きれいなものばかり集めている姫さまがいました

最近集めたものは海のある国からやってきた赤い珊瑚とシルバーの糸だけで編まれた小さな髪飾りでした

使ったり身に付けたりするわけでもなく
コレクションしているだけなのでした

数あるコレクションの中には
生きた蝶もいました
ビロードのような漆黒色の羽根に瑠璃色のスポットの入ったそれはそれは美しい蝶でした

ガラスの入れ物に蓋をして、時々あけては空気を入れてやりました

蝶はガラスの中で弱々しくぱたぱたと羽ばたきました
姫さまは生き物を飼ったことがなかったので
蝶が長くは生きられないことを知りませんでした

蝶は段々弱ってきて、ある日　動かなくなってしまいました

日が経つにつれ蝶の身体は小さく干からびてボロボロになっていきました

それでも羽根はまだまだ美しく生き生きとしていたので姫さまは満足でした


大人になって姫さまは老いを考えるようになりました

その頃にはガラスの蝶はもう綺麗な羽根だけになっていて、姫さまは綺麗なままでいられる蝶の羽根を羨ましいと思いました

コレクションの品は集めることから使ったり身に付けたりすることに変わっていきました
姫さまは老いないように自分を磨くことに一生懸命でした


月日は流れ　そこには死をみつめる姫さまがいました

髪の毛は白く頬には深い皺がきざまれていました
かつては生気に溢れた悪戯っぽい瞳も灰色に濁って見えにくそうでした

姫さまはガラスの蝶を手にとると庭にでました
杖をついていました

白いお花が咲いている柔らかそうな土の場所に来ると、そこに蝶を埋めました

正しく言うと、身体はもう無かったので蝶の羽根だけを埋めました

そして姫さまは泣きました

お弔いをしてあげていなかったことにやっと気づいて泣きました
きれいな蝶の気持ちになって泣きました


〜セネシオ エンジェルウィングス〜