私達が治療した抗がん剤もワクチンもかえっていのちを縮めるようなものだったの。だけど、じゃあどうしたらいいの?そう思って調べれば調べるほど、出口のない迷路に迷いこんで、本当になんでこんな事を知らずに食べていたのかって悔しくて。でも、癌になって入院しててもう手遅れ、解決策もなくてどうしたらいいのって、とっても辛かったわ。 でもね、この本に出会って救われたの。 いつか話した奇跡のリンゴを育てた木村さんの話、覚えてる?この本は、木村さんと同じことを言ってるんだなって感じたのよ。真実は一つなんだって。 有貴ちゃんは、ほんのり頬を上気させて、目をキラキラ輝かせて話すのだった。 凄いわね。この本にとっても素敵なことが書いてあるのね。 そうよ。ほんとにこの本にもっと早く出会ってたらって。 ここに書いてあるのよ。 有貴ちゃんは本を開くと指さした。 「あなたと庭の植物との間にゆるぎない関係が確立されたら、植物たちがあなたの病を治し、面倒をみてくれる。彼らはあなたの健康状態について的確な診断をし、最も効果的な、あなた専用の特別な薬をつくってくれる」 ちゃんと自分で愛をもって育てた植物は、その人の健康状態を知って、特別な成分を作ってくれるのよ。凄いでしょ! そして、種のまき方から苗木の植え方まで具体的に書いてあるの。ほんとにびっくりすることばかりなの。 続く
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so.ra
soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その15 一恵はこのところ不思議と体調が落ち着いて、時々窓から外を眺めたり、病院の庭まで散歩することもあった。 夕暮れの空が茜色から、柔らかな水色に変わる時間帯、白いアガパンサスが光を放つように浮かび上がる。晴れた日は、そんな風景を眺める時間が小さな楽しみだった。 いつものように窓からの風景を眺めていると、看護婦さんが声をかけてきた。 有貴ちゃんが一恵さんに会いたがってるの。もし、大丈夫だったら、ちょっと顔を出してあげると喜ぶと思うわ。 ほんとに? 今日はちょっと落ち着いているようなの。ただし、あまり長居はダメよ。 一恵が急いで有貴ちゃんの部屋へ行くと、有貴ちゃんは珍しくベットから起き上がり窓の外の風景を眺めていた。 こんにちは、私もさっきまで眺めてたの。今日は空がとってもきれいね。 続く
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その14 人生のどん底にいるときって、辛くて苦しいことが重なるものですね。 あの子、学校でいじめられてたんです。私はいつも忙しくてバタバタしていたから、毎日顔を会わせながら、あの子の顔をしっかり見たり、ゆっくり話を聞いてあげる事もなくて。 夏休みが終わった頃から、朝になると学校に行かないと登校をしぶりはじめて、休みグセがついたからだろうなんて思い込んで、ぐすぐすしないで早くしたくしなさいって、怒って送り出してたんです。 そんなことが1ヶ月くらい続いたある日、学校から子供が怪我をしたから来てくださいって連絡があって。慌てて学校に行ったら、友達に突き飛ばされて滑り台から落ちたって。子供は虫歯一本なかったんですが、前歯を折ってしまいました。 幸い頭の打撲の怪我は軽くすんだんですが、その時やっと子供から話を聞いて、ずっといじめを受けてたってわかったんです。 始まりは、ボス的な体格のいい子に逆らったことからみたいなんですが、そのうちみんなからのいじめの対象になって、何人もから馬乗りされて頭や背中に砂を入れられたり、突き飛ばされてランドセルごと引きずられたり、通せんぼされたり、足をかけられたり、仲間はずれにされたり。。話を聞いていて、本当にずっと辛かったろうって、涙が止まりませんでした。それなのに私ったら、気づいてあげる事もできずにいて、叱ってばかりだったんです。自分が情けなくて、子供に申し訳なくて、子供を抱き締めて泣きました。 その夜、学校からの連絡で、怪我をさせた子の親が謝罪の電話をくれたんです。 でも、お詫びと言うより、子供の遊びですからお互い様ですよねえ、なんて言われて。もう気持ちのやり場がなくて。翌日、主人と学校に行って担任の先生に、今までのいきさつを話し、2度とこんなことがないように対応して下さいってお願いしたんです。