翁は皆の模範となるよう、木の幹に捉まり、死んだように動かなかった まだ死んではいなかった 静かに死んでいこうと思った 翁の家は遠く西のほうにある 家族はそこに住んで今も楽しく暮らしているはずだ 誰の目にも触れず　ひっそりと朽ちていくことを選んだ 悲しくはなかった 楽しかった いい人生だった 陽の光さえ嬉しかった 翁は生まれてきてよかったなあ‥と心から思っていた アスナロと老いた蛾 〜センチメンタル週間〜

灯りのともる窓の奥 楽しい夕げがあるだろう 夏の終わりの風にのり 花の香りがするだろう わたしはひっそり夜にでて 月のあかりで散歩する 地際で咲く夕顔 〜センチメンタル週間〜

シャワーを浴びたら生き返った 乾いたハートも潤った 調子にのって僕はまた やらかした 犬が遠くで笑ってるけど こう見えて結構傷つくんだぜ ホースシャワー下のコキア 〜センチメンタル週間〜

夕焼けの茜色が目の中に入ったら チクッとして 昔のことが蘇ってきたが 痛くて涙と一緒に出ていった 琵琶湖のほとりの彼岸花 〜センチメンタル週間〜

ふたりは湖岸までやってきた 胸がつまってなにも話せなかった 別れというのは人を成長させると言うが、そうだろうか 幸せだった時のままで止まってしまうこともあるのではないだろうか こちらへおいでと誰かが手を差し伸べても、その手に気づかないこともあるのではないだろうか 池の真ん中で、何処へも行けずに小舟に揺られていることもあるのではないだろうか 琵琶湖のほとりの白詰草 〜センチメンタル週間〜