義父のご実家には、みかんの木が1本、植わっている。

義父が幼い頃に植えたらしく、こう見えてもそこそこご高齢な木なんだとか。

長い時間を経ていく間、この木は何度も植え替えられ、場所を変えられ、それでも枯れずに育ち続け…
でも、それが原因なのか分からないが、実はなかなか付けなかったんだって。

そして、かなりの年月を経てようやく実ったと思ったら、酸っぱくて食べられたものではなかったんだと、義父は言った。

「何度も植え替えたからなぁ…。
まぁ…枯れずに実がなるだけ、良かったんやなぁ…」

と、毎年たくさん実るオレンジ色の実を鑑賞すること数十年…

その間に、長男(うちの旦那さん)が結婚し、子供が出来て大きくなって…

ちょうど娘が高校生の頃だったか…

いきなり義父が、とっても嬉しそうに教えてくれた。

「ミカンが今年はめっちゃ美味しくなってる！」

旦那さんは、幼い頃からこのミカンが美味しくないことを知っていたので、義父のその言葉に半信半疑な表情を浮かべていた 笑
でも、義父があまりに嬉しそうにそのミカンを差し出してくるので、恐る恐る口にする。
娘は無類のみかん好きなので、なんの疑いもなく口にする。

ほぼ同時に、父娘が果実を口にした瞬間

「「おっ、美味しい〜っ!!!!」」

よく似た父娘が、同じ表情で、同じ口調で、同じ言葉を口にした 笑

そして私は見逃さなかった。

義父が、それはそれは嬉しそうに、誇らしげに、見た事ないような良い笑顔を浮かべた瞬間を…

「ありがとうなぁ。よう頑張ったなぁ。えらかったなぁ。美味しいみかんやったで。」

そう言って、みかんの木の幹を優しく何度も撫でていた義父のあの表情は、きっと私は、ずっとずっと忘れないと思う。

きっと今年も美味しいみかんを実らせてくれるでしょう。

楽しみにしてるからね。

毎年、美味しいみかんをありがとうね。