先生は調べますって言われたけど、その後返事はないままで、いじめた子たちからも、その親からも、その後一言もなかったんです。もしかしたら首の骨だって折ったかもしれないって、これからの事もあるし、しっかり抗議しようって言ってたんですが、 『かあさん、ぼくもういいよ。 ぼくばもっと強くなるから大丈夫たよ』ってあの子が言うんです。 ちょうどその時は、私が今回の入院をする直前だったんです。 私が体調が悪いのを気づかってそんな言葉を。私は自分の事ばかりだったのに、子供の方が辛いだろうに。 子供ですから守らなくちゃいけないし、無理して我慢させてはいけないと思いましたが、夫が、僕が責任をもって見守る、僕に任せろって、言ってくれたので、私は後ろ髪を引かれながらも、主人に任せて入院したんです。 入院しても心配してました。 いつも大切な時には逃げずに立ち向かいなさいなんて教えてたのに、結局子供を守ってあげる事も、一緒に戦ってあげる事もできなくて、自分が病気でなかったらって悔しくて、入院してからも泣いてたんです。 息子は主人と話し合って、強くなりたいって空手を習い始めたそうなんです。お見舞いにくるたびに、だんだん明るく積極的になって、そのうち学校でいじめる子もいなくなったそうなんです。道場で仲良しの友だちもできて、今は、あんなに元気です。 これまでの間、まだ小さいですから、どんなにか辛かったろうにって思います。私の入院もあって、寂しかったろうって思いますし。 彼なりに辛い時間を乗り越えて、あまえんぼでわがままだったのに、とっても成長したなって思います。そう言って女性は、涙をぬぐい小さく微笑んだ。 そう、大変だったのね。 たくさんの試練が重なったのに、あなたも、息子さんも、ご主人も、とても頑張って、家族みんなで乗り越えられたんですね。 息子さん、元気になられてほんとに良かったわね。 一つ一つの言葉を想いを込めるように口にすると、老婦人は優しく頷いた。その眼には涙が宿っていた。 🌿続く
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その13 2人が座るベンチの上で、 ヒグラシが鳴き始めた。 額にかいた汗をぬぐいながら、もうすぐ夏が終わりなんですね。と女性が口を開いた。 あの蝉の声、子供の頃は 惜しいツクツク 惜しいツクツク もういいかい もういいかい って聞こえてたんですよ。 そう言って、女性は笑いながら話を続けた。 まだ、全然夏休みの宿題が終わってなくて、蝉の声にせかされて、べそをかきながら日記をまとめたりして。。 そして、しばらく枝を見上げると話を続けた。 不思議ですね。 あの頃の麦畑の風景や、夏草の匂い、トマトの青い匂いまで、今もとてもリアルに思い出せるなんて。。 そうねと、 老婦人が頷いた。 私も、ふと思い出すことがあるわ。 もうずいぶん昔になるけど、私にも息子がいて、夏休みはずいぶんと山へ虫取りに行くって付き合わされたわ。 思い出の中の自分は年を取らずに、ずっと同じ時間を生きてるのよね。 さっきの可愛い息子さんは、おいくつなの? 小学2年生なんです。 元気な子だったんですが、一年の夏ごろから、忘れ物が多くなったり、学校に行かないってぐずったりして、私怒ってばかりで、あれこれ口うるさくしたものだから、ますます言うことをきかなくなってしまって、主人にもあたったりしてしまってたんです。 でも、本当はあの子の気持ちをわかってなかったのは、私だったんです。 言葉を詰まらせてうつむいた女性の頬を、涙が一筋流れ落ちた。そんな女性を優しく見守る老婦人の前を、木漏れ日に羽を光らせながら、白い蝶が飛んでいった。 続く
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その12 ねぇ、一恵さん 父さんはまた仕事に行けるようになって、一安心したんだけど、私もう、限界みたいなんだ。 先生が脳に転移してるから、痛みが酷いときは痛みを楽にできるから言ってねって。 でも、それは命を縮める治療なの。 強力な麻薬を使って痛みを止めるの。 何よりも頭がポーッとしちゃって何も出来なくなっちゃうから。頭痛は言葉にならないくらい本当に辛いの。だけど、私はギリギリまで自分を生きたいから、出来るだけ麻酔は打たないの。 あぁ、一恵さん悔しいよ。 やっぱり私悔しいよ。 そう言って、いつも凛としてる有貴ちゃんが泣いた。 一恵も有貴ちゃんと抱き合って2人して泣いた。 窓の下では満開のアガパンサスの花が、ゆらゆらと風に揺れながら咲いていた。 続く
