シモンに捧げる4つの花言葉　　　　　　

車の屋根に乗り、こちらを見据えるシモン。
いつも邪気のない、あどけない顔をしている。
そして常にこう問いかけているようだった。
「ずっと此処にいていいのですか」
静かで、誠実な彼のことが大好きだった私は、シモンの背後に見えるアイビーの花言葉「不滅」の「友情」でその問いかけに答えるつもりでいた。

六蓮家の婦女子に、いつも嬌声をあげさせたシモン。潤んだ瞳で、嘆息まじりに婦女子会一同は彼を室内に招こうとしたのだが、その誘いに一度も応じることはなく、庭に植えたツツジの根元に好んで横たわった。その花言葉である「節度」と「慎み」を私は備えているのだと。
　　　　　　　　　　　　　
十月の終わりの夜、いつものようにシモンはツツジの下に伏せていた。そこに突如、長毛の迷い猫があらわれた。左頬に深く抉りとられた傷痕があり、胸元を鮮血で染めた巨きな体躯をドタリと横たえた。
シモンは立ち上がり、窓辺にいた私を見た。
そしていつもの表情でこう問いかけた。
　「もう此処にいてはいけないのですか」
シモンは歩きはじめた。細い体躯と長い手脚でゆっくりと、ダリアの花言葉「華麗」に「優雅」に「気品」を漂わせながら。

あれから二か月が過ぎた。六蓮家の庭に住みついた迷い猫のハート(身体にトランプのハート模様が三つある)は、今日も日課としているオッドアイの白野良猫との抗争を終えたあと、拍子抜けするほどあどけない顔を見せ窓辺に食事の催促にくる。
私はハートに話しかける。
　　「ずっと此処にいていいんだよ」

そして静かに六蓮家を去ったシモンに、その花言葉とともにアツモリソウを捧げます。
　　　　　「君を忘れない」