KAMOセレクション｢キューピット｣

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駅のベンチに白いアジサイが置かれている。
誰かの忘れ物だろうか。
そばに寄って見ると小さなカードが差し込まれている。

｢この花を持って金時計の前で待っていて｣

金時計？名駅の？

思わず鉢を持ってしまった。
金時計に行けば持ち主関係者が来るのなら……。

金時計の下に立って間もなく
同じ白いアジサイを持った青年が現れた。

お互いに声を掛け合って笑う。
感じの良い人だ。

｢新手の詐欺か何かでしょうか｣
｢かもしれないですね
次から次へとアジサイ抱えた人が集まるのかな？｣

しかし次の人は現れず
結構な長い時間ふたりで待ち続けた。
会話は楽しく退屈はしなかった。
白いアジサイを抱えたふたりは
人の目にどんな風に映っているんだろう。

｢誰も来ないですね。
立ったままだと疲れませんか？｣

すでに3時間以上が経過していた。
人見知りする自分がこんなに長く話しているなんて
信じられない。

｢コーヒー好きです？
近くに 美味いコーヒーの店あるんですが｣
｢行きます！行きたい！｣

食い気味に答えて恥ずかしくなった。
つられて彼の笑顔が嬉しそうだ。

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数年後、私たちの庭に大きなアジサイの株が
ふたつ並んで白い花をいっぱい咲かせている。
肩を並べて花を眺めコーヒーを飲むと
しみじみ幸せな気持ちになる。

アジサイ好きなお隣のおばあちゃんが
｢これ！加茂セレクションの“キューピット”じゃない！
欲しかったけど買えなかったアジサイなのよ｣

夫の驚いた目が私を見る。
私も驚いて夫の目を見た。

そうか、キューピットだったんだ。

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な〜んてことがあったら
楽しいなーと想像してみた。

ちなみに私はお隣のおばあちゃんの役ね(笑)