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その11 父さんのために料理の事を調べ始めたら、いろんな事がたくさんわかったの。。 ねぇ、一恵さん 本物の野菜は腐らないって知ってた?お米も野菜も、農薬も肥料も使わない元気な土で育てたら、水がなくなってしわしわに枯れても腐らないんだよ。 お米もそうなんだって。 私それを知ってビックリした。 そんな大切なこと、どうして誰も教えてくれないんだろうね。 奇跡のリンゴの映画をネットで見たの。それから木村秋則さんの講演もYouTubeで聞いたの。 どんな草にも役目があるって、木村さんは言うの。どんないのちも丸のまま肯定してて、私は病気の自分もみんな包み込まれて、そのままでいいよって優しく抱き締められた気がして、涙か止まらなかった。 花や葉っぱに虫がつくのは土が汚染されてるからなんだよ。元気な土になると虫もつかなくなるんだって。だから、農薬も要らなくなるって。 だけどね。一度肥料を施された土が戻るのに3年、農薬が施された土が戻るのに7年~10年もかかるんだって。だから、みんな途中で諦めちゃうって。 お塩もね、今作られてる塩は、薬品のように作られる塩なの。ほんとのお塩はマグネシウムとか、ミネラルがたくさん入ってるんだよ。 父さん、血圧が高くて調べたの。化学薬品みたいな塩を食べるから血圧が上がるけど、天日干しのミネラルがたくさんある塩を食べたら、全然大丈夫なの。 これはね、そう言って指差したのは、お日様に干したベットボトルだった、STAP細胞で身体が活性化して若返る、玄米乳酸菌のレシピなんだよ。水と玄米と塩と黒砂糖だけでできるんだよ。すごいよね。作ってみたかったなぁ。 これはね、葉っぱ療法 葉っぱを貼るだけなんだって、怪しいけど効くみたいだよ。自然って、底無しに神秘的だよね。 そう言いながら、有貴ちゃんは ノートをめくって楽しそうに笑いながら、これまでの成果を話すのだった。 一恵さん、私が毎日食べてた物は、命の脱け殻の、毒で一杯の形だけの食べ物だったの。 だから、身体に苦しめて悪かったなぁって。。私ね、わかったことを本を書いてみんなに教えてあげたいなって。そしてね、広い土地を買ってみんなと畑や田んぼを作りたいって思うの。大好きな果物もたくさん育てたい。庭には鶏を放し飼いにして、近くの小川には、ドジョウや魚がたくさんすめるようにして。たくさんの人と繋がって、命の村を作りたいんだ。 病気になってる場合じゃないよね。時間が足りなくて、悔しいよ。 有貴ちゃんは、キラキラ目を輝かせながら、そんな話をしてくれた。 つづく 🌿玄米乳酸菌や葉っぱ療法は、ネットで調べるとやり方がわかります。良かったら試してみて下さいね。無農薬といわれる野菜とそうでない野菜を並べて、腐る早さを比べてみました。無農薬と表示されてる野菜なのに、早く腐ってしまうものもあって、肥料などの違いかなって思ったりしました。この事を知って、自分で確かめてみて、本物の野菜がわかるんだなって思うようになりました。 それから、実は、私は一昨日、怪我をしてしまったんです。室内で虫を見つけて捕まえようと椅子に登ったら、足を滑らせて落ちた弾みに机の角に肋骨を強打してしまい、痛みがお腹まで走り息ができなくなって、あぁ肋骨折れちゃったかなって。以前、ニ回右の肋骨を折ってるから同じだなって。 湿布をして、庭で育ててる琵琶の葉を患部に当てて安静にしてました。 そう、チャンスなんで葉っぱ療法を試したんです。今日で三日めになるけど、だいぶ痛みも引いて、ほんとに楽になりました。以前の時と比べて三倍くらいの回復力。私が育てた琵琶の木だからかな?自然のちからってほんとに神秘的って思いました💖
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その10 父さんが倒れたって聞いて、私父さんと2人きりなんだって、今更ながら気づいたの。 どうしよう、もし、父さんがいなくなっちゃったらって怖くって。 何て言ったらいいか、深い絶望の暗闇を見たような気持ち。 看護婦さんの許可をもらって、ちょっとだけならって、父さんの病室に行ったの。 父さん、やつれて真っ白な顔をして寝ていたの。その顔を見ていたら、涙がポロポロ溢れてきて、父さんごめんねって、父さんたくさん有り難うねって。 