『カラスウリ』

ママ〜、
ボク、カラスウリって嫌い。

犬の散歩をしながら赤く熟れたカラスウリを見つけた息子が言った。

あらっ、なんで？

だって〜、
コイツの種、カマキリなんだよ〜。

そう言って、もぎ取ったカラスウリを足で潰してみせた。
ねっとりした果肉の中からこげ茶色した小さな種がむき出しになった。
岩山から滲み出た水でそれを洗った。

ほらっ。
三角形のこの形、カマキリの顔してるでしょう。
ボク、カマキリの逆三角形のこの顔が嫌いなの。
怖いんだもの。
だから、カマキリもカラスウリも嫌いさ。
弟が生まれたら教えてやるんだ。

得意気な顔をして、私の大きなお腹を撫でた。

当時の私は、カラスウリの花がこんなに美しいことを知らなかった。
彼は、知ってるのだろか？
母の葬儀の折り、撮りためてたカラスウリの花を見せながら昔の話しを語って、聞かせた。
覗き込んで来た次男が口を挟んだ。

なんだ、俺がカマキリ苦手なの、兄貴の刷り込みだったんだぁ〜。
やっと納得したわ。
恥ずかしいから誰にも言わへんかったけど、、。
いい年して、情けないわね。って彼女に笑われるんだ。
でも、ダメなものは、駄目。
あの逆三角形ぇ〜。

居合わせた誰からも、どぉ〜と、笑いが漏れた。



たった数ヶ月前の事だった。
もう、あの子はいない。