私、その時初めて、父さんがどんな気持ちで私のベットに毎日足を運んでくれたか、ちょっとだけ気がつくことができたのよ。 私の命が永くないことを知ってて、一人残される気持ちとか、 きっと悲しくて泣きたい時もあったのに、誰にも愚痴をこぼさないで、ずっと私に笑顔を向けてくれてた父さん。 毎日、早く仕事を終わらせて、私の病室に来てくれて、遅くまで付き添ってくれて、洗濯物とかいろんな事もしてくれて。 持ち帰った仕事を、きっとその後したりもしたんだと思う。 私の治療費もきっとたくさんかかって、お金の心配もあったと思うし。 考えたらきりがないよね。 たった2人きりの家族なのに、父さんの体の心配もしてあげられなくて、私自分事ばかりだったってほんとに情けなくて、涙が止まらなかった。 父さんね。少ししたら目を覚まして、泣いてる私を見つけて頭を撫でてくれて、 大丈夫だよ。心配かけたねって。 私、ホッとして、父さんに抱きついて死なないでねって。 2人で泣いたの。はじめてみる父さんの涙だった。 有貴ちゃんの頬を涙がスーと一筋流れた。 一恵さん、私ね、その時に決めたの。元気になったら、父さんに美味しいご飯を作ってあげよう、父さんが元気で長生きできるよう、いろんな事も調べようって決心したの。 私、もうすぐ死んじゃうから、どうせ何をしたって意味ないと思ってたの。でも、そんなこと関係ないって気がついたの。 私がいなくなった後も、父さんが元気で過ごせるように、簡単にできて栄養のあるご飯のレシピを作ろうと思ったの。もし死んだら、もう一度生まれ変わって、父さんに美味しいご飯を作ってあげられるように、きっと生まれ変わって来るって決めたの。終わりなんかないって思ったの。 父さんをたくさん幸せにしてあげたいって思ったら、あと少ししか時間ないのに、ほんとに、毎日もったいなかったなって思ったのよ。 ほら、これがそのレシピ。 有貴ちゃんは、ちょっとはにかみながら、ノートを見せてくれた。 そこには、かわいいイラスト入りの料理と、作り方と、お父さんへのメッセージが添えられてた。 うわー。すごいね! 可愛くて、わかりやすくて、 それにこのお父さんへのメッセージ、愛がこもっててホロリってくるわ。 一恵が感動してページをめくるのを、有貴ちゃんは嬉しそうに眺めていた。 ねっ!ナイスアイデアでしょう!父さんね、毎日楽しみに持って帰って、感想を教えてくれるのよ。 体は痛くて辛いけど、入院して初めての幸せな時間。一恵さん、誰かのためになにかできるって、ほんとに素敵ね。 そう、自分のいのちの役目はいつでも見つけられて、終わりなんかないんだって。そして、父さんに毎日レシピを書いてるうちに自分が死んでしまう恐怖も薄らいできたの。何だか、そのさきも続きがあるような気がして。 ねぇ、一恵さん、生まれ変わりって信じる?生まれ変わって続きを生きるってできると思う? 私夢を見たの。生まれ変わって続きを生きてる自分。たくさんの人に囲まれて、良かったね、有り難うねって、喜びあってる私の夢。可笑しいわね。 有貴ちゃんは笑って続けた。 私ね、決めたの。そのさきを生きるために今できることを最後までやり抜こうって。 それからね。。 そういうと、有貴ちゃんはもう一冊のノートを取り出した。 続く
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その9 私ね、放射線治療の後遺症で身体がとても辛くって、仕事が終わっていつものようにお見舞いに来てくれるお父さんに 「もうこんなに辛いんだったら、いっそ死にたい!」「どうせ私なんか死んじゃうんだ!」ってただをこねるように感情をぶつけてたの。 そんな時父さんは困ったように微笑んで、 「大丈夫だよ。父さんがついてるからね」って優しく手を握ってくれてたの。 私が落ち着くと、父さんはコンビニで買ってきた冷えたお弁当を、私のベットサイドで食べて、そして私の身体をさすってくれたの。 父さんに身体をさすって貰うと、苦しさや痛みが薄れて少しうとうとできるのよ。そうして、私が眠りにつくと、父さんはそっと帰っていくの。 そんな毎日の繰り返しだった。 父さんの帰る時間は病院の消灯時間ギリギリなんだけど、看護婦さんも大目に見てくれて。父さんが家に着くのは、きっと夜中だったと思う。 そんな毎日が続いたある日、父さんが倒れてしまったの。 続く
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その8 有貴ちゃんは続けた。 私ね、勉強なんか嫌いだったから、適当に行ける高校に行って、何となく働ける会社に就職できればいいやって思ってたの。 でも、高一の検診で心臓の異常が見つかって手術することになったの。心臓に小さな穴が空いてるから、そこを閉じる手術。そんなに難しい手術じゃないから、すぐに戻れるだろうって先生が言ってたから、軽い気持ちで入院したんだけどね。 有貴ちゃんは、ちょっと言葉を切って窓の外を眺めて、ふっとため息のように息を吐いた。 そうなのよね。あの時が始まり。手術は成功したの。でも、手術のためにした検査で、頬の辺りや舌に癌があることがわかって、心臓の回復をまって、今度は抗がん剤や放射せんの治療をすることになって。 知ってる?頬のあたり放射線治療をすると、唾液が出なくなちゃうのよ。食事をするのも、人と話すのも辛くて大変で。その頃は、友達もよくお見舞いに来てくれたけど、私が辛そうにしてて、あんまり話さないもんだから、だんだんみんな来なくなっちゃった。 唾なんて、そんなに意識してないでしょう?よだれでてる~!なんて、ふざけてたのにね。 深刻な話なのに、クスクスと笑いながら話していた有貴ちゃんが、急に真顔になってじっと一恵の顔を見つめた。 ねぇ、一恵さん。私辛い治療だったけど、すごく頑張ったのよ。それでね、治ったらあれを食べようとか、これを食べようとか、それがすごく楽しみにして。でも、治療が終わっても唾は戻らなかったの。何を食べてもぼそぼそなのよ。その時思ったの。毎日食べる食事をもっと楽しんでおけばよかったなって。 明日も普通に食べられるし、ダイエットとか、めんどくさいとかって、いい加減な食事してて。何てもったいないことしてたのかなって、食べられなくなって初めて気がついたの。 そして、私、自分のことで精一杯で、もっと大事なことに気がついてなかったの。 🌿
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その7 足元に咲いてる蕾のアガパンサスに目を落とすと、少しの間何かを考えるようにしていた女性を、老婦人は優しく見守っていた。 蕾って良いですね。可愛くて、とってもパワフルで、そして咲いたらどんなに素敵だろうって希望がいっぱいつまってて。もう、命が限られてるっていうのに、夕貴ちゃんはこの蕾みたいに、いつもみずみずしくてキラキラ輝いてました。 老婦人は、アガパンサスの蕾ににそっと触れて言った。 そうね、私も蕾が大好きだわ。この花の頭巾を被ったような蕾をみるとワクワクするわ。その子はとっても素敵な方だったのね。 女性はコクりと頷くと、話を続けた。 初めて夕貴ちゃんの部屋にお邪魔したときに、窓辺に並んだ沢山の本に圧倒されたんです。そして、夕貴ちゃんはパソコンを打ちながら、本を広げて何か一生懸命勉強している風でした。 私が、邪魔しちゃたかなって帰ろうとしていたとき、顔をあげた夕貴ちゃんが私を見つけて嬉しそうに声をかけてくれて。 うわ~!一恵さん! 来てくれたの?嬉しい。 入って!入ってきて! って、それは嬉しそうに迎えてくれて、それから、体調の良い日は夕貴ちゃんの病室にいって、いろんな話をするようになりました。夕貴ちゃんは、私よりもっと辛い経験をして体もしんどいはずなのに、いつも明るくて前向きでした。 すごい本ね。 学校か何かの勉強? ううん、違うの。 私、末期だからね。もう学校に行けないし、残ってる時間を無駄にしたくないの。これは、私の未来への一歩なのよ。 きっと私、相当きゃとんとした顔をしたのね。夕貴ちゃんが声をあげて笑いながらこう言ったの。 末期の人が、未来への一歩って何?って思ったでしょう?そして、どんなリアクションしていいかわからなくて、その変顔。 そして、クックックと笑われて、私が慌てて自分の顔をさすったら、夕貴ちゃんはますます笑い転げて。。。しばらく笑ってから、真顔に戻って私の顔を覗き込むと、まだ笑いが残った顔で続けたの。 私ね。病気をする前は、ご飯はコンビニや菓子パンとか、ファーストフードばかりだったの。お母さんは赤ちゃんの頃になくなって、お父さんが育ててくれたの。時々2人で外で食事をすることもあったけど、お父さんの帰りは遅くていつも一人のご飯。慣れちゃってたから寂しくなかったし、自分のために料理するなら、買ったもので済ませた方が便利だし合理的って考えてたの。 🌿 艶々の帯のような美しい葉っぱと、ちょこんと顔を出した瑞々しい蕾のアガパンサス。過去picからですが、この時期のアガパンサスは、花の季節の始まり知らせる希望に満ちていて、大好きな風景です。
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その6 その時はわからなかったんです。死産って診断すると、病院は保健所に届けなくてはいけないってことがわかり、責任を取らなくても良いように死産と書くのを断わられたのかもって。 そして、職場は死産なら産休になるけど、流産だとそうはいかないって、申し訳なさそうに上司に言われて。私は療休も年休も使い果たして、体も回復しないまま仕事に戻ることになったんです。 痛みが続いていて痛み止を飲みながら、仕事に家事育児と本当に辛い毎日でした。 さらに念のために受けた検査で今度は癌が見つかって、手術をすることになりました。一方で、診断がついた事やこれでやっと原因不明の痛みから解放されるって、ほっとしてもいました。 でも、厄年ってあるんでしょうか?これでもかってくらいに、次々に新しい困難がやってきて。手術のためにお腹を開けてみたら、癌がお腹のあちこちに転移していて、取りあえず大きな癌だけを取って、快復を待って抗がん剤の治療をすることになったんです。 抗がん剤の治療は辛くて、治るかどうかもかけのようなものと言われて。なんで自分ばかりこんなに不幸が続くのって、すっかり落ち込んで笑顔もなくなっていきました。ほんとに、ドラマの主人公の様な、明るくて強くってわけにはいきませんね。 心のなかで真っ黒な雲が払っても払ってもわいてくるんです。はじめは、毎日夫や子供が来てくれたんですが、その頃の私は愚痴ばかりでしたから、そのうちに子供はあまりの顔を出さなくなり、夫も用をすませるとそそくさと帰るようになりました。辛かったんでしょうね。職場の同僚の見舞いも途絶えていきました。 ある日「2種類の抗がん剤を試したのに、癌が広がってます。違う治療を試しますか?」って医者に告げられて、私はもうこんな命って、自暴自棄になって、気がついたら屋上にいました。そこから下を見下ろして、落ちたら痛いのかな?そんなことを考えていました。 「いらないなら、その体頂戴よ。心臓も肝臓も腎臓も、みんな頂戴よ!」 そんな声がして驚いて振り向くと、学生さんのような若い女性がこちらを睨んでいました。 「飛び降りはダメ!臓器が痛むから。他の方法にして!」 そう言うと、その女性は隣まで歩いてきて、胸元を開けて私に見せました。 「ほらこれが私の勲章」 胸には生々しい無数の傷跡がありました。 「心臓も悪いし、癌もできたし、ずっと戦い続けてきたの。でも、もう打つ手がないんだって。だけど、私は最後まで諦めない。やりたいことがありまくりよ!いらないなら、その命私に頂戴よ!」 怒ってるような厳しい表情で、まっすぐ見つめられて、私はその場にヘタヘタと座り込んでいました。それはまるで空気の抜けた風船のようでした。 「情けないなぁ、さっきまでさっそうと飛び降りようとしてたくせに。」 その女性は笑いながら腕を取ると、ベンチまでひっばっていきました。 ベンチに座ると、さっきまでの厳しい口調とは変わって、人懐こい笑顔を見せて言いました。 「私は夕貴。5階の端っこの病室の住人よ。あなたは?」 その笑顔につられるように 「私は一恵」って名前を名乗っていました。 同じ階にいながら一度も顔を見たことがなく、不思議に思って尋ねると、絶対安静で部屋から出てはいけないと言われてるけど、点滴を抜いて、時々こうして屋上まで脱走してくるんだと言いました。 「一度ね、大きな箱のついた点滴引きずって、パシャまのままタクシーに乗って、コンビニまで脱走したこともあるの。いつものコンビニが百倍楽しかったし、大好きなシュークリームが美味しかったなぁ。帰ったら大騒ぎになってて、叱られちゃったけど、タクシーに乗ったことは内緒にしたの」 唇に手を当てる素振りをして、屈託なく笑う夕貴の顔は、重症患者とは思えない晴れやかな笑顔だった。 「あんた、そんなに暗い顔してて嫌にならない?美人なのに台無しね。お見舞いの人なんて、みんなはじめは同情したようなことを言ってくれるけど、そのうちうんざりした顔をしだすんだよ。あとは本人よりも落ち込んだ顔したりさ。結局、みんな自分の気持ちで精一杯だって気づいてさ、そしたらスッゴい孤独に押し潰されそうになったよ。改めて一人なんだって」 そう言うと、夕貴はパシャマのポケットからシュークリームを取り出して、半分を差し出した。 「こっそり一人で食べようと思ったんだけど、半分食べる?」 すっかり食欲がなくなっていた一恵だったが、手を伸ばして受けとると、口に頬張ってみた。 それは、舌の上にトロリと溶けてくる幸せな感触だった。 「不思議、初めて食べるみたいに何だか感動!」 「でしょう?やめられないのよこの快感。」 初めてあった人と、こんなに笑いながら打ち解けて話すことなかったなぁ、ましてやさっきまでの思い詰めた気持ちがどこかにいってしまったことに気づき、一恵は自分よりもはるかに年の若い夕貴の顔をしみじみ見つめた。 「やだ。なんかついてる?」 笑いながら唇のまわりをパシャマのそででふく夕貴に、2人で声を出して笑った。 その時、慌てたようすの看護婦さんが屋上のドアを開けてかけてきた。 「良かったぁ!見つけた、夕貴ちゃん。こら!脱走して!心配しちゃったよ。」 そう言うと夕貴を抱き締めたのだった。その目には光るものがあった。 「やれやれ、見つかっちゃったか。おやつタイムしてたのに、残念。さて、戻るか。 じゃあね!一恵さん、遊びに来てね!」 そう言って、手を振ると看護婦さんに伴われて歩く夕貴の足元は、心なしかふらついて見えた。 その日、夕貴ちゃんに会ったことが、私の転機だったの。全部ここに繋がってたのかって思うくらい、人生が変わったわ。 🌿
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その5 次の日に夫の付き添いで受診することになりました。職場に連絡したら、上司からは4ヶ月を過ぎてるから、死産証明を貰って来るようにとも言われました。 もう一度診察すると、医者は、驚いたことに、ずっと前に死んでたのでこれは死産ではなくて、流産ですって言ったんです。 「ずっと通ってたのに、ずっと前から死んでるって、流産ってどう言うことですか」って尋ねる私に、医者は「前から死んでるものは流産なんです。腑に落ちなくて、うちで処置するのが嫌なら他に行ってください」って。付き添ってくれた夫は、援護してくれるでもなく、今日処置してくださいと。そして、子供の世話があるから終わったら迎えに来ると、帰っていきました。 私は処置のあと、止血確認のため午後の診療まで3時間外来の椅子に座って待たされました。ボロボロの体と心に冬の待合室の固くて冷たい椅子が、凍えるほど冷たく感じました。熱も出していたのに、誰もいない待合室で時を過ごし、最後までとても冷たい病院だと思いました。 地域では評判の病院で、いつも混んでたから時々薬の間違い等も起きてたんですが、その時医者の言うままに信じていた自分を後悔しました。そして、もう、お腹にいない赤ちゃんにごめんねってずっと謝ってました。家に帰って眠ろう、眠ろう、ってそればかりを考えて心を支えている感じでした。 その時の私は、誰かに大丈夫って抱き締めて貰いたかったなぁって思うんですよ。そして、思いきって泣きたかったなぁって。あの頃にワープできたら、私を抱き締めてあげるのにね。 女性は婦人にウインクして、水筒の水で喉を潤した。 🌿
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その3 私ね、ずっと辛いことや苦しいことがありませんように。どうぞ毎日が穏やかでありますように、って神様に祈っていたの。辛いことや苦しいことがあったら、心は暗い泥沼のようになってしまって、弱虫の私はその後の人生はどれだけ悲惨だろうって。 それなのに、私ね、どん底を過ごしてきたけど、なんだか今はとっても心が軽くてマラソンを走り終わったときのような気持ち。とっても長い旅をしてきたみたいな不思議な気持ちなんです。 しばらく木漏れ日から降り注ぐ光を眺めて時が過ぎ、女性が笑顔で老婦人に話し始めた。 私が初めて入院したのは2年前の夏、ほんとに嵐のような日々の始まりでした。 その朝、子供を幼稚園に送って帰り道、路地から出てきた車にはねられたんです。自動車はそのまま走り去って、自転車ごと飛ばされて意識を失っていた私を、通りかかりの人が助けてくれて病院に運ばれたんです。 骨折はなかったけど血尿が出ていて、お腹を強く打ったからか腸が動かなくなって、見る間にお腹がパンパンに膨らんでいきました。実は、その時子供をお腹に宿していて、四ヶ月だったんですが、そんな状態でも子供の心臓は動いていて、妊娠中だからって思いきった治療はできなかったんです。 それでも、どんどん具合が悪くなって、このままでは命が危ないって言われて、主治医の先生から「まずは母体の命です。子供を諦めてください」って説明があって、やむなく同意したんです。モルヒネを投与して手術を前提に高圧浣腸をかけて。。そんな処置をしていたらお腹が動き出したしたんです。不思議と血尿も止まって、手術は中止になりました。そして、お腹の赤ちゃんも無事でした。私は痛みが引いてやっと体が楽になって、お腹の赤ちゃんも生きている、神様ありがとうって涙が流れました。 でも、それは嵐の始まりに過ぎなかったんです。 🌿
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その2 お母さ~ん! 道の向こうから男の子がかけてきた。母親の座ったベンチの正面に回ると、満面の笑みで顔を覗き込んだ。 あのね。お父さんがカブトムシを見つけたの!こんなに大きいのだよ!それで、近くのお店にケースを買いにいこうって🎵 すぐそこのお店だよ。お母さんも行く?すぐ近くだから、ここで待っててもいいよって言ってたけど。。 男の子の様子に母親も笑顔になって答えた まぁ、それはすごいわね。 ママは、久しぶりにお花を見ながら風に吹かれてみたいの。少しの時間なら、ここで待っていてもいいかしら? 男の子は、コクリと頷くと手に持ったシャボン玉の入れ物を母親に渡した。 これ、ママに貸してあげる。 シャボン玉作って遊んで待っててね! そう言うと、また、もとの道をかけて戻って行った。 男の子から渡されたシャボン玉の入れ物を持つ母の腕には、注射の跡らしい絆創膏が貼られていた。女性と目があい、2人はニッコリと微笑んだ。 お具合が悪かったんですか? 今日、退院したんです。 外の光がこんなに眩しくて、すっかり夏なんでビックリしてます。 優しい風が、ベンチに座る母親の白いスカートの裾をヒラヒラと揺らしいていく。 真っ白なアガパンサスが、緑の葉の海に白い雲を浮かべたように、あちこちでキラキラと光りながら揺れている。 🌿
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soraの物語 🌿アガパンサスの咲く庭で🌿 その1 公園に続く道を アガパンサスの花が ゲートのように 並んで出迎えてくれる 春の若葉のしたで ぐんぐん育った緑の葉 春が終わる頃 花を包んだかわいい袋が 頭巾を被った子供のように 葉っぱの茂みを飛び出して かわいい顔を覗かせていた 長い雨の季節には 沈んだ気持ちを励ますように 夏の夜空を彩る 花火のような花を開いて ストローよりも細い茎が 花を支えてゆらゆら揺れる この花の名前を アガパンサスと知ったのは ついこの間だったのに 早いものね アガパンサスの咲くベンチに 座った老婦人が 庭に遊ぶ小鳥たちを眺めながら ポツリと呟いた 繁った枝から透けた光が 婦人の膝へ降り注ぎ いくつか並んだベンチの前では 小鳥たちがエサを探している 時おり聞こえる小鳥の声と 蝉の声に 静かに時が流れていく その時 お母さんらしい女性の手を引いて 小さな男の子がかけてきた ねぇ ここのベンチに座ろう ママ疲れたでしょう 座って良いよ 僕ね シャボン玉を見せてあげるから ストローを口にくわえると 男の子が作ったシャボン玉が 虹色に光りながら キラキラと風に乗って アガパンサスの花の間を 飛んでいく 少しすると 向こうから歩いてくる人影に 男の子が手を振りながら 駆け出した お父さ~ん ここだよ~! お母さんと呼ばれたその女性は 駆け出した男の子を見送ると 老婦人の方に顔を向け 軽く会釈をして 優しく微笑みながら 隣のベンチに腰かけた うるさくしてご免なさいね あの子には寂しい思いをさせてしまって 今日は嬉しくて はしゃいでいるんです 老婦人は優しく笑って 女性のほうに体を向けた とんでもない 綺麗なシャボン玉を 見せてもらったのなんて 何年ぶりでしょう 子供の声を聞くと 元気が出てきますよ 🐝🌺東京 晴れ 35℃ 今日の花 アガパンサス 大好きな花です 花に元気をもらって 新しい物語を書いてみようと思いました。 物語に出てくる花は、アガパンサスOnlyでいこうと思います。 物語と一緒にいろんな表情のアガパンサスの花も楽しんでいただけたら嬉しいです🎵 どんな話になるかは、これから書きながら考えます😁 良かったら、見てくださいね💖
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